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▼ 泣いちゃったら仗助くんがよしよししてくれた(JOJO)

(仗助くんが泣いちゃう話の続き)

ここ最近、たまらなく忙しい。バイトは何連勤したかもう覚えていないし、大学の期末課題とテストの山も、いままさに佳境を迎えていた。
それに今日は、夕方ごろ大雨が降った。大学が終わったら、一回家に帰って洗濯物をしまおうと思っていたのに、店長が早くシフトに入ってくれと泣きつくものだからそうもいかなかったのである。ベランダでぐっしょり濡れて待っている洗濯物のことを考えると気分が悪い。
比喩ではなく、割と本気で口から何かを吐きそうな気分になりながら帰宅して、自らのアパートの鍵を開けようと穴にキーを勢いよく刺した。……あれ、鍵が開いている。

そのままキーを引き抜いて、少し警戒しながらドアノブを回す。そのとき、向こう側から勢いよく扉が開かれて、わたしは間抜けな声とともに後ろに大きくのけぞった。

「なまえちゃん、おかえり」
「うお、お、仗助くん……?」

家のなかからドアを開けてくれたのは、お付き合いしている年下の彼氏、東方仗助くんだった。変な体勢になっているわたしに、彼はニコニコ笑って部屋の中へ早く入るよう促してくる。このまえ渡した合鍵を使ってくれていたらしい。

「大学生ってこんな帰るの遅いのかよ。心配になるぜ」
「今日は授業よりバイトが忙しくて。あ、仗助くん、洗濯物いれなきゃ……」
「ベランダのなら入れといたぜ」
「えっ!」

仗助くんの後ろをついて、朝ぶりに戻ってきたリビングには、カーテルレールにわたし1人分の洗濯ハンガーがかかっていた。あわてて近づいて触ってみる。どこも濡れていない。鼻を近づける、生乾きの匂いもしなかった。

「降りはじめのときに入れたからよォ、たぶん大丈夫じゃあねーかな」
「ありがとう……ほんとありがとう……」
「いいって!おれ傘持ってなかったから、雨宿りさしてもらいたくて」

仗助くんは今日、億泰くんとお茶をしていて、その帰りに私の家を通りがかったらしい。ちょうど雨が降ってきたから、雨宿りがてらわたしの家でのんびりしていたのだとか。勝手に入っちゃうのどうかなって思ったんスけど、と続ける仗助くんが可愛くて、わたしは自然と笑顔になった。

「用がなくてもいつでも来て欲しいな。そのための合鍵だし」
「やった。あ、んでなまえちゃん、晩メシは食べてきた?」
「いや、それが賄いも食べる暇なくて」
「そんならよ、おれがなんか作るぜ」
「え」

さっきの洗濯物のくだりよろしく、ぴたりと固まったわたしに仗助くんは何がおかしいんだと言わんばかりにきょとんとしている。わたしは座布団に腰を下ろして、ぽつりと口にした。

「うれしい、ありがとう……」
「ん、おう」
「でも、でも……今日の仗助くん、変だよ!!なんか隠してる!?」
「はあ〜ッ!?なんでそうなるんだよ!」

だって。普段はわたしのことに手を出すどころか、自分のことも一緒にわたしにさせたがるというか、年下らしい甘え上手なタイプなのに。わたしもそういう彼の世話を焼くのが大好きだけれど、それは置いておいて。ごはんだって、わたしが作っているところをいつも後ろにべったりくっついて観察してるくらいの感じだったのに!

「だってなまえちゃん、疲れてるんだろ。だからってワケじゃあねーけど、今日はおれが面倒みたいっていうか、いつも甘やかされてるぶん」

仗助くんがわたしのそばに腰を下ろして、少し照れたように言う。それが健気というか、いじらしいというか、とにかくわたしの胸をぐっと突いた。そのとき、今までの疲れと、無くなってきたとはいえまだ積み重なったままの課題への焦りが一気に押し寄せて、目頭が急に熱くなった。突然泣き出したわたし、それを見て血相を変えた仗助くん。室内はカオスな状況になっていた。

「なんで泣くんだよッ!?あ、えと、風呂!風呂も沸いてるから、もしアレなら先に」
「仗助くん……、お、お風呂まで……。仗助くん、じょうすけくん……」
「ハイハイ、仗助くんですよッ!だから泣かないでくださいよ〜!」

おろおろしながら頭を撫でたり、優しく抱きしめてくる仗助くんに体を預けて、わたしはおいおい泣き喚いた。
明日のバイトもう行きたくない、でも行かなくちゃ、疲れちゃった、明日もテストあるしやってられない。
みっともない言葉を吐き出しきって、ただ鼻を鳴らすだけになったわたしに、彼は小さな声で「落ち着いた?」と尋ねてくる。低くて優しい声。16歳とは思えない包容力だ。対して、成人しているというのにこの女は。泣き言を言って年下の男の子の胸に縋り付いているだけである。なんだか自分があまりにもみっともなくて、恥ずかしくなった。

「ごめんねえ仗助くん、今日の記憶は忘れて……」
「無理言うなよ」
「いやそうですよね」

結構なガチトーンで言葉を返した仗助くんは、もう泣き止んでいるというのにわたしの後頭部を撫で続けている。先程の惰性というべきか。でも彼はいいにおいがするし、大きな手で触れられるのも安心するのでそのまま胸の中に落ち着いていると、今度は仗助くんの方から話しかけられた。

「んで、どうして泣いちゃったんスか?」
「仗助くんがめちゃくちゃ優しいから、なんか、ーー安心?して……」
「……おれそんなに優しいわけじゃあねーと思うぜ、別によォ」
「優しいよお。承太郎さんも言ってた」
「それはスタンド能力の話!」

そこまでやり取りして、彼はまた黙り込んでしまった。考え事をしている様子の彼の胸から顔を上げると、ちょうどわたしを見下ろしていた綺麗な目と視線が交わる。思わず首を傾げると、仗助くんは何かを思い付いたように目を輝かせた。

「分かったぜ。要するになまえちゃんは、この仗助くんに甘えたいってことだよな?」
「えっ」
「あんまし柄じゃねーけどよ、なまえちゃんのお願いならチコっと本気出すぜ。……ん〜、どうすっかなあ」
「えええ、待って待って」

わたしの言葉はなんのその、彼は腕を伸ばして床の上に放置していたぺらぺらのカバンを引き寄せた。そこからこれまた小さい筆箱と、使った形跡があまりないノートを引っ張り出す。片腕でわたしを抱き寄せたまま、ふんふんと鼻歌でも鳴らしそうな様子で、もう片方の手でもってさらさらとノートに何か書き込んだ。そしてそれを、やや乱暴に破り取る。

「思ったんだよ。このまえのスタンド攻撃のときもそうだけど、おれなまえちゃんに頼りきりなところあるよなあ」
「そ……そうかな?」
「そんでやっぱ、男としては女のコに頼られたいっていうのはあるじゃあねースか」

承太郎さんみたいな頼りがいのある男、と仗助くんは続けた。確かに承太郎さんは頼りがいがあるけど、それはスタンド能力が反則級なのもあると思う。そういうことより、もっと包容力的なものを仗助くんには感じているんだけどなあ。もちろんスタンドもチートレベルだけど。……とは言わないでおいた。

「だからコレ!今までの"ツケの領収書"だぜ!」

びしっと目の前に差し出されたものーーさっきのノートの切れ端であるがーーそこには走り書きの字で、"仗助くんを1日好きにできる券"と書いてあった。それを見つめて、数秒ぽかんとしてしまう。領収書とはまた違う気がしなくもない。でも、そんなことはどうでもいいのだ。とにかくわたしの彼氏が可愛すぎる。

わたしがそれを受け取って、感激のあまり何も言えないでいると、仗助くんは暫し黙ってから「いらねーならいいけどよッ!別に!!」と照れギレしはじめた。それを宥めるのに一悶着。
そしていざその"領収書"を使うとき、「恋人を1日好きにする」方向性で考えていた仗助くんと、キャベツ大根牛乳もろもろの重たい荷物持ちを手伝ってもらおうと考えていたわたしとで二悶着起こるのだが、それはまあ別の話として。






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