周囲との乖離
障害物競走の上位何人かが次の競技に進めるシステム。
嬉しいことに私は参加しなくていい。地雷を平気で設置されていて、それを切り抜けた人のための競技なんて真っ平御免だ。

かっちゃんはなんと三位だった。啖呵切るだけあるな、と感心した。あと、客観的に見てもかっちゃんはすごい人なんだなぁって思い知らされた。

一位が緑谷くんなのはびっくりした。二位が轟くんなのも。

私は障害物競技に参加している最中に仲良くなった経営科の人のお手伝いでコーラを売ることになった。来賓席の近くの通路や、観客席に行けば生徒席よりもいい場所で見られるし、暇も潰せる。
かっちゃんの応援以外すること以外にやることがないから、暇なのだ。


クラスのみんなは悔しがったり、盛り上がったり、観戦を各々で楽しんでいるけど、どうしても同じようにはなれなかった。
普段雄英の体育祭を見ないから慣れてないからかもしれない。

他の学年の競技とか見ても怖いとかやばいとかっていう感想しか出てこないし、正直言って楽しめない。
未成年にやらせることじゃない、って思ってしまうのは個性を使わないで生きてきたせいなのかな。

コーラを売っている方が楽しく感じる。コーラが沢山入ったケースは重くない。集まった小銭の方が重いくらいだ。
ケースには個性が使われていて、このケースに入っているものは入っている間は何でも軽くなるのだそう。
おかげで、私は大した筋肉もないのにコーラが沢山入ったケースを持ち運んで売っている。

今は何の種目もない休憩時間だから、少しだけ足をのばして色んなところを回っている。
かっちゃんの活躍を見るためにいい場所を探したかった。

「そこのコーラ売ってる女の子ー! こっち来て〜」
「はーい」

こっちこっち、と招かれた先はスタッフオンリーの休憩室で、ヒーローが勢ぞろいだった。
警備のために呼ばれた方々だろう。ネックストラップがヒーローコスチュームから浮いている。

休憩室は少し煙臭くて、灰皿の上にはいくつかタバコの吸い殻があった。

「買われるならお札の方が嬉しいです。お釣りが増えてかなり重いので……」
「いいよー!」

Mt.レディは「一本ね」と千円札を渡した。
お礼と共にコーラを渡すと、蓋を開けて美味しそうに飲んだ。CMみたいだ。

シンリンカムイや他のヒーローも千円札でコーラを購入してくれたため、小銭はかなり軽くなった。ありがたい。

休憩室を出ると、またもや別の人に呼ばれた。ここらはスタッフルームになっているらしく、色々な人がコーラを買っていった。

そうしているうちに母を見つけた。私が声をかける前に母は私に駆け寄った。

「どうして陶子がここにいるの!?」
「コーラ売ってて。こっち来てって呼ばれて、それが終わったらどんどん奥で呼ばれてとうとうここまで――」
「コーラ売ってるの?」
「うん。ママ、コーラ買う?」
「陶子が売ってるの!? 買うよ。二本ちょうだい」
「まいどあり〜」
「はい。一本は陶子に」

先ほど渡したばかりの冷たいコーラを母は私に差し出した。

「いや商品飲んでると思われるから受け取れないよ。重いし、今もらっても正直困る」
「あー。そっか。じゃあどうしよ」
「飲めないなら誰かにあげれば? プレゼント・マイクとか」
「それならイレイザーヘッドにもあげないと。追加で買うわ」
「まいど〜」
「そうだ。お昼は一緒に食べようね。お昼休憩のときはライン確認してね!」
「はーい」

カメラはスマホじゃなくてデジカメを持ち歩いていたから、連絡することを忘れていた。スマホを持ち歩くのもいいけど、写真を撮ってるとすぐ充電がなくなってしまう。
体育祭ではデジカメを片手に歩いて、友だちと会うと一緒に写真を撮っていた。
そういえば、かっちゃんとはまだ写真撮ってない。

かっちゃんと会えるだろうか。出来れば写真を撮りたい。
嫌がるかな。恥ずかしがるかもしれない。
でも、拒絶されなければ撮りたい。

競技中の中継ではかっちゃんと同じ画面に入ることは無理。
自分たちで写真を撮るから思い出に残るし、いいものだと思っている。
見返した時、撮っておけば良かったと後悔したくない。
お昼には声をかけられるだろうか。

小学校の時はかっちゃんと、かっちゃんの両親と、私の両親とでお昼を食べていたっけ。かっちゃんの両親に応援されたり、私は運動は出来なかったけど、運動会は結構楽しかった。練習は嫌だったけど、本番での嫌な記憶は少ない。

雄英の体育祭を予想よりも楽しめないだけで、嫌なことはない。ただ、期待を下回っただけだ。
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