ゼロと覚悟


もはや道路を走らない車の中でコナンくんから貰った軌道のデータをコンタクトに入力する。だが、軌道だけでは正確に迎撃することは出来ない。ましてや絶対に人がいない方向に調整するのはこの情報だけでは絶対に無理だ。
「もっと詳しいデータはないの!?」
「これ以上はハッキングでもしない限り無理だ!」
ハッキングをしている時間はない。でも、もしかしたら既にハッキング済みのデータがあるかもしれない。白蘭に電話を掛けるとワンコールで繋がった。
「どうせハッキングしてリアルタイムで見てるんでしょ!」
名前すら言わずに用件だけ叫んだのに白蘭はそれすら予想していたように楽しそうに応答する。
「キミのせいで監視が強化されたんだよ?」
「はくちょうを楽しみにしてたあんたが見てないわけないだろ!?」
これは勘をもとに鎌をかけただけだった。
「ふーん? いいんだ。公安に捕まったキミがそんな動きをして」
やっぱり、ハッキングをしていたのか。その上私が公安の者といることを知っている。聞きたいことは山ほどあるがそれは後で聞こう。
「どうせNorを試した後、足のつかない別のシステム使ってるんだから」
「無茶言うなぁ」
「早く送ってよ。あ、保護された回線使ってね」
車はコナンくんの指示で建設中のビルへ向かう。ハッキングされた不備のないデータが送られ、ビルの位置情報と共に入力するとコンタクト型ディスプレイは完成した。

RX-7は猛スピードで『エッジ・オブ・オーシャン』を走り、コナンくんの言う建設中のビルに到着した。
資材運搬用の大型エレベーターに車ごと乗り込み車は停止した。コンタクトを目に入れて匣を開けるため車から降りる。
「ここも危ないから逃げた方がいい」
コナンくんは私がただ逃げるために車に乗ったのだと思っていたのか。

「逃げないよ。自分の罪は自分で償う。それが、私の覚悟」

匣を開匣し、飛び出した二匹の羊。片方はマントに、もう片方は大口径の対物狙撃銃に変化させた。RPGでは射程が足りず、バズーカでは装填速度が遅い。弾丸の軌道を途中で修正出来るようにミサイル弾にした。
マントは銃が傷つかないようにするため。本当は安室さんとコナンくんに掛けたいけど、大きな威力と精密さが求められる今回は出来ない。

先ほどよりもずっと傷が増えたボンネットの上に乗り安室さんにゴーグルを渡す。
「どこからそれを」
黒いマントとライフルを見てそう思ったのか。視線はゴーグルに向いてない。
「さっき拾った」
「そんな、マントまで」
匣兵器について説明するつもりはない。無視してゴーグルについて話し始める。
「このゴーグル、戦車とか乗る時のだから強いよ。あ、ディスプレイになってるから下手に触っちゃダメだよ! 車の運転とか想定してないから」
本当はモスカに乗る用だから、下手に触られたら困る。
「拾ったものをそう簡単に使える訳が」
「じゃあ私の持ち物」
「そうか」
安室さんはそう言ってゴーグルをかけた。やっぱりこの人の顔は整ってるな、と思った。

車の上に乗り、二脚の上にライフルを置いて寝そべる。マントはライフルと私を覆うようにした。コンタクトディスプレイと連携したヘッドセットから聞こえる音声に従って炎を充填していく。

車の中でコナンくんが安室さんに彼女がいるか尋ねている。
気になって安室さんの声に集中すると、「僕の恋人は……この国さ」なんて聞こえたものだから少し笑ってしまった。ポアロでナンパする人が言う台詞じゃない。

「大丈夫? 千代さん」
コナンくんが上にいる私に対して呼びかけた。
「大丈夫だよ。安室さんの恋人を守らなきゃいけないからね!」

カウントダウンの声が聞こえると空転した後輪から煙が上がった。
「ゼロ!」
安室さんとコナンくんの声と同時に車は飛び出した。

高さが足りないため、スピードを上げながら鉄骨の階段を駆け上がったRX-7は大きくジャンプし、外に飛び出した。コナンがサッカーボールをキック力増強シューズで蹴ってすぐに千代さんが持っていた大きなライフルの発射音が聞こえた。
そして、車の上から飛び出した千代さんは落下しながら空中でライフルを構えた。しおりを挟む
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