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タクシーを降りて担ぐように運ばれた先は、何故か俺の家ではなく梶木の家だった。
一人暮らしの男にしては片付いている方かもしれないが、開かれたまま床に置かれている雑誌や朝食をとった後そのまま出掛けてしまったと思われるテーブルの上の皿とグラスがいかにも梶木らしい。
「おい、梶木」
「文句なら聞かねえぞ。酔っ払いは早く着替えて寝ろ」
不機嫌そうに言い捨て、ジャケットを脱いでネクタイを緩めながらこの部屋の家主が投げて寄越したのは……パジャマ。
「……」
「嗅ぐな! ちゃんと洗ってある!」
思わず、俺が着るには少し大きいソレの匂いを確認すると、片足をスラックスから引き抜いていた梶木からツッコミの声が飛んできた。
連れ帰った男に甲斐がいしく替えのパジャマまで用意するなんて。まさかコイツ、実は真性のゲイじゃないだろうな。
というか、今自分がどれだけ危険な状況にいるのか全く分かっていないこの同期の鈍感さが腹立たしい。
ボクサーパンツ一枚という潔い格好をこんな間近で見せつけられると、非常に困る事になりそうだった。
「しっかりしろよ。まさか着替えを手伝えとは言わねーだろうな」
「そこまで酔ってない」
「どーだか」
スーツの上からでも、イイ身体をしていそうだなというのは何となく予想していたけど。
自己主張し過ぎない程度に盛り上がった胸筋といい、綺麗に引き締まった腹筋といい、バランスよく鍛えられた身体は見事なまでに俺の好みど真ん中だ。
ガタイがいいだけじゃない。ボクサーパンツ越しにしっかりと存在感を放つアレのサイズも、かなりそそられるものがある。
これで性格がウチの課長くらい可愛ければ……。
「って、何普通にベッドの上に座ってんだ! ソファに行けよ、酔っ払い!」
これ以上間抜けなノンケ男の無防備さに晒されるとまた安藤課長を思い出してしまいそうで、さっさと寝てしまおうと着替えてベッドに腰を下ろした瞬間。案の定というか何と言うか、梶木が抗議の声をあげた。
「俺は寝付きが悪いからソファでは眠れない」
「人ん家に泊めてもらう時くらい遠慮しろ」
「タバコ臭いけど床で寝るよりマシだから我慢してやる」
「降りろコラ。何でそんなに偉そうなんだよ」
そんな事を言いながらも、本気で俺を移動させる気はないんだろう。
コイツのこういう甘さが仕事にも出てしまうのが気に入らなくて、いつも意見が食い違ってばかりなのに。その優しさが自分に向けられる分には、意外にもそんなに悪い気がしなかった。
半分諦めの表情で、ボクサー一枚のままベッドの真ん中にドカッと胡座をかいた梶木が、長い沈黙の後で思い切ったように口を開く。
「なあ、小杉。お前……安藤課長の事が好きなのか」
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■TEA ROOM■