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薄暗い照明とムーディーな音楽が恋人達のイブを盛り上げる、小洒落たバーの一角。
周りのカップル達がチラチラと痛々しい視線を送ってくるのに堪えられないのか、なるべく店内を見ないようにしながら梶木が不満げな表情でぼやいた。
「何でせっかくのクリスマスイブにお前のスカした顔を見ながら飲まなきゃならねえんだよ」
そう言いたくなる気持ちは分かる。
微妙な笑顔の店員に案内された座席は、夜景を映した窓際に並ぶ二人掛けの“ロマンチックシート”。
甘い雰囲気漂う店内でゲイカップル扱いされる切ないクリスマスなんて、全然予想していなかったんだろう。
さっきからすごいペースで日本酒を飲み続ける同期の横顔は、気の毒なほどどっぷり落ち込んでしまっていた。
帰り際に心配そうな顔をした安藤課長から「喧嘩するなよ」と念押しされていたし、今夜はとことん無視を決め込むつもりだったが「これなら一人で飲んだ方がマシだ」とまで言われると、さすがに俺も言い返さずにはいられない。
「俺だって本当はお前の暑苦しい顔なんて見ながら飲みたくないのを我慢しているんだ。文句を言うな」
「誰が暑苦しいって?」
「驚いた。自覚がないのか」
「お前なあ……!」
ムキになって顔を近付け、言葉を続けようとしたらしいが周りの視線に気付いて座り直し、デカい身体を縮めて大人しく酒に口をつける姿は少し可愛いかもしれない。
「……本っ当に、可愛くねえ奴だな」
タイミングがいいのか悪いのか、苦々しく吐き捨てられた同期の言葉に思わず笑ってしまった。
「悪かったな。だらし無く鼻の下を伸ばしたスケベ顔で“可愛い子ちゃん”を楽しみにしてたのに、相手が俺で」
「……」
元々日本酒は弱いせいか、いつもより早くアルコールが回ってきた頭の中で。
どうして俺と梶木はこんなに仲が悪いんだろうかと今更考え始めていた。
少なくとも、外見だけでいけば梶木はかなりストライクゾーンのはずなのだ。
喋らなければ鑑賞用には丁度いいのにと何度思ったことだろう。
後ろに流した髪が似合う額というのは実はそんなに多くないと俺は思っていて、梶木のそれは悔しい事に文句なしに似合っている。
少し太めの凛々しい眉も、キリッとした奥二重の瞳も、形のいい鼻筋も。性格をそのまま表したような男らしい顔立ちは嫌いじゃない。
日に焼けた筋肉質の逞しい身体は美味そうで、引き締まったケツも、ウチの可愛い男前課長の尻には敵わないけど揉み心地が良さそうだ。
そこまで外見で好印象を与えておきながら入社以来不仲が続いている原因は本当に単純なモノで、恐らく、お互いの性格が合わないから。
同期入社した新人研修の時から既に、ドライで他人に干渉されたくない主義の俺は図々しいまでに人懐っこい梶木が苦手だったし、梶木も俺に対して良い印象は持っていないようだった。
顔を合わせる度にお互い露骨に嫌そうな表情を隠すこともなく。打ち合わせや会議でも意見がことごとく噛み合わず。
同じタイミングで主任、係長と昇進してからは出世レースも絡んでかなり複雑な関係が続いている。
必要以上に近付けてはいけないと社内でも噂になっている犬猿の仲の梶木と俺を、敢えてこんなイベントに参加させようという女性陣の考えが俺には理解出来なかった。
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■TEA ROOM■