生まれた悪感情に蓋をする日々
「失礼します」

昼休みに保健室で横になっていると、扉が開いて、緑谷くんが入ってきた。彼は大怪我もするけど、リカバリーガールのお世話になれるだけの体力がある。そしてリカバリーガールにめっちゃ怒られてる。

緑谷くんはビクビクしながら、周囲を見回す。

今、リカバリーガールはいない。

大怪我した子がいるからってリカバリーガールはついさっき出ていった。私はベッドで横になっている。
気分が良くなったら、戻っていいからねと言われている。午後の授業には出席するつもりだ。

「リカバリーガールはいないよ」
「うわぁ!」

緑谷くんはカーテンを開けて声をかけた私に驚いた。

「陶子さんいたの!?」
「うん。リカバリーガールなら大怪我した生徒のとこ行ったからいないよ。怪我の度合いによっては病院の付き添いで行くかもね」
「そっか……」
「どうしたの? リカバリーガールに治してもらいたい怪我?」
「いやいや。単なるかすり傷だよ。血が付くから絆創膏が欲しくて来たんだけど……」
「私、持ってるよ。教室だけど。いる?」
「いいの?」
「いいよ」

勝手に保健室の引き出しを開けて持っていくのはマズイだろう。大きいサイズの絆創膏は持ってないけど、緑谷くんの傷は普通サイズの絆創膏に収まりそうだった。

私がベッドから降りると、緑谷くんが慌てた。

「起きて平気なの?」
「うん。元々この時間になったら起きるつもりだったし」
「起こしちゃってごめんね」
「緑谷くんのせいじゃないって」

教室に向かう途中、緑谷くんはソワソワして落ち着かない様子だった。普通科の教室の方とか普段は来ないのだろう。
かっちゃんは私を迎えによく来るけど。多分、ヒーロー科では緑谷くんが普通だ。

「緑谷くんってよく保健室来るよね」
「そんなに行ってるかな?」
「リカバリーガールに怒られたら行き過ぎって言ってる人もいたよ」
「何で知ってるの?」
「よく保健室で休んでるから」
「大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ。雄英のカリキュラムが厳しいだけ」

緑谷くんはそれ以上聞いてこない。嬉しくもあるが、歩いていて何も話さないのはちょっと、キツい。何も話さなくても耐えられる関係まで至ってないから。

「ヒーロー科ってどんな感じ? オールマイトが先生だったりするの?」
「あっ、うん。オールマイトは本当にすごくてね――」

緑谷くんは堰を切ったように喋り出した。私は頷くのがやっとだ。
内容はオールマイトについてで、オールマイトがとても好きだということは分かった。
おかげで教室まで会話と呼べるかわからないが、どちらかが常に喋っている状況にはなった。

教室の前に着いたので、話を中断させてもらって、教室の鞄から絆創膏を取り出す。待っている緑谷くんに絆創膏を渡した。

「ずっと僕ばっかり喋っちゃってごめん!」
「全然いいよ〜。気にしないで」
「そ、そう? あと、絆創膏ありがとう!」
「どういたしまして」


緑谷くんの手はボロボロで、袖の隙間から腕は痣やかさぶたがちらりと見えた。

「他の怪我は痛くないの? それだけの傷は痛そうに見える」
「あ、うん。大丈夫」
「大丈夫か聞いてるんじゃなくて……。大変なことになる前にリカバリーガールのとこか病院に行きなよ。我慢した方が怒られるんじゃない? まあそこまでいけば怒るどころじゃないだろうけど」
「そ、それもそうなんだけど……我慢できるし」
「受診して我慢するのと受診せずに我慢するのは違うよ? 緑谷くんは怪我を診断できる医師なの?」
「……違うけど……」
「ヒーローになりたいなら自分の体大事にしなよ。なりたいのは助けられる側じゃなくて助ける側でしょ」

自分が健康で、不健康になる可能性を全く考えずに、何も考えずに自分の体に気を遣わずに暮らしていても健康な不健康に理解のない奴が一番ムカつく。気をつけていれば、すぐに病院に行けば、健康でいられるかもしれない可能性を自分で潰すから。
不健康になることは出来るけど、不健康になったらどう何をやっても健康に戻れないことなんていくらでもある。

「ちゃんと診てもらいなよ。もう絆創膏あげたくないから」

私は、小さな怪我を治してもらえるだけの体力もない。
緑谷くんは大怪我してもリカバリーガールに治してもらえる。それだけの体力がある。そして自分の身を顧みずに、無茶をして、怪我をしている。
大怪我をすれば緑谷くんのお母さんが心配して、病院に連れてって、病院で適切な処置をしてもらえたけど、今はそのお母さんが側にいない。
なのに自分で自分の身体を大切にしない。労わらない。

緑谷くんが自分を大切にしないで怪我をしたと知る度にイライラする。そして今、そのイライラが表に出る自分が嫌になる。
ちゃんとイライラを表に出さずに、「自分を大切にして」って言えたらいいのに。


「なんか、陶子さん変わったね」
「変わったのは緑谷くんだよ。私は元々嫌な奴なんだ」
「ごめん! 嫌な奴とかそういうのを言いたいんじゃなくて、絆創膏あげたくないっていうのも優しさからって分かってるし、でも」
「なに?」
「昔はそんなに保健室にいなかったから……」
「雄英がハードなせいだよ。あと普通は学校にマスコミが押し寄せないし。それに日常生活で怪我してる訳じゃない」
「そっかぁ……」
「緑谷くんは自分の身体大切にしなよ」
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