小説 | ナノ


▼ デュース・スペードと一緒に歩みたいA(TWST)


ナイトレイブンカレッジのハロウィーン。例年とは違い、大変な騒ぎになったそれも、最終日の今日は、生徒たちの活躍で穏やかで楽しいイベントになっていた。
スタンプラリーに来た小さな女の子と一緒に写真を撮って、デュース・スペードはその子をお決まりの挨拶で見送った。子供への対応が、この数日間で板に付いてきたように感じたとき、デュースの肩を誰かが叩いた。

「デュースちゃん。そろそろ遊んできてもいいよ」
「ダイヤモンド先輩。でも、僕は実行委員ですよ」
「いいっていいって。たっくさん働いてくれたしね。せっかく初めてのウチのハロウィーンなんだから、他の展示も見てきなよ」
「……アザッス!」

会場を見渡せば、たしかに人は少なくなっていた。混み合う夜のパーティーまで、まだ少し時間がある。デュースはケイトの言葉に素直にお礼を言って、やや急足で植物園を飛び出した。

目の前には、オクタヴィネル寮が飾り付けをした魔法薬学室がある。ここに行っても楽しそうだ。でも少し前に、エースと監督生とグリムがその辺りを歩いているのを見た。合流してもいい。購買部のワッフルも気になる。デュースは思わず緩んでしまう頬を引き締めながら、ひとまず購買部の方へ足を進めた。

「お、デュース。おつかれ。遊んできてもいいって言われたの?」
「エース。そうなんだ、ーー監督生とグリムは?」
「じゃんけんに負けて、購買部のワッフル買いに。食べたかったらメッセージしとけば?」

その道中で、ベンチに腰をかけていたエース・トラッポラと合流した。彼はスマホを片手に、こちらにひらひら手を振っている。デュースもその隣に腰を下ろした。

「いやあ、ハロウィーンって楽しいけど疲れるわ」
「熱のこもった演技だったからな」
「デュースくんも大根にしては頑張ってたな」
「うるさいぞ」

デュースが軽く睨むと、エースは楽しそうに笑った。急に木枯らしが吹いて、ふたりで人の流れを見つめながら、どちらともなくさむ、と呟く。カボチャの飾りがカラカラと音を立てた。

「あ」
「なんだ」
「いや、あの子かわいいなって」

エースの言葉に、デュースも反射的に彼の見ている方へ視線を向けた。前日より減ったといっても、それでも人通りは激しい。エースが言う"かわいい子"を見つけられないデュースに、あの子だって、とエースは控えめに指をさした。

大きなジャック・オ・ランタンのそばに、1人で佇んでいる女の子。歳はきっと、同じくらい。艶やかな黒い髪と、膝丈のスカートから伸びる細い脚が目に入った。そして、彼女も2人を見ていた。エースがひらひらと手を振ると、その少女はやや逡巡したのち、2人の方へ歩いてきた。

「バカ、エース!」
「ね、どっから来たの?」

焦るデュースを視界にも入れず、エースはにこやかに少女に話しかける。彼女は小さな声で、ある街の名前を口にした。自分の出身の街だーーデュースは顔を上げる。そして、そこでようやく、まじまじと彼女の顔を見た。

「……なまえ?」

少女は照れ臭そうに、肩の上あたりで切り揃えられた黒髪に手をやった。ーー久しぶりだね。小さくはにかむ姿に、デュースは思わず立ち上がった。





ーー振り回しているとか、振り回されているとか。そういう話は、どうでも良かったのではないかと思う。あのときのわたしは、ただ悲しかったのだ。置いていかれそうなことではなくーー自分の気持ちがーーデュースを好きだという想いが、矮小なものだと言われたような気がしてしまったから。だから子どもみたいに反発して、彼の手を振り払った。自分は彼にとって、いらないものにーー過去のものになってしまったのではないかと思えてならなかった。

「会いに来たの」

いろいろ言葉を考えてーーそれだけを言った。デュースは花嫁さんみたいなベールの下で、ぱちぱちと目を瞬かせて、やがて困ったような笑顔を浮かべた。ーー僕も会いたかった。

過去の人にはならない。わたしは彼と一緒にいたいだけだ。彼が歩いて行くなら、わたしも同じように前に進む。あなたに釣り合う女の子に、きっとなるから。

「デュースはやっぱり、黒い髪が似合うね」
「ありがとう。……僕も、お前には黒が似合うと思う」


優しい声も、控えめに緩む口元も、何一つ変わっていない。ーーなんだあ、わたしたち、そうだったんだ。

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