第2話 4
皆が何を想像しているのかなんて、聞かなくても分かる。
どいつもこいつも、ソーセージが自分のモノだったら……と想像しているんだろう。
実は俺は、このデカマラソーセージを本気で食わせると世界一エロい雰囲気を醸し出す男として業界ではちょっとした有名人だった。
「シュウ、食ってやれよ」
ニヤリと笑って、恭輔さんが俺をからかう。
恭輔さんも俺も、こういう悪戯はかなり好きだ。
「ちょっと遊んでやりますか」
特大のソーセージをつまんで、こちらを窺う褌仲間たちに視線を流した俺は、つまんだ根元から上の方へとゆっくり舌先を滑らせた。
先端部分をわざといやらしくクリクリ舐め回してから、口の中へと太い肉棒を刺し入れていく。
「ウッ……」と変な呻き声をあげてあちこちで急に前屈みになり始めた奴らの前袋が、こんもり盛り上がっているのが見えた。
単純な奴らめ。
意外に、この店に集まる仲間はこういう刺激に免疫のないウブな奴が多かったりする。
もじもじと微妙な反応を見せる褌仲間の前で、チュプチュプとソーセージを舐めたりしゃぶったりしながらしばらく遊んだ後。
俺は、夢中になって熱い視線を注いでいる奴らに見せつけるようにして…
ブツッ!
……と、思いきり歯をたてて、太いソレを噛みちぎってやった。
「ぐわ……っ」
「かはッ」
カエルが潰れたような声があちこちで上がり、さっきまで前袋を膨らませていた仲間が「ひでぇよ、シュウさん!」と涙目で、もじもじ股間を押さえて俺を睨んでくる。
「うるせぇな、サービスしてやっただろうが」
人がモノを食っているのを、そんなエロい目で見る奴が悪い。
隣では恭輔さんが大笑い。
俺も笑って、もう一度フロアにいる仲間たちを見渡して……。
「げっ」
そこで、全身の血が一気に凍りついた。
いつからそこにいたのか、褌野郎だらけのこの店に全く似合わないスーツ姿の男が、カウンターの奥に立ってこちらをじっと見つめていた。
人好きのしそうな少しタレ気味の目と、それを凛々しく引き締める、キリッと男らしい眉。
固く結ばれている時はいかにもデキる男の堅実な印象を抱かせるのに、目が合った瞬間に甘い笑みを浮かべる唇。
熱気むんむんの店内で、その男の周りだけが、涼しげな空気に包まれているような……。
居るだけで男気を匂い立たせる恭輔さんとは違った種類の、成長途中の健康的な若い雄を思わせる男前。
だが、俺が固まったのは、その男に見とれてしまったからではない。
その顔を、俺はよく知っていた。
それは、毎日のように会社で見かける顔だった。
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