From ××/Dear M




 今年の年末のイベントは、世界を巡るらしい。

 皆さんは「西京PROJECT」というものを知っているだろうか。界隈では知らないものはいないほどの世界観共有型コンテンツであり、媒体はマンガ、アニメ、ドラマCD、ゲームetc……多岐にわたるのが特徴の人気ジャンルである。その素敵な世界観は公式サイトに事細かに書かれているので、ぜひ見てほしい。
 「西京PROJECT」が始動してから5年が経っているが、その勢いは衰えることなくむしろ益々勢いを増している。初めは私たちのいるこの世界と鏡写しに反転した「大西亜共栄圏 天照神国」が中心だったが、イギリスの反転した国、ブリテンやフランスの反転した国であるゴール王国、ドイツの鏡写しの国であるトメニア……少しづつ世界は広がり、その度に心震える壮大なスケールのストーリーが語られてきた。

 現在行われているイベントは、年末恒例とも揶揄されている世界滅亡をそしするBC財団をメインに据えたイベントだ。
 世界滅亡シナリオの危険性、「正体不明Z」の凍える炎、そして凍結する世界の人々………果たしてそれを阻止できるのか。そういう話なのだが、今回は私たちの投票で世界の行く末が決まるのだ。責任重大である。
 今回のシナリオを読み込む限り、………私の一番の推し、世界で一番大好きなあのキャラクターは囀らないようだ。ちょっとだけ期待していたが…いやまぁそうだろう、彼が出たら多分世界とか余裕で救える気がする。
 ふとパソコンデスクの壁にかけてあるネックレスが視界に入る。……なんだか、今、光ったような…?いや、気のせいか。

年末も残り3日。物語も佳境に入り、財団員達も苦渋の選択を迫られ続けている。とりあえず寝るか、と私はパソコンを閉じて、ベッドまで向かった。



◇◇◇



 顔に冷たいものを感じて、意識が浮上する。…冷たいもの?頬を触ってみると、なんだか濡れている。はっ?!水漏れ?!そう思い飛び起きてみると、そこは。

「…………んな、え……?」

 見渡す限り、黒、黒、黒。
 その中にチラチラ降ってくる、白いもの。………雪、か?
 掌に落ちてきた白いものは私の体温ですっかりいなくなった。雪で間違いないようだ。…なんで雪?いやそれ以前に、ここはどこだ。私は家のベッドで毛布を頭まで被って寝ていたはずなのに。
 とりあえず立ち上がって自分の姿を確認してみる。そこで2度目の衝撃が走った。寝る前の服装ではない。白いふんわりとした七分袖のノーカラーワイシャツに薄水色のフレアスカートと、そして低いヒールの青いパンプス。

「なんだこれ……………これ、でもなんか、見覚えが」

 クルクルと自分の姿を確認していると、向こうの方にきらりと光る、何かを見つけた。なんだろうと近寄ってみると、それは、

「青い羽根…?」


 その瞬間、脳内を揺さぶられるような衝撃が、走って。













「幻覚?そんな訳ないだろう。
君の手にあるその青い羽根が、その証拠さ」




「ダメだよ、もぶ山君。
君がそれを望んでしまえば、全ては終わる」





「今から君に魔法をかけてあげよう」








「…ッッマ、グパイ!!!!!」

 青い羽根を引っ掴んで、走り出す。地面と空の区別のつかない空間の中を、走って、走って、走って走って走って走って。
 行くあてのない中だけれど、とにかく足を動かしていると、だんだん眼前が明るくなってくる。眩しくて両腕を顔の前に掲げて――…光が収まったかと、思えば。

「…あれ、降ってる雪が、………何これ、花びら?」

 深々と降っていた雪の粒は薄紅色の花弁と変わっており、私の手のひらに舞い降りてきても解けることなくその姿を保っている。なんの花だろう…と眺めていたその時だ。


「あれ、もぶ山君?なんでここに居るの?」


 …その声につられて、ふと前を見ると1本の木。その太い幹に、腰掛けているフードマントを羽織った男がいた。
 その男を、私は知っている。


「………マグパイ…?」
「うん。久しぶりだね、もぶ山君」

 男はにっこり、微笑んだ。



◇◇◇



「んー、財団のみんなの夢に接続したはずだったんだけどな」
「寝る前に貰ったネックレスの青い羽根が光ったような気がしたから、もしかしたら………『あの子』が、最後に1度だけ夢を見させてくれたのかも」
「なるほどね。君好かれてるな?!!」
「分かんないよ。…でもまたマグパイに会えてよかった」

 マグパイの腰かける木の幹の根元に腰掛けて、ポツポツと言葉を交わす。あまりにも恥ずかしくて顔を見ることは出来なかったが、でも、これくらいの距離がちょうど良い。

 これは夢だ。醒めるものだ。
 二度と目覚めないなんてことは、ありえない。

 だから夢の中なのだ。どんなに好きでも、私はもう、『そのことを知っている』。

「今回のイベント、君は楽しんでいるかい?」
「そりゃあもう!!!みんなの動きにハラハラして、胃が痛くなる時もあるけど…」
「痛くなるのか」
「なるよ。でも………すっごく楽しい!年末の疲れが吹っ飛ぶくらいにね」

 年末の仕事納めが辛かった時も。夜の遅くまで残業した時だって。いつだってイベントを楽しみに待つ心が私を前へと進ませてくれた。滅びの時まで、前を向いて走り続けるBC財団の彼らの行く末を見守っていたい。

「私ね、みんなのことが大好きだよ。…この先どんなことがあったって、忘れられない年末になると思う」
「…そうかい」

 私は立ち上がって、マグパイを見上げる。彼は鮮やかな夜空のマントの中で、微笑む。

「もう行くのかな?」
「うん。……私には私の居場所がある。もう、分かったからね」
「それじゃあ、君を元のベッドの上へと戻してあげよう。さぁ、目を瞑って!」

 足元から風が吹く。巻きあがる風は花弁と共に私の体を包み込んでいき、そして――…ああ、言い忘れていたことがあった!


「マグパイ!
 私!!私ね―――……!!!」


 あなたに感謝の言葉を伝えていない。ありがとうと、心からの感謝を貴方に――…



「大丈夫、ちゃぁんと、俺には伝わってるよもぶ山くん!!!」



◇◇◇



 カーテンの隙間から、陽の光が差し込んでくる。眩しさに顔を顰めて起きて――…

 そこで、気づいた。


「…………………嘘でしょ、忘れるんじゃなかったの」


 ――…夢の中のことを、覚えている。

 愕然とする中、私の手の中にかさり、と何かが残っている感覚。恐る恐る握りしめていた掌を、開くと。


『もぶ山君へ

 遅めのメリークリスマス!
 君がもう大丈夫だって分かったから、
 記憶はそのまま持ち帰るといい。
 俺にはそれくらいしか出来ないけどね!

 おしゃべり好きなカササギフエカラスより』






―――――

打ち込んでて恥ずかしくなってきたからこれで終わっていい?いいよ ありがとう!!!!!

18,12,30



 

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