全員まとめて愛するから
「この後ヒマ?」「まぁ暇といえば暇……?」
日も暮れてあとはご飯食べてお風呂入って寝るだけ。予定はないし、任務はさっき終わった。
「俺も。海の部屋行っていい?」
「女子寮だけど……? 何か欲しいのあったら悟くんの部屋持ってくよ。ほら、ゲームとか」
「じゃあ来てくれんの?」
「男子寮に行くのは多分いいんじゃない? 行くよ」
「よっしゃ、買い物してからな」
スーパーはギリギリ閉まっていた。食堂ももう閉まっているし、今から何か作る気力もない。
コンビニに行くつもりではあった。じゃ、行くかと悟くんが私に近づく。
買い物にわざわざ歩いて行きたくないのはそうだったけど、便乗しようとする悟くんに思うところがないわけではない。
いつものことだからため息も吐かず、コンビニの近くまで瞬間移動。悟くんをパシることもあるくせに私は都合よく忘れている。
コンビニに入ってお弁当をカゴに入れる。
「悟くんは何食べる?」
返事がなかった。悟くんは近くにいなくて、コンビニを歩くと飲料コーナーにいた。何を買うのかな、と見ると一生懸命見つめる先は、お酒。
「どうしたの?」
「海って何飲むの?」
「私? 何でも飲むけど……ウイスキーとか?」
「うまい?」
「まぁ一応? 甘いし……。悟くんが見てるビールは苦いよ」
「マジ? どれが甘い?」
「この辺のチューハイとか……あとこれとか……」
私が指差したものを私のカゴに放り込んでいく。どんどん重くなっていくんだが。私が買うのか。
悟くんが瓶の並んでいるあたりに歩いていく。
「ウイスキーは私の部屋にあるよ」
「そう」
悟くんは瓶を手に取ることなくお菓子コーナーへ。瓶が加わったら流石に持ちたくない。
ポテトチップス、チョコレート、ビスケット。これまたぽいぽいカゴに入れていっぱいになったら新しいカゴを取って、お弁当を入れていた。どれだけ買えば気が済むんだろう。お金持ちとはいえ、スーパーで買えばいいものをコンビニで買うなんて。最後にショートケーキを入れて、私の持っているカゴを奪った。
「え?」
「まだ欲しいものあるの?」
「いや、ないけど……」
悟くんはおかしい。お金持ちで感覚がズレてるところがあるとはいえ、以前にコンビニに来た時はこんなことしてなかった。
「どうしたの、悟くん。何がしたいの……?」
悟くんは下を向いてポツリといった。
「酒を飲んでみたい」
悟くんは瞬きを何度も繰り返して、耳は真っ赤で、唇を噛んだ。
「悟くん、お酒飲んだことなかったの?」
「なんでみんなあるんだ」
「席に置いてあったりするでしょ」
「ねーーーよ!」
悟くんは常に気を遣われる立場だから席に置いてあるお酒はどけられるんだ。
小学生の頃はお酒がどけられて、オレンジジュースの瓶が代わりに置かれた。親がそうしてくれたのもある。中学に入ってから、誰も何も言わなかったから背伸びしたくて、置いてあるものをそのまま飲んだ。
悟くんの前に置いてあるオレンジジュースの瓶を想像して、ちょっと笑った。
「笑うな!」
「大事にされて来たんだもんね」
「そんなことねーよ」
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