第2話 2
いてぇっすよー、と言いつつ何故か嬉しそうなコウキの頭をマサさんが撫でて、俺をつつく。
「可哀相な事すんじゃねぇよ。コウキはお前が来たら新しい黒猫見せるんだってずっと楽しみにしてたんだぞ」
「俺?」
どうせ今夜はみんな恭輔さん狙いだと思っていたのに。
マサさんの意外な言葉にびっくりしてコウキを見ると、コウキは恥ずかしそうに頭を掻いて笑った。
「恭輔さんは憧れっすけど、俺の兄貴はシュウさんっすから」
「……コウキ……お前」
なんて可愛い野郎なんだ!
「今はまだ六尺もちゃんと締められねぇっすけど、いつかシュウさんみてぇなカッケェ褌兄貴になるのが俺の夢っす」
「お、お前ってヤツは……」
じわっと感動して、危うく涙が出そうになった。
別の店でウリをしていたコウキに声を掛けられ、もっと自分を大切にしろと怒鳴り付け、本当の“男の生き様”を見せてやると言って褌パに連れて来てから約半年。
最初は、こんなチャラチャラした若造に褌が似合うだろうかと思っていたのに、いつの間にか立派な褌野郎になって……。
「あにきーっ」
「コウキ……!」
ヒシッと抱き合って熱い絆を確認し合っていたその時。
突然、フロアが一際賑やかな歓声に包まれた。
「恭輔さん!」
「キョウさん!」
「アニキ!」
野太い声が向けられた店の入口に立った、黒い六尺褌姿の男が、ぐるりとフロア全体を見渡す。
獰猛な鷹のような鋭い視線。
カッチリ決まったオールバックに、程よく隆起した逞しい胸。惚れ惚れするような見事な腹筋。
身に纏う空気が、他の奴らとは全然違う。
まるで、褌を締めるために生まれてきたかのような。
男が惚れる、褌兄貴。
今夜集まった誰もが待ち侘びていた、恭輔さんの到着だった。
「わーっ、恭輔さんだ! すっげー、かっけ〜!」
目をキラキラ輝かせて、コウキがボックス席から身を乗り出す。
……俺が来た時より明らかにテンション高えだろ、お前。
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