ドアの向こう側・2


 確かに俺は寝付きが悪いからソファーでは眠れないとは言ったが。
 だからといって、梶木を追い出してベッドを占拠するつもりはない。

 セミダブルのベッドなら寄り添えば男二人でも普通に眠れるだろうし、密着しているうちにその気になって後半戦になだれ込むのも、悪くないと思っているのに。

 隣に一人分空けて寝ているスペースに、あの鈍感男は本気で気付いていないんだろうか。

 未だに、仕事の話題で安藤課長の名前を出す度に何ともいえない顔になる男のケツを、思いきり蹴飛ばしてやりたかった。

 勘違いして、変な気を遣いやがって。

 安藤課長は上司として尊敬できる人間だし、あの生意気な御曹司の下で毎晩可愛く啼かされているのかと思うと面白くはないが、そこに以前ほどの深い感情はない。
 僅かに残っていたわだかまりも、あの夜、突然発情して俺を襲った男に消し去られてしまった。

 ノンケは相手にしない主義を曲げて、しかも、俺が抱かれる側に回ってもいいとまで思える男は、アイツしかいないのに。

「――気付け、馬鹿」

 聞こえないと分かっていても。
 ドアの向こう側に、呟かずにはいられなかった。



 もう、あの下手くそなキスにしか感じない。
 慣れてなくても不器用でもいいから、もっと強引に俺を落とせ、と。そんな恥ずかしい台詞を、何度言いかけたことか。

 チョコレート色のキーケースと鍵に込められたそんな思いに、あの鈍感な同期が気付くとは思えないが。

 2ヶ月間待ったその言葉が聞けたから。
 今夜くらいは、俺も素直になりたいと思った。


 帰ったら真っ先にアイツを押し倒す。

 そして、伝えてやろう。


“好きだから、早く抱け!”



end.


(2010.2.18)




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