「3代目、話がある」
なまえが下忍選抜試験に落ちた翌日、オレは1人で火影室に乗り込んだ。キバやシノの班が先にいたが、思い当たる節があるのか、3代目はオレを優先し、キバ達は早々に帰らせた。
「なまえが下忍選抜試験に落ちたと聞いた」
「それは残念じゃの」
ふむ、と3代目は机の上に肘を置き、手を組んだ。オレは、なるべく冷静に、と自分に言い聞かせながら、次の言葉を紡ぐ。
「なまえの班の下忍選抜試験も、オレの班とほぼ同じでチームワークが試されていた。なまえはそれに気付いて他の2人と協力しようとしたんだ。アンタら大人はそれでもアイツを落とすのか?」
オレの言葉を受け、3代目は一度目を伏せる仕草を見せた。
「ほう…では他の2人がなまえの言うことを聞かなかったから落ちた、なまえに落ち度はないと?」
「…っ!少なくとも、…アイツがチームワークを考えて行動しようとしたことは事実だ。それに、アカデミーでの成績もオレと並んで首席だ。十分合格していい要件に達してる。」
オレが反論したところで、3代目は伏せていた目を開け、フッと微笑んだ。
「まあそう慌てるでない。そろそろ本人も来る頃じゃ。」
「失礼します!」
入り口のドアの向こうからなまえの声がした。オレは今日ここに来ることをなまえに伝えていない。このタイミング…キバ達か?
「サスケ…!これって…」
入ってくるや否や、オレがいたことに目を丸くするなまえ。恐らく噂を聞き、半信半疑で来たのだろう。
「サスケはお主が下忍選抜試験に落ちたことが納得できないようでの。なまえはどう考える?」
3代目に問いかけられたなまえは一瞬キュッと唇を噛み締めた後、ゆっくりと口を開いた。
「私は…私も、もう一度考え直して欲しいです。あの時自分が取った行動に悔いはない…時間の許す限りチームで協力することを提案し続け、結果的に2人にその提案を受け入れてもらえなかったけど、その後はその場でできる最適な戦略で臨んだつもりです。」
3代目の方に目をやると、真剣な面持ちで静かに次の言葉を待っていた。オレは再び目線をなまえに戻す。
「でも…結果的に説得できなかったのは事実です。アミとは途中、別の話で白熱してしまったり、トビオとは私の実力を信頼して話を聞いてもらえるほどの関係を築けてなかったり…日頃からもう少しあの2人と良いコミュニケーションができてたら違ったのかなとか、そんな反省もあります。」
そしてなまえは、3代目の目をしっかりと見てから、腰の位置から体を折り曲げて頭を下げた。
「至らないことがあったことは重々承知ですが、できることなら、もう一度考え直してもらえないでしょうか。」
火影室が静寂に包まれる。その時だった。
「失礼します」
聞き慣れない声色に、こんな時に誰だ…とオレは内心舌打ちをしつつ、ドアの方に目を向ける。
そこにいたのは班が決まった初日になまえの班のメンバーを迎えに来た担当上忍だった。
「なまえ、話は聞かせてもらったよ」
「ヤマト先生…」
なまえは下げていた頭を上げ、”ヤマト先生”と呼んだ男を見上げる。
「少々手続きに手間取ってね。不安な思いをさせてすまなかったね。」
そう言った”ヤマト先生”はなまえの前に立つと、なまえの頭にポンっと手を乗せた。
「キミは合格だ、おめでとう。」
「…え?」
「…は?」
目を見開くオレとなまえ。オレはバッと3代目の方に振り向いた。
「そういうことじゃ。なまえは合格してたんじゃよ。」
今まで椅子に座っていた3代目が席を立つ。そしてゆっくりとした足取りでこちらと距離を詰めながら話を続けた。
「アカデミー首席で能力は申し分ない。下忍選抜試験ではヤマトのテストの真意を見抜き、仲間と協力しようという姿勢も大いに見られた。…だがの、忍は基本的に小隊で動く。なまえ1人を合格させた場合、既存のどの班に入ってもらうか考えたり、と少々手続きに手間取ってのう?」
“ヤマト先生”と並んで立った3代目はオレの方に向き直る。
「なまえは人を動かす力がある。その証拠がサスケじゃ。他にも、ここに来るまでに手助けしてくれた人がいないかのう?」
「…イノ?」
3代目は返事の代わりににこりと微笑む。
「これからも、仲間を大切にするんじゃよ」
「…はい!」
天地逆転劇