にゃあと鳴いて蝶を捕る | ナノ


▼ 01

二人の出会いは決して夢想的ロマンチックなものではないだろう。

出会った日は夜空が綺麗だったとか、気持ちの良い風が吹いていたとか、なにか特別な日だったわけではない。

いつもの日々の中での偶然に二人は出会ったのだ。

そう、それはある日の夕刻だった。

町の通りを歩く尾形百之助の元にガシャーンという大きな物音とヒステリックに叫ぶ女の声が響いてきた。

「同じ事を言わせないで!もういい加減にしてよ!!」
「お、おい、何もこんな所で大声出さなくてもいいじゃないか…」

何事だと辺りを見渡せばとある店の前で言い合いをする男女とそれを立ち止まり見ている数人の通行人がいる。なんだ、ただの痴話喧嘩か、とそれなら首を突っ込んでまで止めることはなかろうと尾形がその場を立ち去ろうとすればフと女の方に目がいった。

「何故こうなったか分からないの?!全部あなたのせいじゃない!」

女は怒りからか悔しさからか、はたまた悲しいのか。顔を真っ赤にさせ目に涙を浮かべながら必死に男に叫んでいる。男はというと女の訴えより周りの目の方が気になるのかなんとか女を落ち着かせようとあたふたとしている。そんな男を見てどことなく、いけ好かない野郎だなと尾形は思った。

「分かった、分かったから続きは家でしよう」
「触らないでよ!」

男は女の腕を掴んで家の中に連れていこうとすれば女はその腕を振り払ってダッと逃げるように駆け出した。数人に野次馬の間を抜けて女はどこかへ行こうとする。その時、女はジッ自分だけを見つめていた尾形の視線に気づいたようだ。女は尾形と目が合うとカッとなった様子で目を細めた。そして「なに見てるのよ!」と強く叫んだ。

走り去る女の背中を見つめる尾形…それが尾形百之助と、その女の出会いであった。

なんとも夢想的ロマンチックの欠片もない出会いである。

だが運命を感じたのは確かだ。

尾形百之助と言う一人の男は、のちに名前を知る事となる市子と言う名の女に、確かに運命を感じたのだ。

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