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「……お前……」
口から出た声が強張っているのが、自分でも分かる。
ディスプレイを一瞬見ただけでも何となく内容が分かってしまうソレは、ゲイサイト。
しかも、熱心に見ていたらしいそのページは、男二人が有り得ない体位で絡み合っている物凄い画像と、その下に解説らしきものが書かれたかなり際どいエロページだった。
「会社で何を見ているんだ! 変態!」
「仕方ねえだろ! お前が下手くそとか何とか言うから……」
「嘘か本当かも分からない怪しいネットの知識で俺をどうにかするつもりなのか、お前は!」
まったく、油断も隙もない。
ノンケの坊やだからとうっかりしていたら、あっという間に喰われてしまう。
あんな胡散臭い画像の怪しげな体位をまさか本気で試すつもりじゃないだろうな、と訊きたかったけど、答えが怖かったので何も言えなかった。
「帰る」
押さえていた身体を離して背中を向けると、後ろから図々しい台詞が飛んでくる。
「待っててくれたんじゃねえのかよ。飯、行こうぜ」
「散々人を待たせておいて自惚れるな」
「いや、自惚れっつーか……待ってたって自分で思いきり言ってるじゃねーか」
「別に待ってない」
「どっちだよ!」
梶木がデスク周りを片付けるのを待たずに、営業部を出て。
ドアのすぐ横の壁に隠れると、慌てて帰り支度を始める音が聞こえて、思わず口元が緩んでしまった。
「あの酷いテクじゃ、当分リードは譲れないな……」
というか、あんなに怪しいゲイサイトで得た知識を試されたのでは堪らないし、梶木が、何の疑問もなく自分が男役に回るつもりでいるところに問題がある。
――でも。
成長次第では、俺がタチを諦めてやってもいいか。
そう思えるくらいには、あの同期を気に入っているかもしれない。
「うおっ! ビビった! いたのかよ」
「遅い」
自分好みにテクを仕込んで育て上げるというテもあるな。
そんな事を考えた俺は、慌てて飛び出してきた同期のネクタイを掴んで、男前の顔を引き寄せた。
「おい、小杉……」
「夕飯の前に、昨日のデザート」
「デザート?」
一瞬何のことだか分からず戸惑った鈍感男も、さすがにこのシチュエーションで俺の欲しいモノは伝わったらしい。
「お前って、時々可愛いよな」
「そうやって油断しているとケツを掘られるぞ」
「まさか!」
「お前の技術の向上次第だ」
キリッと凛々しい眉が微かに跳ね上がって、驚いたような顔に笑みが広がった後で……。
苦い煙草味のスパイスが効いた、甘くて優しいデザートが。
静かに唇の上に降ってきた。
end.
(2010.01.30)
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■TEA ROOM■