小説 | ナノ


▼ 幼馴染のシーザーちゃんと仮面カップルすることになってA(JOJO)

(大学生パロ)

あの日、キスをした帰り道。それから、わたしとシーザーの関係は、特に変わったこともなかった。強いて挙げるなら、時々キスを交わすことくらい。
焦りはしない。でも、自分の中で、彼への想いがどんどん膨らんでいくのを感じている。相変わらず、わたしの"我儘"を彼は聞いてくれているが、それも少し歪な気がしている。
わたしは、まだ彼に、自分の気持ちをしっかり言葉で伝えられていないからだ。

「それで、明日の話なんだが。もしよければ、おれが店を決めていいか?いいところを見つけたんだ」
「シーザーちゃん、あのね!そのことなんだけど」
「どうした?予定でも入ったか」

「その日、わたしの家に来てほしいの!」

わたしのどでかい声による宣言は、昼時のカフェテリアに大きく響き渡った。気がする。一瞬周りの学生がこちらを見て、また興味をなくしたとばかりにそれぞれの話に花を咲かせはじめた。きょとんとした顔で、わたしから目を離さないのは、目の前に座って食後のコーヒーを飲むシーザーだけである。

「……だめ?」

不安になって、情けない声が出る。シーザーは大きな手を顔の前でぶんぶん振った。

「いや、そんなことはない!その……いいのか?」
「うん。その、食べたいものとかあったら作るから……。講義、何限までなんだっけ?」
「5限までだ。そうだな、19時になまえの家の近くの公園で待ち合わせでどうかな」
「うん、分かった」

話はとんとん拍子で進み、わたしのやけにうるさい心臓の鼓動だけが取り残された。
明日、2人で出かけよう、というのはーー明日が、私たちが付き合って三ヶ月の"記念日"というやつだからである。
そして、その日ーーわたしは自分の口から、想いを伝えようと思っていた。この少し歪な関係を切って、もしできるのなら、世の中のカップルのかたちに正したいと。

そして来たる水曜日、3限まで講義を受けてパパッと自宅に戻ったわたしは、料理に精を出していた。19時までには温めたら食べられる状態にしておきたい。ちなみに、この話を講義中さんざっぱら聞かせていたジョセフからは、なんとも言えない微妙な顔をしたキャラクターのスタンプがたくさん送られてきていた。何だか言いたいことがあるらしい。

時間はあっという間に進んだ。18時半を回って、料理はメインに火を通すだけになった。心臓が心地よく高鳴る。
お化粧と髪型を直して着替えていたら、時間は待ち合わせの15分前になってしまった。鍵だけでいいかな、と、お財布もスマホも置いて家を出る。
待ち合わせの公園は、歩いて5分弱だ。はやる気持ちから、つい早足になる。

ーー到着した。公園の入り口に寄っていくと、男女の話し声が聞こえる。少し大きな声だ。何か大切な話をしているのだろうか、ちょっとタイミングが悪いなあ。
何となく気まずくて、公園を囲む植え込みに身を隠すようにしゃがみ込む。待ち合わせ場所を変えよう、とシーザーちゃんに連絡しようかなと考えて、スマホを家に置いてきてしまったことを思い出した。

男女の声が大きくなる。何を言っているかはここからはよくわからない。ちょっと野次馬心が湧いて、わたしは少し身を乗り出した。2人の姿が、街灯に照らされてぼんやりと見える。


「……あれ?」

ほろり、間抜けな小さな声が口からこぼれた。


**


人気のない住宅街を、わたしはふらふらと歩いていた。ひとりで。
頭が急に重くなってしまったように、俯いた顔を上げられない。足がぴりと痛んで、街頭の下でサンダルを脱ぎ捨てると、思い切り靴擦れを起こして血が滲んでいるのが分かった。突っかけで家を出てきてしまったから当然だった。気が付いてしまったら痛くてたまらなくて、サンダルは履き直さず、裸足で歩きはじめた。

ーーわたしはどこにいくんだろう。わからない。でも、今は帰れないな。

あのとき、公園でキスを交わす男女の姿を見た。そしてそれは、わたしを待っている筈のひとだった。
頭の中まで響く心臓の音、ざわりと立つ鳥肌とは裏腹に、脳みそはどこまでも冷静だった。あれはシーザーだ。シーザーが、知らない女の人とキスをしている。わたし以外の、女の人と。

気が付いたらその場を離れて、ただ歩き続けていた。時計どころか、スマホまで置いてきたのだから、今の時間はわからない。きっと、待ち合わせの時間なんてとっくに超えているのだろう。いま家に帰ったら、シーザーが近くにいるに違いない。いまは会えない。会いたくないーーいや、そんなんじゃあなくて、家に帰っても彼は待っててくれないんじゃあないだろうか。さっきキスをしていた、長い髪の女の人と、わたしのことなんて忘れて一緒に過ごしていたら?
そんなの、耐えられるわけがない。考えたら涙が出てきて、人がいないのをいいことに、わたしはみっともなくグスグス鼻を鳴らしながら歩いた。

「なまえ?」

そのとき、声がかけられる。向こうのほうから、大きな体躯が駆け寄ってきていた。もうどうしたらいいのかわからなくて、わたしはサンダルを片手に持っただけの奇妙な格好でそこに立ち尽くした。

「何してんだよ、こんなトコで。シーザーちゃんは?」
「…………知らない」
「知らないってなァ、おまえ。にゃに、もしかして喧嘩でもしちゃったわけ?」

こっちを不審がるような、心配するような奇妙な声音だった。どうしてジョセフがここに?それを尋ねる余裕もなくて、涙がぼとぼと溢れてくる。喧嘩。喧嘩なのかなあ。

「もしかして、ガチ?」
「うう、っ、シーザーに、振られた……」
「振られたァ〜!?マジかよ、そんなことあるッ!?」
「わかんないよ、わたしだって!でも、でも……シーザー……」
「おれが泣かせてるみたいじゃあねーか!ちょい、なまえちゃん!泣き止まねーと、シタ入れてキスしちゃおっかなァーッ!」
「イヤ!!!」

つい大きな声が出た。なんだか頭が冷えてきて、自分のあまりのみっともなさにたまらなくなった。サンダルを持っていない方の手で口を覆って、なんとか涙を止めにかかる。その間、ジョセフはわたしの目の前で、ずっと困った顔をしていた。

「ごめんねジョセフ、落ち着いた。……なんでこんなところいるの?」
「こっちのセリフだぜ。おまえ、今日はシーザーの野郎を家に呼ぶんじゃあなかったのかよ」
「…………呼んだよ」
「わるいけどおれは、恋愛相談とかそういうのはゴメンだからな!話してーんなら勝手に話せよ!」

わたしの様子から、面倒臭そうな気配を察知したのか、ジョセフはぶっきらぼうに返事をする。それでも一応聞いてくれるのか、優しいなあ、と、わたしはぽつぽつ話しはじめた。シーザーと待ち合わせをしていたこと。行った先で、シーザーと知らない女の人が、キスをしていたこと。

「んで、そのままここまで逃げてきちまったってこと?」
「だって……帰れないもん。待ち合わせすっぽかしちゃったから、家の近くにシーザーいるし。でもいなかったらどうしよう。知りたくない」
「でもちょっと待てよ。電気もつけっぱ、スマホと財布も家に置きっぱだろ。そんなの、誘拐かなんかだと思うのが普通だぜ。ましてやあのシーザーちゃんだ」

ジョセフのいうことはもっともだった。理由が何であれ、約束を無言ですっぽかすことがいけないことだというのも分かる。

「でもいま、顔を合わせて何を言ったらいいのか分かんない。シーザーから見たわたしって、いったい何なんだろう」

わたしたちの関係は、前から全く変わっていなかったのだろうか。お互いの利益と、シーザーの優しさで成り立つ、仮面を被った関係。
その慈悲を、わたしが勘違いしてしまったから。わたしは彼に愛してもらっていると自惚れていた。
ーーじゃああれは?あのキスは、何だったんだろう。初めてだったのに。初めて、心から好きな人とキスをした。

「悲しい。わたし……シーザーのこと、本当に好きで」
「見りゃ分かるぜ。ったく……」

ジョセフはがりがり後頭部を掻いて、スマホの画面を一瞥した。そして、とりあえず帰るぞ、と呟く。

「ぜってーシーザーの野郎には言うなよ!こんな時間に裸足の女を1人で帰したら、エリナばあちゃんにしばかれちまうぜ」
「……ジョセフの家?」
「空いてる部屋があっから、そこでいいだろ。明日の講義の前には一旦家に帰れよ、一晩だけだからな!」

わたしは、待ち合わせの時間から随分歩き続けていたらしいーー1時間ほど。ふらふら歩いて、数駅先のジョセフの家の近くまで偶然来てしまっていたらしかった。
言われるがままに着いていくと、オートロックの立派なマンションに案内される。そういえば、ジョセフはお坊っちゃまだった。
大学生の一人暮らしには随分と広すぎるマンションの、奥の部屋に半ば放り込まれるように押し込まれた。使っていない部屋というのは本当のようで、家具の一つさえなかった。しばらくして、来客用の布団が一式投げ込まれる。

「なんか食べたくなったら、勝手に冷蔵庫開けていいよ。おれは奥の部屋にいるから、じゃあな」
「ありがとう……」

挨拶とともにドアが閉められて、あたりは静かになる。耳の奥できんと音が響くくらいだ。
ジョセフが用意してくれた布団を敷いて、そこに横になる。今日のために巻いた髪が布団に広がったのが視界の端に見えて、また涙が出た。

それでも体は疲れていたようで、いつの間にか眠ってしまっていた。ぼんやりする頭を無理やり動かして、カーテンから外を覗く。朝日が登ったばかりの空が見えて、小さく欠伸が出た。
歩いて帰らなければいけないことだし、そろそろお暇しよう。布団を畳んで部屋の隅に置いた。部屋を出てリビングを覗くも、ジョセフが起きている形跡はなかった。
玄関に行くと、壊れかけのサンダルは消えていて、女性もののスニーカーが置いてあった。食堂のAランチよろピク、とメモが添えてある。綺麗だけれど、誰かにあげる予定のものだったのだろうか。今度同じものを買いなおそう、と、それに足を入れた。

季節は夏をすぐそこまで連れてきている。風はじとりと生暖かく、特有のにおいがした。
昨日は夜だからよくわからずに歩いてきたが、ずっとまっすぐ進んできた気がする。軽い気持ちで足をすすめていると、昨日ぼんやり見た景色が周りに広がり始める。きっともう少しで、あの公園のはずだ。
すっきりとした朝日の明るさが、わたしの胸の内を整えた。シーザーと、ちゃんと話をしなければ。あの女の人が何者であれ、きっともう、わたしとシーザーの関係は終わるのだ。

植え込みに囲まれた公園のそばにきた。昨日のことが頭をよぎって、また中を覗いてしまった。
早朝だ。鳥すら鳴いていないような時間。公園のベンチに、誰かが座っている。
ーー金髪。朝焼けの色にも似た。思わず、足を止めてしまう。

俯いていたその人が顔を上げた。視線が交わる。立ち上がってーーこちらに駆け寄ってきた。思わず距離を取ろうと思って、でも、脚が動かない。だって、何でこんな時間に。

「なまえ!!」

静かな街に、彼のーーシーザーの声が響く。長い脚の大きな歩幅で、彼はすぐにわたしのそばにきた。焦りと困惑が混ざった表情で、口を一度開き、そして閉ざした。
なにか、何か言わなきゃ。そう思って、唇を動かす。自分のそれが震えているのがわかった。

「…………あのひとは、いいの?」

シーザーの緑色の目が、大きく見開かれる。違う、こんなことを言いたいんじゃあないのに。あんな見たこともない女性のことなんてどうでもいい。そうじゃあなくて。
またじんわりと涙が溢れてきて、昨日散々泣いた目に沁みた。

「ちがうの。違くて、わたしーーどうしたらいいのかわからない」

思わず俯いてしまったのを、シーザーが頬に手を寄せて、向き合うように顔を上へあげられた。その温もりが何だか恐ろしくて、思わず肩が跳ねる。その様子を見て、シーザーは悲しい顔をした。

「傷つけてしまったんだな、おれは」

そうだよ、とか。一体なんなの、とか、言いたいことはたくさんあった。でもその全てが、固まってしまったかのように喉の奥に引っかかって出てこない。息をするのも苦しいくちで、わたしは必死で言葉を吐き出した。

「話、しようよ。わたしの家にきて」

ーー全部、終わりにしよう。
そこまでは声にできなかったけど、そう思った。それに、シーザーも、わたしの言いたいことは分かっている気がする。幼馴染だもの。

「……うん。じゃあ、お邪魔するよ」

彼と共に、自分の部屋に帰ってきた。12時間も経っていないはずなのに、何日が空けていたような心持ちがする。
特別な関係になってから、彼がわたしの部屋に来るのは、これが初めてだった。だから、だから昨日はーー

こんなことばかり思ってちゃあいけない。もっと建設的に話をしなければ。キッチンを通るとき、コンロに置きっぱなしにしていた鍋に蓋を閉めた。昨日のために作ったスープだ。メインは火を通す前だったから、冷蔵庫の中にある。シーザーは優しいから、こんなのを見せたら困ってしまう。それに、なによりわたしが、見せたくなかった。

「そこ座ってて。何か飲む?」

テーブルのそば、向かい合うように並べておいたクッションを指してそう言う。シーザーがわたしを追い越していって、わたしが震える手で冷蔵庫を開けようとしたそのときだった。

「待ってくれ」

わたしを追い越したシーザーは、わたしの正面で止まっていた。緑青の海みたいな瞳は、哀しみに揺れている。どうしてあなたが、そんな顔をするのだろう。

「おれがーーおれが悪い。それは踏まえて、言わせてくれ。もっと自分のことを話してくれないか」

責めてくれ。昨日は何があったと、許せないと言って欲しい。おまえの言葉で気持ちを聞かせてくれないと、おれは、どうしたらいいかわからないんだ。

「……どうしたらって、そんなの」
「バイト先に来てくれたときに言ったよな。我儘を聞くのが日常だってーーあれは嘘だったんだ。ただ、おれが」

ただ、おれが、なまえの飾らない本心を預けてもらえることが嬉しかったんだ。ずっと、今まで。だからおまえが、そんな我慢をした顔をしていると、悲しくて。

「どうしてそんなこと言うの?」

喉奥に張り付いていたはずの言葉が、ぽろりと溢れた。堰を切ったように、気持ちが溢れ出して止まらない。
何も知らないのに。わたしがいったいどんな気持ちで、シーザーとあの人のキスを見ていたのか、どうして何も言わずにそこから立ち去ったのか、知りもしないのに。

「怖かったんだよ、わたし。シーザーに嫌われるのが、この関係を終わりにしようって言われるのが怖かったの。どうしたらーーどうしたらシーザーと一緒にいられるか、ずっと考えて、ずっと」

シーザーに、わたしを好きになって欲しかった。そばにいてほしかった。ずっとこの関係のままだって構わないから。
これを言ってしまえば、全てが終わる。彼と一緒にいられなくなる。それだけを考えて、今までの我儘なわたしじゃダメだって思った。
我儘を言えなくなったんじゃあない。言わないでおこうと思ったんだ。拒否されるのが怖くて、いい子になろうと思って。

「そんなに、我儘を聞いてくれるっていうんだったらーーわたしを好きになってよ。そばにいてよ、シーザーちゃん」

涙が溢れて止まらない。すぐに泣き止まなくちゃ、そう思うけど、もう取り繕う必要もないんだよね。それを頭のどこかで理解しているから、子どもみたいに、頬にはいくつも涙が伝った。

「なまえ」

名前を呼ばれる。優しい声。大きな手が伸びてきて、逞しい胸に抱き寄せられた。そのぬくもりが辛くて、心臓がぎゅうと締め付けられた。

「……信じられないかもしれないが、あれは事故なんだ。避けられなくて。バイトのあの子だよ。追いかけてきて、話があるからとーーあのあと、しっかり断ったさ」
「でも、そんなの、ーーだって」
「本当だよ。傷つけて、本当にすまない。こんなに泣かせて、言えたことではないのは分かっているが」

一緒にいてくれ。きみの隣にいるのは、おれでないと嫌なんだ。

シーザーの声音は、どうしようもなく懇願の色を乗せているように聞こえた。抱きしめられているせいで、表情こそ見えない。でも、背中に縋り付くような手が震えているのが伝わってきた。シーザーちゃんも、怖いのかな。

「好きだよ。ただの幼馴染なんかに、フリでも付き合おうなんて言うものか。なまえだからだよ、きみが好きなんだ」  

なんだ、そんなの。それだったら、さっきのわたしのは、我儘なんかじゃあなくなっちゃうよ。
シーザーの背中にそっと手を回す。広すぎて、わたしのちっぽけな腕じゃ回りきらないけれど。彼の背中が、ぴくりと驚いたように動いた。

「わたし、人に触るの嫌いなんだよ。キスだって、大っ嫌い。だけど、シーザーちゃんだからしたんだからね」

あえて意地悪なように言ってみたけど、涙は止まらないから、どうしても格好がつかない。この際だから、キスの理由、ちゃんと考えてみたらいいんだよ。


**


「よう、JOJO」
「んあ?シーザーちゃん、ナニコレ」

なまえとシーザーの特大の喧嘩から数日経ったある日。カフェテリアでひとりで食事を摂っていたジョセフの元に、シーザーがやってきた。そして一枚の封筒を差し出す。

「この前の靴だよ。いくらか分からないが、これだけで大丈夫か?」
「あー、あれね。エリナばあちゃんがランニング始めるっていうから買ったんだけどよォ、もうじいちゃんが渡した後だったんだよ。だから置き場所に困ってたし、ま、貰えるモンは貰うけどねン」
「ちゃっかりしてるな。まあ、いいさ。感謝してるしな」

封筒の中身は、なまえが借りて行った靴の代金だった。シーザーはジョセフの向かい側の席に座り、頬杖をついて話を続ける。

「なまえが貴様の家にいると聞いたときは、どうしてやろうかと思ったが。もう一度聞くが、おれのなまえに何かしたんじゃあねーだろうな」
「ゲェッ、何もしてねーっての。顔はカワイイけど、ちょいとばかしワガママが過ぎるしな」
「バカだな、そこがいいんじゃあないか」
「ハイハイ」

あの夜、ジョセフの家になまえが訪ねてきてから。彼は、シーザーに連絡を入れていた。詳しい理由は本人から聞けよ、という言葉付きで。ひとまず預かっていること、そして朝、今家を出たから迎えに行ってやれと言うこと。おかげでシーザーは、夜通しなまえを探さずに済んだというわけでーー気が気じゃなかったので、結局徹夜したのは事実であるのだが。

「ちょっと照れ臭くなって、色々ごまかしたツケがこんなに返ってくるとはな。捨てられちまうかと思ったぜ」
「ちくしょう、有る事無い事吹き込んでおくんだったかなァ」
「やめろ。おれは本気なんだよ」

そこまでやり取りしたところで、シーザーのスマホがピリリと鳴る。一言断って、彼はその場で電話に出た。ジョセフはその様子をじと目で見ている。

「もしもし。……ああ、大学だ。帰りはーーそうだな、4限かな。ケーキ?分かったよーーああ、待っていてくれ。そう言うなよ、じゃあな」
「いまの、あいつ?」
「ああ。大学が終わり次第、ケーキを買って来いって。おれの家でもう待ってるらしい」

ーーなんだよ、全快じゃあねーか。
ジョセフはこの言葉を、ぐっと喉奥に飲み込んだ。シーザーも、満更でもないと言うかーー随分嬉しそうな顔をしてるし。

結局あるべきところに収まったということだ。なんだか癪な気分だし、今日は貰った金で何か食べて帰ろう。ジョセフはそこで考えるのをやめて、ぬるいコーヒーを飲み干した。






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