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 自惚れという事ではなく、今までの経験から言うと。
 細めの眉と切れ長の目が涼しげな印象を与えると言われるこの顔は、男にも女にもそこそこウケる方だと思う。

 一晩一緒に楽しめる相手なら、お仲間の集まるバーで声を掛けるだけですぐ調達出来るのに。
 いつになっても“恋人”と呼べるような特定の誰かに巡り逢えないのは、性的マイノリティという以前に、俺の好みに問題があるからなのだと分かっていた。

 どんなに濃厚な夜を過ごせても、その関係が、その後続くはずもない。

 俺は、自分を抱く気満々で近付いて来た屈強な体つきの男を、逆に組み敷いて喘がせるのが趣味だという『訳あり物件』なんだから。


○●○


「利き酒イベント?」

 終業チャイムが鳴ると同時にどこからともなく現れた女子社員達にぐるりと席を囲まれ、チラシとチケットを目の前に突き付けられた俺は、『聖夜も飲まナイト!』と書かれた何ともパクり臭いそのコピーに眉を寄せた。

 大口の取引先であるレストランの経営グループが展開するバーでのクリスマスイベント。
 “お付き合い”で回ってきた招待券を巡り、誰がタダ酒を飲みに行くかで先月女性陣が大騒ぎしていたものらしい。

「本当は秘書課のサキちゃんが参加するはずだったんですけど、専務の予定変更で行けなくなってしまって……」
「ああ、なるほど」

 もう、若手社員達はそれぞれに予定を組み込んでしまったのだろう。
 まさか上役にそんな話を振るわけにもいかず、係長に昇進したばかりで比較的声を掛けやすい俺に話が回ってきたのだと簡単に想像することが出来た。

「それで、今夜予定の入っていなさそうな独り身の俺に参加要請か」
「そそ、そんなつもりではないんですけど」

 本気でそんなつもりがないなら、このタイミングで噛むのは止めて欲しい。

 課長席から『女子社員をいじめるなよ!』という上司の視線が飛んできて、またしても安藤課長の中で印象が悪くなってしまった事に内心ため息をつきながら、目の前に立つ古株の社員に笑顔を見せた。

「冗談だよ。予定が入ってないのは事実だし……ココはお得意様だからな。お付き合いで顔だけ出しに行って来るか」
「ありがとうございます!」

 本当はこの後、馴染みのゲイバーで一人酒を楽しむつもりだったけど。
 仕事の延長線上で飲む方が、今夜がクリスマスだという事を意識しないで済む分楽かもしれない。



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