全部、教えて
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好きな食べ物、好きな本、好きな映画に、好きな音楽。
全部知りたい
全部教えて
あなたのこと、何もかも
携帯で確認した時間は待ち合わせ時刻を過ぎていて。
私は髪を耳にかけ、だんまりを決め込む携帯を握りしめたまま周囲に目を配る。
夕方6時を回ってもまだ陽は落ちず、街は明るくて、蒸し暑さは残って。
行き交う人々は皆、暑いと零していた。
今日は、そらさんとデート。
夕方までお仕事のそらさんと、駅で待ち合わせ。
そらさんとお付き合いを始めてあまり日にちは経っていなくて。
(早く会いたいな…)
そのせいなのか、私がそらさんを好きすぎるのか、待ち合わせの時は死にそうなほど嬉しくて、倒れそうなほど緊張する。
「**ちゃんっ!」
雑踏の中、確かに聞こえた大好きな声に顔を輝かせて勢い良く振り返れば。
「遅くなってごめんね?」
息せき切って駆け寄ってくる、大好きな人。
「ごめん、ホント、ごめん…」
黒いベスト、黒いネクタイ。
明るい髪は、走ったせいでちょっと乱れていて。
肩で呼吸しながら、そらさんは申し訳なさそうに謝り倒す。
「気にしないで下さい。そんなに急がなくても、ゆっくり来ても良かったのに」
「だって1秒でも早く、**ちゃんに会いたかったから」
そらさんの言葉は、シンプルで、真っ直ぐで。
いつも優しく、甘く響く。
「…私も、会いたかった、です」
「……」
「そらさん?」
「…**ちゃん、それ反則」
がばっと、そらさんが人目も憚らず私に抱きついた。
「そらさんっ!ここ、外っ!」
「うん、5秒だけ…」
「…、5秒だけですよ?」
「ん…」
ぎゅうっと抱きしめてくれるそらさんの背中に、そっと手を回す。
「行こっか」
「はい」
差し出された手に自分のを重ねて。
そらさんの笑顔に、ついていった。
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