ゼロと射撃


犯人の後をつけていると、犯人の前に安室さんとコナンくんが見えた。二人がどうやら男を犯人だと指摘したようで彼は一目散に駆け出した。その後ろを安室さんとコナンくんが追いかけて、私もこっそり追いかける。会話が聞こえる位置で身を潜めていると、はくちょうの帰還カプセルを警視庁に落とすと犯人は言っていた。
公安警察のしたことや思惑が判明し、はくちょうの軌道を修正するコードを泣きながら話した犯人は軌道の修正が確定しないことを知り、安室を突き飛ばして警視庁の屋上へ向かった。公安がとった人質の元へ向かう為に。
もちろん安室さんもコナンくんも、私も追いかける。警視庁の中など把握出来ていないので距離を取ることが出来ない。きっとすぐにバレてしまう。
それでも見晴らしの良い屋上のヘリポートで隠れるとなると距離が離れて、会話は完全に聞こえなくなった。盗聴機もないのでちょっとまずい。

「いい加減出てきたらどうですか!」
安室さんがこちらに向かって叫んだ。やっぱりバレてたか。犯人は部外者の登場に少し狼狽えた。安室さんとコナンくんは気付いていたようで驚きもしない。

「お前の力を貸してくれ」
安室さんがその爆薬を用意する。そして太平洋まで軌道を変えられる爆弾をドローンでカプセルにぶつける為、爆弾の威力を出来るだけ大きくしてほしいとのこと。計画の発案者はコナンくんだと言うのだから驚きだ。

「そんな、解体でさえ爆弾は細心の注意を払わないといけないのに改良だって!? ここで爆発する恐れもあるのに危険過ぎる!」
コナンくんは爆薬を用意するように言う度胸はあるのに安室さんの言うことは信じてないのか。いや違う、私を信じてない。
「そんなヘマしないよ」
「彼女は組織で爆弾を作っている。この中では誰よりも慣れている。そうでしょう?」
「腕は信用してもらっていい。その前に、」
犯人の側へより、白蘭の写真を取り出す。
「この男を見たことは? 白蘭の名前に聞き覚えは?」
「は? 誰だそれは」
犯人はかぶりを振る。
「誰かに唆されたり、背中を押されたりはないの?」
念を押しても否定の言葉のみ。
「恨みがあるのは公安だけだ。そんな奴は知らない!」

犯人が声を荒げたところで安室さんの部下が用意した爆薬が屋上に届いた。
「公安鑑識が押収した爆発物の中で、最も威力の大きいものです」
安室さんの部下は私を睨むと、部外者がどうして、と小さく呟いた。
「爆薬って、これもう完成してるじゃない!」
「ああ、頼む」
「追加の爆薬をありったけ持ってきて! 耐荷重ギリギリにするから」
「風見、頼む」
爆弾を全てバラす時間はない。限られた重さの中で威力を上げる為、パソコンに数値を打ち込んでいき、用意された工具で爆弾を弄る。

「人使いが荒いんだから……!」
一言だけ文句を言ってからは黙々と作業し続けた。爆弾のデータをコナンくんに言われたところに送り、完成した爆弾はドローンのロボットアームに掴まれた。少しふらつきはあるものの上昇していった。
「本当にやりやがった……。それもこんな短時間で……」
コナンくんは私の手元を見ていたからそんな風に呟かれると傷つく。安室さんの言う通り私は爆弾には慣れてるんだって。

ドローンが飛んで行った方角にプラスチック爆弾特有の青い閃光が見えた。無事にパラシュートは開いたらしい。犯人が逮捕され、そして私も同行を要求された。
安室さんは私を利用しておきながら逃がすつもりはないらしい。安室さんの部下に両側から挟まれた。
頼んだのは安室さんなのに、犯罪者扱いとは。
「待って! 軍人だって爆弾くらい扱うわよ!」
「なら所属と階級を言ってみろ」
コナンくんも口を挟まず、黙って鋭い目で様子を窺っている。

「所属は……第0番部隊。階級はA。副隊長だって伝えて」
もし、警察内部に未来の記憶を受け取った者がいたのなら、きっと私の行動は分かってもらえる。
せめてもの抵抗として私はゆっくり歩く。安室さんはコナンくんを褒めているのに、私にはこの扱いか。ひどいと思っていると安室さんが不穏な声を発した。

軌道が修正されたカプセルの落下予測地点が、三万人が避難している東京湾の埋立地『エッジ・オブ・オーシャン』であり、もう迎撃は出来ないと聞こえた。コナンくんと安室さんは階段に向かって駆け出した。
両脇の男が怯んだ隙にパソコンの入った鞄を奪いとり走った。階段を駆け下りる。視界に入ったコナンくんと安室さんはフロントガラスのない車に乗り込むところだった。
「ちょっと待った!」
エンジンをかけた車のボンネットの上に乗り、運転席と助手席の間を潜り抜け後部座席に滑り込む。後部座席はスポーツカーなだけあって狭い。
鞄が車のシートに着地した頃には既にスピードを上げており後戻りは出来ない状態だった。

「ひどいよ安室さん! 第0番部隊の隊長よりはマシだけど!」
「勝手に乗るな!」
「フロントガラスがないのが悪い」

文句を言いながらパソコンを開き、コンタクト型ディスプレイを接続する。コンタクトはスパナがツナのために作ったものを私用にカスタマイズしたものだ。急に傾いた車内に片輪走行で渋滞に突っ込んだのだと理解した頃には文句を言う気力もなくなっていた。安室さん、運転上手い。
危険過ぎるドライブの中、ある程度までコンタクトの調整が終わると、スピーカーから安室さんの部下の声が聞こえた。彼は切羽詰まった様子であと五分でカジノタワーに墜落する。そしてデータをそちらに転送すると言った。
「コナンくん! そのデータ貸して!」
「えっ!?」
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