02:説教サンタと酔っ払い。



「いやー、助かった。しかしこの年になると寒さが堪えて嫌になるな、チクショウ」

 スッキリした様子で部屋に戻ってきたサンタクロースを明かりの下で改めてよく見ると、服装も年齢も、俺の想像していたサンタ像とは全然違っていた。

 サンタというのは、太っちょで白髪のジイさん外国人だとばかり思っていたのに、目の前に立つ男はどう見ても日本人。
 年齢も、30代半ばか後半くらいにしか見えない。

 やたらに肩幅がごっつりした逞しい身体つきに、赤い作業服。
 太い眉と、シュッと端の切れ上がった細い目が、無精髭の似合う角張った顎と組み合わされて絶妙なワイルド感を醸し出している。

 この前25歳になったばかりなのに会社では先輩達にまで「くたびれ感が老人っぽい!」と言われる貧弱な身体と冴えない顔を持つ俺にしてみれば、自称サンタクロースのその男は、理想の塊のような男前だった。

 でもこの人、よく見るとどこかで会ったことがあるような……。

「大丈夫かよ、金井さん」
「えっ?」
「一人で飲み過ぎだろう。こんなにテーブルの上、散らかしちまって」
「あの、どうして俺の名前……」

 思わず訊くと、眉を跳ね上げた男前サンタクロースは呆れたようにため息をついて首を振った。

「おいおい。まさか、全然知らねえ男をこんな簡単に家に上げたってのか」
「だって、サンタクロースって言うから」
「疑え! 怪し過ぎるだろうがよ、こんな時間に窓から侵入なんて! 押し込み強盗だったらどうする気だ」
「じゃあサンタさんってのは嘘なんですか」
「嘘じゃねえが、無用心過ぎる!」

 何故か、親切心でトイレを貸してあげた相手に怒られなければならないという理不尽さ。

 口を尖らせて不満の意を表した俺の前で、サンタクロースは帽子を脱いで癖のついた髪を後ろに掻き上げて流した。

「あれ……?」

 やっぱり、どこかで見た顔だ。

 失礼なほど間近でジロジロと男前の顔を見つめる俺を見下ろして、オヤジサンタはヒントをくれた。

「一昨日も朝会っただろうが、階段で」

 一昨日の朝、階段で出会った人物と言えば一人しかいない。

「まさか……カレス急便さん!?」
「遅えよ。まさか本当に気付いてねえとはな」
「ええぇっ!?」

 まさか、と思いながらも、よく見るとやっぱり男前のその顔は、俺の勤める会社に物品を配送してくれるカレス急便のドライバー・戸田さんの顔だった。

 集荷・配達の時間になると社内の女性陣がソワソワし始めると総務係長が笑って言っていたが、俺の課は総務とは違うフロアに入っているのでそんなに戸田さんと顔を合わせることはないし、その男前ぶりを間近で見たことはない。
 ただ、外回りの帰りに駐車場で会ったり、休憩室に行く途中の階段ですれ違う度に挨拶をする程度の仲ではあった。

「髭、どうしたんすか」
「面倒臭えから休日は剃らねえんだよ」

 普段は綺麗に剃られている髭が今日は少し伸びていて、いつもの青がベースのラガーシャツっぽい制服じゃなく赤い作業服で帽子をかぶっていたから、何だか雰囲気が違って見えてすぐには気付かなかったんだ。

「っていうか戸田さん、サンタクロースだったんですか!」
「臨時の請負契約だ。最近はトナカイの大型二種免許を持ってる奴がなかなかいねぇから毎年人手不足らしくてな」
「トナカイって二種免許とかあるんですか!」

 配送ドライバーの戸田さんが実はサンタクロースの下請け業者さんで、トナカイの大型二種免許を持っている。
 現実的なのか何なのか、もはや理解できない夢だ。



ROOM CUTE:O


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