小説 | ナノ


▼ デュース・スペードと恋とはなんたるかA(TWST)



わたしの名前はなまえ。あだ名は監督生。最近、女だということを友人に伝えたら泣かれてしまい、結構傷付いた。隠していたのは自分なので、言い訳のしようがないが。

「監督生〜、マジで頼むって」
「近いんですけどエースくん」

しかし、同じタイミングで女だと知ったにも関わらず、こっちの男は何も気にしていないようで、なんだか逆に失礼だ。女の子扱いをしてほしいわけではないけれど。
エースは普段から、誰とでも距離が近い。今日は課題を見せろと強請ってきている、廊下の真ん中で肩をガッチリ組むというおまけ付きで。いつも止めてくれるデュースは、先生に質問に行ってしまったため、今はいない。

今回の課題は自分で考えて書く部分が多かったので、エースに写されて万が一不正が疑われたら嫌なのだ。彼は大丈夫だと軽く言っているけど、課題の提出先はトレイン先生だ。警戒するに越したことはない。 
嫌だ、と突っぱねると、エースはわたしの肩に回した腕の力を強くする。頼むって、と甘えた声を出しながら自身の頬をわたしのそれに擦り付けてきた。猫か。なんだかスベスベなのも腹が立つ。

「エースっ!!」

その時、どこからか怒声が飛んだ。廊下を歩いていた他の生徒がさっと道を開ける。まるで花道のようになった廊下を早足で歩いてきたのはデュースだった。

「離れろ!……し、失礼だろうが!!」  

デュースの大きな声。失礼だろう、というのはわたしにだろうか。なんだか妙な気の使われ方をされている気がしてならない。エースは隣で耐えきれず吹き出してしまった。
それを軽く睨むと、エースはちろりと舌を出してぱっと離れた。肩をいからせてこっちに来るデュースを、にやにやしながら見つめている。

「んだよ、そんなに怒るなって。男同士のスキンシップだろ〜?」

な、と確認するようにエースがこっちを見た。わたしは曖昧に頷いた、女であることはまだこの二人しか知らないのだ。デュースもそれは承知しているはず。目の前に来たデュースはエースの言葉に口を噤んだ。

気を遣ってくれてありがとう、とデュースに言うと、彼はその言葉に頷いた後に動きをピタリと止めた。わたしの顔に何か付いているのだろうか。エースもわたしの顔を覗き込んで、そして、あ、と呟いた。

「ほっぺた。オレのメイク付いちゃった、わり」
「エースてめえ!!」

デュースがエースに掴みかかる。エースはただ笑うだけだ。手鏡を取り出して自分の顔を見ると、なるほど、頬の上あたりに赤いものが付いている。さっき頬を寄せられた時に、彼の目元のハートのメイクが付いたのだろう。

ふたりは取っ組み合うだけでは飽き足らず、半分追いかけっこのように闘っていた。ーー元気なのは何よりである。あるのだが。

「子分?」

腕の中でさっきまで眠っていたグリムが、顔を上げてこちらを見やる。楽しそうじゃないんだゾ、と言われて、そんなことないよと曖昧に笑ってみせた。

楽しくない。それはきっと、そうなのかもしれない。

ーーやっぱり、性別のことなんて話すんじゃなかった。





デュースは、女の人が苦手なのだと、ゴーストたちの結婚式の一件で教えてもらった。
苦手と言うべきか、顔を突き合わせると何を話したら良いのか分からなくなるらしい。それを聞いた時、デュースにはわたしの性別は言えないなと確かに思ったのに、なんだか安心しきっていたみたいだ。ーーそんなことを、目の前で大鍋をかき回すデュースを見て思った。

わたしの性別がふたりに露見してから、今日で2週間。エースの態度はいつもと変わらない。ーーただ、デュースは。
態度が悪いとか、会話にならないとか、そういうことでは断じて無い。
普段通りにしよう、と気を遣っている様子がわかってしまって、なんだか会話が続かないのだ。気を遣うということは、大事にされていることと同義であると分かっている。こんな悩みは、とてもとても贅沢なものであるというのに。

今日の魔法薬学は、爆薬の調合を行なっている。爆発すると言っても微々たるもので、クルーウェル先生の説明を聞いたわたしの脳味噌には完全にネズミ花火が思い浮かんでいた。
2人1組のペアはデュースになった。これを機に仲を深めようと思ったのも束の間、デュースはぎこちなく微笑んでこう言ったのだ。「危ない調合だから、全部僕がやろう」と。

きっとその優しさも、わたしが女の子だから、という理由なのだ。そもそも、失敗したら危険が及ぶような爆薬を学生に作らせるわけがないのに。そんな言葉を飲み込むわたしを他所に、デュースは難しい顔で鍋と対峙している。

「あ、待って、デュース」
「うお」

手持ち無沙汰で教科書と彼の手元を見比べていたら、あることに気が付いた。思わず声をかける。肩を揺らすデュースに、わたしは言った。

「今入れたやつ、砕いた蛇の牙の粉末だよね?これ、混ぜる時には反時計回りに2回、時計回りに1回回すのを繰り返さないといけないって」
「お……?わ、分かった!」
「それは時計回り!先に反対!」
「ん!?」
「待って待って!」

突然の情報にあたふたするデュース、ごぼごぼと煮えたぎる鍋。ふたつを見比べて、わたしは、ごめんね、と小さく呟いてデュースの身体の背後に立ち、彼の手ごと鍋に刺さった大きな木べらを掴んだ。必然的に前に傾く身体を支えるべく、木べらを持っていない方の手でデュースのお腹の辺りを掴む。

「こうしてね、こっちに大きく二回回して」
「…………」
「それで最後にこうして、これで1セット」
「………………」
「デュース?」

口で言うより、こっちの方が早いと思ったのだが、説明は終わったのにデュースは何も言わない。おかしいなあ、そう思って、木べらから手を離した。その瞬間、ぐらりと彼の身体が傾く。ーー鍋の方に。

「うわああ!?デュース!!」

言葉もなく全身から脱力したらしいデュースが、頭から目の前の煮えたぎる鍋に突っ込もうとする。大きな声で叫ぶが早いか、デュースの細い腰を両手で必死に抱きしめた。ーー意識を失っている!

わたしの叫び声を聞いたクラスメイトの何人かが、自分の鍋をそっちのけにしてデュースの持ち上げに協力してくれる。鍋から離れたところの床に寝かせるまでの間、わたしやクラスメイトは彼に声を掛け続けたが、やっぱりデュースは気絶しているようだ。

騒ぎを聞きつけたクルーウェル先生がやってくる。先生の顔と、瞳を閉じたまま開かないデュースの顔を見比べて、なんだかどうしようもなく泣きたくなった。


**

ーー薬品のにおいが鼻をつく。ゆっくり意識が浮き上がる感覚がして、薄く目を開いた。白い天井。
上半身を起こすと、ここが保健室であることが分かった。しかし誰もいない。遠くで人が騒ぐ音が聞こえる、運動場で体育の授業をしているようだ。

一体僕は何をしていたのだろうと思ってーーさっきまでのことを思い出す。魔法薬学の途中で、僕は。思わず頭を抱えた。なんてカッコ悪い。
ただ、いいところを見せようと思った。そうしたら視野が狭くなって、せっかくのなまえのアドバイスを無駄にするところだった。挙げ句の果てに、なまえに後ろから、だ、だき、……抱き締められたことにびっくりして、意識を飛ばすなんて。口から妙な唸り声が漏れる。恥ずかしい。穴があったら埋めて欲しい。

そうして悶えていると、こんこんと控えめにドアを叩く音がした。慌てて返事をすると、ゆっくりと扉が開く。そこにいたのはなまえだった。

「デュース」

ーー目が覚めたみたいでよかった。
なまえが薄く笑う。
そうやって名前を呼ばれるだけで、笑顔になってくれるだけで、胸が騒ぎ出してしまってどうしようもない。堪らなくなって、思わず目を逸らした。
なまえのローファーが床を叩く音が聞こえる。彼女はベッドの側まで来て、シーツの上に置かれた僕の手の上に、自分のそれを重ねた。心臓が跳ね上がって、弾かれるように顔を上げた。僕がベッドにいるおかげでやや高い位置にあるなまえの顔が視界に移る。

「監督生……?」

ーー彼女は、唇をきゅっと引き結んでいて、なんだか悲しそうな顔をしていた。

「ねえ、デュース」
  
重ねられた柔い掌に力が籠る。ぎゅ、と音がしそうなほど強く握られた。

「ちょ、監督生、」
「ごめん。自分勝手だとは思うんだけど、お願いがあって」
「お願い……?」

なまえは何か心に抱えている、それは分かっているのに、不謹慎にも心臓が何かを期待してばくばくと鼓動を早くする。己の欲望に正直に、顔が熱を上げている。それを目の前の彼女に知られたくなくて、額に汗が滲んだ。

「いつも通りにして欲しい。前みたいに、他のみんなと同じ扱いをしてほしいよ」

震えるような声音で、なまえが呟いた。

「女の子扱い、しないで」

その訴えは確かに揺れてはいたけれど、強い意志を持った声だった。
ーー女の子扱い。オブラートに包んではいても、それがさっきまでの自分の態度のことを指しているのだと直ぐに分かった。女として見るな、と、そう拒否されたのだ。
終わった。自分の心臓からぱりんと音がしたような気がした。恋に向き合おうと覚悟を決めて数週間で、まさかの失恋。

そのあと、一体自分が彼女に何と返事をしたのか、一切記憶にない。


**

「なー、監督生」
「何?」
「お前、デュースに何言ったわけ?」

放課後。オンボロ寮の談話室。ソファーに寝転がってスマホを弄っていたエースが、ふと話題を振ってきた。
一体何を、と思ってエースの顔を見る。興味のなさそうな声とは裏腹に、彼は真剣な顔つきでこちらを見ていた。

ーーデュースと保健室で話をしてから、1週間が経つ。

わたしの言葉にデュースは、「分かった、嫌な思いをさせて悪かった」と静かに微笑んだ。それに言葉を付け足そうとしてーーやめた。結局わたしが悪いことには変わりがないのだ。
そこからデュースは、努めて"いつも通り"に接してくれているように感じる。授業でペアになったとき、1人で突っ走ることは無くなったし、わたしと他の人の距離感について言うこともなくなった。ただ時折、とても悲しそうな顔をするのだ。ーー原因は、分かっている。

「わたしが女だって知ってから、デュースのいろんな仕草や言葉が、"女の子"に向けられてるものなんだなって思ってたの。"わたし"を見てくれてないんじゃないかって」

もしわたしが、最初から自分の性別を正直に話していたなら。あるいは、嘘として隠し通せていたなら。
最初に秘密を作ったのは自分自身のくせに。相手の気持ちなんて考えもせずに、軽率に隠すことをやめたくせに。嘘をついて、騙して。気づいた時には遅かった。

「それでも、デュースには、わたしを見ていて欲しかった」
「ーー見てるだろ」

エースが徐に立ち上がる。笑みのひとかけらもない、真剣な顔のまま、わたしの座っているソファーの前まで来た。雰囲気に押されてしまって、何も言葉が出てこない。

「あいつ、おまえのこと、ちゃんと見てるよ」

エースが腰を屈めて、わたしの太ももの傍に手をついた。まるで閉じ込められているみたいだ。彼との距離があっという間に縮まった。鼻先が今にも触れてしまいそうな距離で、思わず背もたれにぴったりと背中を預けて距離を取ろうとする。無駄な抵抗だった。

「エース、何を」
「いいから。黙ってろって」

息が触れあう。ふざけるのも大概にして、と言おうとしても、彼の瞳は至って真剣だ。分からない、これは一体何、どうしよう。わたしはいったいどうしたらーー

「何してんだ!!」

エースの身体が、急に後ろに傾く。ぱっと開けた視界に、デュースがいた。
息を切らせて、いつも持っている鞄は脇に捨てられている。ーー怒っている?

「ふざけんなよ、お前、ふざけんな」

デュースはエースの胸ぐらを掴み上げる。男の人同士の喧嘩、NRCでよく見るそれとは比べ物にならない怒気だ。デュースは本気で怒っている。エースは顎を突き出したまま、目線でもってデュースを見下していた。

「ハンパな気持ちで、なまえに手ェ出すなっつったよな!!」

空気がびりびりと震える。何の話をしているのか掴めない。音にならない声が思わず口から漏れたとき、エースが、デュースのおでこをばちりと叩いた。

「ふざけてんのはお前らでしょーが」
「な、」

エースは心底めんどくさいといった表情を浮かべて、頭を軽く振った。苦しいから離せ、とおよそこの雰囲気に似合わない冷静さでデュースの手をぺちぺち叩いて催促する。その変わりように驚いたのか、デュースもよろよろとエースの胸ぐらを掴んだままだった手を外した。

「その壊滅的な勘違い修正するまで、部屋から出てくるの禁止だからな!マジでお前らめんどくさい!」

エースは自分の襟首を雑に整え、自分の鞄を引ったくって足早に部屋から出て行った。ばたん、と談話室のドアが閉まる音が部屋に響く。

「監督生、は、……エースのことが、好きなのか」
「え!?」

漂う沈黙を最初に壊したのはデュースだった。目線を床に落としたまま、早口で呟く。わたしは思わず立ち上がった。

「思わず声、掛けちまったけど。いや違う、そうじゃなくて」
「……エースは、友達だよ」

デュースはわたしの言葉を聞いて顔を上げた。何かを言いたそうに表情が動く。そして、口を噤んだ。その顔だ。時折見せる、悲しそうな目。

「……なまえは、友達に、どこまで許すんだ」
「え?」
「俺は、なまえに触られるだけで、心臓がうるさくなる。身体がガーッて熱くなっちまって、もう駄目だ。でも、なまえは、友達にだったら誰だってするんだろ」

ーーごめん。無理だ。
諦めようと思ったけど。どうにかして消そうと思ったけど。

「どうやっても、"女の子扱い"しちまう。だって、好きなんだ、ずっと。ごめん」

デュースは顔を上げていた。背筋がしゃんと伸びて、青い瞳はこちらを真正面から見つめている。その視線から目が離せない。
胸の奥が熱を帯びる。息が苦しい。心臓が脈打つ音が、脳味噌に直接響いてくるみたいだ。

「デュース、好きなの、その……わたしを」
「ああ、好きだ」

思わず聞き返すと、彼はすぐに答えた。躊躇のひとかけらも無く。その思い切った様子に更に頭が熱くなって、顔が火照る。
デュースがわたしを好き?そんなこと、考えたこともなかった。ずっと好きって、もしかして、わたしが女だって知る前から好きだったってこと?
そんなの、そんなのーーどうしよう。

「……デュース、あの」
「でも、今日で終わりにする。聞いてくれてありがとう」
「え」
「ちゃんと考えたんだ。急にダチに変なふうに接されたら、誰だって嫌だよな」

ぽやぽやした頭で返事をしようとしたそのとき、デュースがにっこり笑って終わりを口にする。思わず口から間抜けな声が出た。え?わたし今告白されたよね。終わりって何?振られた?

「さっきは我慢できなくなっちまったが……こんなことは無いようにする。僕たちはマブだもんな」
「待って、待ってデュース」
「ん?」
「デュースはわたしのこと、好きなんだよね」
「そうだが……」

何度も聞かれると流石に照れるな、と目を彷徨わせるデュース。なんだかこれは、アンジャッシュ的勘違いが起こっている気がする。

「好きなのに、なんで諦めるの?」
「え?それは監督生が、自分を女として見ないで欲しいって言うから」
「そこだ」

あの保健室での会話。
わたしがデュースに言った、「女の子扱いしないで」の言葉。それで彼は、謝罪しながら告白し同時に相手を振るというよく分からない挙動を見せているのだ。わたしが言う"女の子扱い"と、彼の思うそれは、まったくもって別物なのに。

「ごめん。てっきり、デュースがわたしが女の子だから気を遣ってくれてると思って、それが嫌でーー」
「そ、それは違う!!」
「声でっか!」
「ごめん!」

セベクも顔負けの声量が彼の口から飛び出す。熱くなっているらしいデュースがずいと顔を近づけてきた。

「俺はずっと前から、お前のことが好きなんだ。だからなまえが女だってわかったときに、もう隠さなくていいんだって思って」
「隠す?」
「なまえのことを男だって思っていたから、この気持ちは我慢しようって、ずっと。でも女の子なら、もしかしたら、俺を好きになってくれるんじゃないかって思ったんだ」

最後に行くにつれて、言葉尻がどんどん萎んでいく。怒られた子どものように、瞳がゆらゆら揺れている。長い睫毛が震えるから、なんだか泣いているように見えた。

「ーー僕がバカだった。女だから好きになってくれるかもなんて、そんな考えはおかしいんだ。……だから、監督生が言う"女扱い"も、あながち間違ってないのかもしれないな」

デュースがへらりと笑う。やっぱりそれは泣いているようで、わたしは思わず手を伸ばした。両脇にだらりと下がっている彼の両手を、わたしのそれで握る。デュースが、わ、と小さく声を漏らした。

「か、かんとくせい。我慢するとは言ったが、やっぱり急には難しいぞ!?」
「ごめんね」
「いや、謝ることでは」
「そうじゃなくて。ごめんね、デュース」

ーーあなたの気持ちを軽んじていた。本当にごめんなさい。

全てはわたしの、傲慢な早とちりのせいだった。彼を傷付けて、涙を流させて。目を合わせることもできなくて俯いているわたしに、デュースはしばらく黙ったままだった。わたしの手から力が抜けて、するりと彼の手が離れていく。温もりが消えていくーーそう思ったとき、デュースの手が力強く、わたしの手を握った。思わず顔を上げる。

「僕は、なまえが好きだ!」

深い海を映したような、あるいはよく晴れた夜空のような瞳。きらきらと星が散っている。

「男だって女だって、そんなことは関係ないんだ。好きだから、お前にいいところを見せたいし、他のやつとくっ付いて欲しくない。俺を、好きになってほしい……!」

力強い言葉が胸に入ってきて、ただ頷くことしかできない。デュースの手がわずかに震えているのを感じる。

「……だから、もしなまえが嫌じゃないなら、これからも近くに居させて欲しい」

微笑みがとても優しげで、それでも声は芯が通っていてーーわたしは、うん、と小さく答えた。デュースは僅かに赤らんだ顔ではにかむ。

「よかった。なまえに好きになってもらえるように頑張るから!見ててくれ!」

ーー心臓が、とくりと音を立てるのを感じる。

デュースがすっきりした顔で、わたしから離れる。そして早足で廊下へ続く扉を開けた。わたしもよろよろとそれについて行く。廊下では、壁にもたれかかるようにしてエースがスマホを弄りながら立っていた。ドアが開いたことに気が付いたのか、耳に付けていたイヤホンを外してにやりと笑った。

「終わったわけ?」
「ああ。変な気遣いをさせて悪かった」
「ほんとだよ。一芝居打たされて、ほんと……って、ああ!この前デュースくんを慰めてやったの、忘れてないよな?」
「なっ、エース!?」

エースがにんまりと笑みを深くする。二人のやりとりをぽかんと眺めていると、エースが距離を詰めてわたしに耳打ちをした。

ーーこの前、デュースが監督生に振られたって泣いてたんだよ。で、オレが慰めてやったってわけ。

「ええ!?」
「エースっ!離れろ!」
「モンペかよ、めんどくせえ」

当の本人が、間髪入れずに噛み付いてくる。そのやりとりを見て、思わず笑ってしまった。

「ちょ、監督生、何を言われたんだ?」
「……秘密!」

ーーわたしがデュースに想いをぶつける日はそう遠くはない話であると、この時の彼はまだ、思いも寄らなかったらしい。

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