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 今夜は仕事の“お付き合い”に時間を費やそうと割り切ってチケットを受け取ると、周りの女子社員達がホッと安堵の表情を浮かべたのが分かった。

「顔を出すのは構わないけど……コレはカップル向けのイベントだろう? 男一人で参加して大丈夫なのか」

 いくら招待券を持っていたからといって、男一人で顔を出されては痛々しくて向こうも扱いに困るという事はないだろうか。
 一応確認のつもりで訊いてみると、いつも元気な総務主任が、得意げに胸を張って言い切った。

「それは大丈夫です! 最高のエスコート役をご用意させて頂きましたので!」
「エスコートって」

 招待チケットはペアだったはずだから、もしかしたら俺の他にも誰か代打がいるのかもしれないとは思っていたけど……。
 どう考えてもエスコート役は男である俺の方だろう。

 冗談のつもりなのか、何かを勘違いしているのか。どう反応していいのか分からず困ってしまったその時。

「あ! 梶木係長、ちょうど良いところに!」

 誰かの声と同時に、周りを囲んでいた女性陣の視線が一斉に、外回りから帰って来た一人の男に注がれた。

「お疲れ様です!」
「梶木係長、お帰りなさい!」
「おお!? な、何だ? 頼まれてた利き酒のアレならまだ時間があるだろ」

 熱烈な歓迎を受けて戸惑う、社内でも一際背の高い男の顔は、周りを女性陣に囲まれた状態でも見る事が出来る。

 梶木智哉。
 隣の営業二課で係長を務める同期のタイミングが良過ぎる帰還と女子社員達の反応に、何やら嫌な予感が胸をよぎった。
 最高のエスコート役というのは、まさか。

「今、小杉係長にも参加をお願いしていたところなんです」
「小杉!?」

 デスクの上に乱暴に鞄を置いてコートを脱ぎかけた梶木が、驚いてこっちに顔を向ける。

 ――物凄く、嫌そうな顔。
 多分、梶木の目に映る俺も、同じような顔をしているだろう。

「あの、俺は“最高の可愛い子ちゃん”を紹介してくれるって聞いて……」
「はい! 我が社イチの美人さんをご用意しました!」
「って、小杉かよ!」
「ツリ目で色白、細身の知的クール美人が好みとお聞きしましたので」
「垂れ目色黒のポッチャリちゃんでいいから女の子を選んでくれよ!」

 やっぱり。
 今夜の“エスコート役”はコイツか。

 お互いに信じられないという気持ちを隠せずに、しばし無言で見つめ合う。
 確かに、他に予定は入っていないけど。こんな奴と二人で過ごすのだけは勘弁して欲しい。

 俺の心の叫びも女性陣には全く届かず――。

「それでは、私たちもこの後デートですので失礼します!」
「お二人でイブを楽しんで来て下さいね!」
「梶木係長、頑張って下さいね! ウフフ」

 笑顔全開で立ち去っていく彼女たちの背中を見送りながら、梶木の低い呟きだけがフロアに虚しく響いたのだった。

「頑張るって、何を……?」




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