傲慢なのは私だけ?

小学生の頃から大人に手を引かれて呪霊を祓った。当時流行っていた日曜日の朝のヒーローや魔法使いのように自分には特別な力があると疑わなかった。ヒーローだから人を助けないといけないと何も疑わなかった。
私のために人が死んでもその人のために悪を成敗しないといけないと思っていた。

天才と持て囃された私は、中学生になってしばらくすると一人で任務に向かうようになった。

小学校、中学校で人を殺しちゃいけませんよ、犯罪はいけないこと、と道徳の授業は見に入らなかった。だって教室にいる人たちは私を守るために人が死んでいくことを経験していないし、私が弱かったせいで助けられず人を殺してしまったことを知らない。

「仕方ない」「海が生きていてよかった」と声をかける大人たちの方が先生より「現実的」だと思った。


私のミスで私は人を殺した。私の術式の発動が下手だったせいで一般人を殺してしまった。
周りには誰もいない。

これは仕方なかったこと、といつものように思う。今まで大人に言われていたように。自分が自分に言い聞かせる。私は誰にも言わなかったし報告もしなかった。

「一般人の救出が間に合わず死亡」

報告書は何事もなく受理され、何も言われることなく、その後も任務が入る。


中学校を卒業して、呪術高専に入学しても触れられることはなかった。
私はずっと怯えていた。人を殺した、罪を犯してしまった。正当防衛でも何でもなく、私の能力のミス。
包丁をうまく使えなくて人を刺して殺しちゃいました、と言ったところで無罪にならない。

ビクビクしながら高専の門をくぐったのを覚えている。
高専には、同級生には、六眼を持った人がいると知っていたから。

怯えながら教室にいると背の高い、白髪の生徒がずかずかと入ってきた。その人の瞳は青く光っている。
全てを見透かすような瞳が私を見ると、男が笑ったような気がした。まるで馬鹿にするように。


六眼の存在。
最強をより最強にする瞳。
私にはない、見た目の特徴。一目で六眼だと分かる蒼く輝く瞳を持った男は、何もしなくても特別だと分かる。

私は何もしなければ、非呪術師と見た目が変わらない。殆どの呪術師がそうであるけれど、私は天才と言われて育ってきたので殆どの呪術師と同じというのは宥めにならなかった。

六眼は万能ではなく、殺人を見透かす能力はない。
その事実に気付いた時、私には惨めさと悔しさだけが残った。

五条悟は、私の同級生だ。私を鼻で笑い、「たいしたことないな」と言った。

天才と持て囃された私は15歳という万能感とちょっとやらかしても大丈夫という経験により五条悟を空中に放り出した。投げ飛ばすことは出来ないから、瞬間移動させた。

そして私はその上に瞬間移動して、五条悟が落ちていくのを眺めて、擦り傷と軽い打撲で済むように五条悟の身体を地面スレスレに瞬間移動させた。

「六眼ってたいしたことないじゃん」
「てっめぇ……」

六眼があっても受け身は取れないし、別の場所に移動することも出来ない。私は術式で瞬間移動が出来るけど、五条は出来ない。

私は一番最初に問題児認定され、同級生――夏油と家入は笑っていた。笑うような人間は多分同類で、私は仲良くなれるといいなと思った。




私の術式は瞬間移動。超能力みたいだけど、呪力を使った歴とした術式だ。黒乃家は術師の家系だが、黒乃家には相伝の術式はない。私たち一家は時間と空間の把握を得意とするようで、私は瞬間移動の術式だった。術式が所謂念力の術師もいるし、空間固定の術式を持った術師もいる。

とは言え、そのような術師は百年に一度しか現れないし、殆どの術師は目を瞑っても周りがわかる程度のもので、瞬間移動を獲得した逸材だった。

空間を把握して、目に見えないものが解るのは術師として成果を上げるようで、家はそれなりに大きいし、権力もそれなりにある。御三家ほどではないが。


だから、「六眼持ちの五条」が落ちていくのを眺めるのはとても楽しかった。私は念力が使えないから自由落下に身を任せつつ適度に瞬間移動して、着地をしなければならない。私は地面に着いてお腹を抱えて笑った。何か仕返してくるのかと思ったけれど、彼は何もしてこない。

まさか、手遅れになっちゃったとか。ちょっと誤魔化しが効かないぞ、と観察するもプルプルとしか動かない。筋肉の痙攣か。

「まさか、死んでない……?」
「死んでねーよ」

新品の制服を砂埃で真っ白に汚した五条悟が顔を上げる。良かった。死んでなかった。
「お前、名前は?」
「黒乃海。君は五条悟でしょ。同級生の名前は皆知ってるよ」
名前を知ってるのは五条が特別だからではない。他の同級生の名前も把握しているのだ。

「は!? 海!? 黒乃の!? 違うでしょ前と変わり過ぎ!」

変わったのだろうか。というか五条悟に知られていたとは。家の用事で会ったようなないような。というか悟はそういう「ちゃんとした場」にいないことが多かったから私は瞳から悟だと認識した。

「前はもっと明るかっただろ! 髪!!」
「あ、ミルクティーみたいな、ゴールド? ゴールデンレトリバーのゴールドみたいな色だったか。黒染めしたんだよね」
「不良だ!」
「地毛を黒くしたんだから真面目なんじゃない? 校則で黒く染めるとか聞くし。悟くんの――」
悟くんの地毛も明るいし、と続けようとして、続けられなかった。

「黒乃」

背後から男性の声。振り向くと担任の先生がいた。
「入学早々同級生をいじめる奴とは思わなかったぞ……」
「いや先生、喧嘩が売られたからで……」
「喧嘩売られるところも買うところも教室で、先生いただろ」
先生は大きなため息を吐いて私と悟くんを教室に連れ戻した。

夏油くんはいかにも不良な感じに制服をカスタムしているし、ピアスバチバチだし、髪も長い。
不良って感じなのに物腰は柔らかくて、ナチュラルに失礼。でも私と仲良くしてくれる。
硝子ちゃんは大人しそうでいい子なのかと思ったら、制服のポッケにライターとタバコが入ってたし不良だった。


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