皇帝は全裸で微笑む・5。


 代々軍の要職を担う名門貴族の家に生まれて何よりも規律を重んじる家庭で厳しく育てられ、成人を迎えると同時に男所帯の軍に入って寮生活を送っていたミズキには、女性経験がない。

 そもそも、女性と接触できる機会が極端に少ないのだ。

 若い下士官連中はそういった類の店に通って有り余るエネルギーを程よく発散していたり、非番時に街で年頃の娘たちに声をかけたりしていたようだが、氷の美貌を持つ名門貴族出身の同僚をいかがわしい場所に誘うのは気が引けたのか、ミズキをその類の店やナンパに誘ってくれる同僚はいなかった。

 簡単に言うと、性的な行為についてそれなりの知識だけは何となく持ち合わせていても経験がまったくないミズキには、今の状況をどう切り抜けるべきか、考えることすらできなかったのである。

「よく喋る割には大人しいな。緊張しているのか」
「この状況で緊張しない者がどこにいるのです」
「そのうち、私の腕の中がどこよりも安心できるようになる」
「……」

 そのうち、という仮定など無意味なことだ。
 ミズキは既に、幼馴染の第二王子に自分の状況を知らせる書簡をしたため、伝令鳥に託していた。

 いくらカイルがカイドウを統べる皇帝であったとしても、権力にものを言わせて他国の軍人を無理やり自国の部隊に異動させるなど、許される話ではない。
 第二王子がこのことを知れば、国王の名で正式に抗議を行い、自分が元の警備隊に戻れるように手配してくれるだろうというのがミズキの目論見なのだ。

 が、先のことよりも、今はこの状況をどうすればいいのかという方がよっぽど重要なことである。

 腰を抱く腕にそれほど力はこめられていないため、抜け出そうとすればいつでもその腕の中から抜け出せるはずなのに、何故かミズキは動くことが出来ずにいた。

 密着した身体から伝わってくる鼓動がミズキよりも速く、強引に見えるこの男が以外にも緊張しているらしいのが、少し嬉しく感じてしまうのは何故なのだろう。

 幼い頃に一度窮地を救っただけのミズキをずっと想い、自分と同じように淡い恋心を大切にしていたという男の気持ちがくすぐったい。

 ……と、何やら甘酸っぱい気持ちに流されかけていたのも一瞬のこと。

「な、何をなさっているのですか!」
「緊張を解いて冷えた身体を温めるには、一汗かくのが一番だ」
「!?」

 大人しく固まるミズキの身体を抱きしめていた全裸の皇帝は、腰に回していた手を毛布の中に差入れ、いかがわしい動きでミズキの股間を探ってきたのだった。

「お気遣いはありがたいのですが、何故一汗かくために下半身に触れる必要があるのか、理解しかねます」
「その初々しい反応も悪くないな」
「そんな感想を聞きたい訳ではありません!」
「安心しろ。正式に婚礼の儀を行うまで、性急に身体を繋げるような真似はしない」
「こ、こんなことをしながらそう言われても、説得力に欠けるとは思いませんか」
「思わんな」

 男同士にもかかわらず、いずれは本気で身体を繋げる気でいるのかということにもツッコミを入れたいところだが、身体をねじって抵抗するミズキをうまい具合に抑えながら、いつの間にか手を下着の中にまで侵入させている手際の良さも驚かずにはいられない。

 今の状況のどこに、安心できる要素があるというのだろう。

「あ……っ!」

 まだ完全には露出していない、男の器官の先端部分を熱い指先で触れられて、ミズキの口からは甘えるような声が飛び出した。
 ミズキの声に反応して、腰に当たるカイルの雄が更に体積を増す。

「他人の手で触れられるのは、初めてか」
「未婚の男であれば、不自然なことではないでしょう」

 今まで経験のなかったことをからかわれているのかと、羞恥に目を潤ませて不埒な男の顔を睨み付けると、首の下に回されていた腕にきつく抱き寄せられ、何が何だか分からないままにミズキの唇は塞がれていた。

「んんん!」

 当然のことながら、口の中に舌を入れられるような濃厚なキスは、これが初めてである。
 あまりの息苦しさに肩を叩いて抵抗すると、カイルは重ねた唇を名残惜しそうに離し、もう一度、触れるだけのキスを落とした。

「奇跡のようだ。美しく育った私の花嫁が、今まで無垢なままでいられたとは」
「お言葉ですが陛下、私は男で、貴方の花嫁ではありません」

 そこだけは譲れないと反論した瞬間、敏感な男の急所を握る熱い手が、再び不埒な動きを開始する。

「や……、だ、め」
「お前は私の花嫁だ。何度でも、身体に教えてやる」
「ああっ!」



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