DUEL of FORTUNE KAPF
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 2体のドラゴンはそれぞれ呼応するかのように雄叫びを上げた。ソリットビジョンなんだからそんな事は無いと思うけど、彼らは今何を思っているのだろう。
「壮観じゃないか、この2体の圧倒的な威圧感。魂の震えを感じるだろう、遊星? それともキングとドラゴン達の前ではただ怯える憐れな道化とも呼んでおこうか!」
「……必ず取り返してみせる!」
 そしてデッキに手を置き思いっきり引く!
「俺のターン!」

 私が初めてこの2体のドラゴンと会ったのは孤児院に居たとき、2人がカードゲームをしていた時だった。いっぺんにこのカードはね! と説明された時は全く興味が沸かなかったけど、何故か印象深かったのを覚えている。
 それがこうして私達の目の前に、科学の力で身を得たドラゴン達に恐怖……いや感動や高揚にも似た感情を抱くことになるなんて思いもしなかった。

「【シールド・ウォリアー】を守備表示で召喚! そして【ジャンク・ウォリアー】を攻撃表示から守備表示に変更する! さらにカードを1枚伏せる。……ターンエンドだ。」
 たしかにあの2体を超えるシンクロ召喚またはトラップを仕掛けない限り太刀打ちは出来ない。今はまだ守りに専念するしかない。
「ハッ、どちらも守備表示か。さっきまでの勢いはどうした? スターダストは待っているぞ!」
 そしていつの間にかバック走行から前に突っ走っていたジャックと遊星と交差する。公式試合なら即レッドカードを突きつけてやりたいところだ。そのまま逆走するのかと思えばまた方向を変え、遊星の後ろについた。……あそこまでDホイールを使いこなせるとさぞかし楽しいんだろうなぁ……。
「俺のターンだ! このままバトルだ!」
 まあそうよね。
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン】よ! 【ジャンク・ウォリアー】を攻撃! 紅蓮の鉄槌に震えよ! アブソリュート・パワーフォース!」
 レッド・デーモンズ・ドラゴンがジャンク・ウォリアーに炎の咆哮を浴びせ、また隣のシールド・ウォリアーまでもがその炎に飲まれてしまった……!
「これがキングの一撃。戦う意思無きモンスターなど我が王者の戦場には不要! ただ殲滅あるのみ!」
 レッド・デーモンズ・ドラゴンのモンスター効果は相手フィールドの守備表示モンスターを全て破壊してしまうのだという。遊星のフィールドはガラ空きになってしまった。
「キングのステージはこんなものではない。未だ経験し得ぬ痛みをお前に与えよう! 【スターダスト・ドラゴン】よ! ダイレクトアタック!」
「そんな!」
 わざわざスターダスト・ドラゴンにダイレクトアタックさせるなんて!
「そんな……。」
 前のベンチに掴まり、思わず目を背けてしまう。スターダスト・ドラゴンの攻撃が通れば遊星のライフは残り500……。スターダスト・ドラゴンの嘆きが聞こえる。
「屈辱だろう! 自分のモンスターだったスターダスト・ドラゴンによってライフを削られていくのだからなぁ!」
「あんのやろう……絶対にぶん殴る。」
 私の決心はより強固のものになった。出来なかった時は遺書にでも書いてやる。
「お前のターンだ。せめて道化らしくキングを楽しませるがいい。」
 くっそお、大口叩きやがって……!
「俺のターン。【ロード・ランナー】を守備表示で召喚。」
「【ロード・ランナー】か。随分と貧相なモンスターだなぁ。」
「【ロード・ランナー】は攻撃力1900以上のモンスターには破壊されない。この場には最も相応しいモンスターだ。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ。」
「俺のターン! 遊星よ、いかに策を弄しても、絶対的な力の前にお前は非力を自覚する他無い! いざバトル!」
 遊星の場には伏せカードが2枚とロード・ランナー。……あの伏せカードに何か策があるというの? それとも何か別のカードを待っているの……?
「【レッド・デーモンズ・ドラゴン】よ、【ロード・ランナー】に攻撃する!」
 よ、弱い者いじめは良くないんだぞ! この体格差、この攻撃力の差。
「破壊無効効果など、レッド・デーモンズの前では無意味だ。モンスター効果によって相手フィールド上の守備表示のモンスターは全て破壊される運命にある。食らえ! デモン・メテオ!」
 けどレッド・デーモンズ・ドラゴンのモンスター効果を使ってもロード・ランナーは走り続けている。
「やはりトラップ……!」
「そうとも。お前の言う“絶対的力”があるからこそのトラップだ。」
 そうして遊星は1枚のカードをオープン。
「おぉ、そのトラップは【悲劇の引き金】!」
「いつの間に!」
「【悲劇の引き金】は自分のフィールド上のモンスターが破壊される効果を発動したとき、発動することが出来る。その効果を無効にして、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する! レッド・デーモンズの力を我が身で思い知れ!」
 ロード・ランナーがレッド・デーモンズ・ドラゴンに受けた攻撃を倍返しにする! しかし、
「まさに道化の選択。その悲劇、我がレッド・デーモンズには及ばない。スターダストの効果を見よ!」
 跳ね返った炎の柱をスターダストが庇い、受け止めてしまった。
「【スターダスト・ドラゴン】のモンスター効果。フィールド上のモンスターを破壊する効果を受けたとき、そのモンスターをリリースしてその効果を無効にすることが出来る。お前が知らぬはずが無かろう。」
 言葉通りリリースされていくスターダスト・ドラゴンは咆哮と共に頭から光の粒子となって消えていく。
「素晴らしい悲劇だ。お前は自らスターダストにリリースという引導を渡した。我がレッド・デーモンズは無傷。
 見ろ、スターダストの散りざまのなんと美しいことか。俺はカードを2枚伏せる。そしてターンエンドと共に墓地からモンスター効果を発動する。蘇れ! 【スターダスト・ドラゴン】!」
 スターダスト・ドラゴンは自ら破壊する効果を発動したとき、墓地に存在するこのカードをそのエンドフェイスに再び特殊召喚することが出来るんだった。
「さあ! 第2幕の始まりだ!」
 これはデュエル。部外者の私には何も出来ないのにどうにかしてあげたく思ってしまう。悔しい。ただただ悔しかった。
「……そう、第2幕。」
「ん?」
「遊星……?」
 今、笑った……?
「トラップ発動! 【ハルモニアの鏡】!」



:::



 ハルモニアの鏡。そこに映し出されているのはスターダスト・ドラゴン。
「……? あっ、そういえば……!」
「【ハルモニアの鏡】は相手フィールド上にいるシンクロ召喚以外の方法で召喚された時、そのモンスターを自分のフィールド上に特殊召喚出来る!」
「そうか……。知らぬはずが無かったな。故にスターダストの効果を逆手に取ってくるとは。」
 ジャックのフィールドからスターダスト・ドラゴンが消えていく。そして遊星は右手を大きく掲げ、
「飛翔せよ! 【スターダスト・ドラゴン】!」
「いやったあ!!」
 そして遊星のフィールドに再び現れた。
 戻ってきた! スターダスト・ドラゴンが遊星のフィールドに! やった! やった、やった! 嬉しくて思わずジタバタすると思わず仰け反りすぎて後ろに倒れそうになった。あ、あっぶねぇ……。
 やっぱりスターダスト・ドラゴンは遊星の傍にいるとしっくりくる。うふふ、おかえりスターダスト・ドラゴン!
 するとレッド・デーモンズ・ドラゴンがまるで威嚇するようにスターダスト・ドラゴンに咆哮し、応えるようにまたスターダスト・ドラゴンも振り返り咆哮した。
「キングよ! 本当の第2幕の始まりだ!」
「う、うぉぉお!」
 こんなの、興奮するなと言われる方が無理だ。
「覚えているか! お前が俺に告げた言葉を!」
『デュエルとは、モンスターだけではデュエルとは、モンスターだけでは勝てない。トラップだけでも、マジックだけでも勝てはしない。全てが一体と成ってこそ意味を成す。そしてその勝利を築き上げるために最も必要なのは、ここにある。』
「お前はそれを何かは言わなかった。だが俺はその答えを見付けた!」
「聞いてやろう。その答えを!」
「全てのカードを信じる、デュエリストの魂!」
 夕方、因縁付けに来たシティ族モンスターにも言った言葉を、ついにジャックに告げた。
「その魂が、スターダストを俺の元に呼び寄せた。どのモンスターもどのカードも破壊され、リリースされること、全てに意味があった。全てはこの時のために!」
 たまにはジャックも良いこと言うよね。自分の膝に肘をたて頬を付き笑う。
「見ろジャック! 【スターダスト・ドラゴン】の在るべき姿を!」
 それに応えるようにスターダスト・ドラゴンが吠え、またレッド・デーモンズ・ドラゴンも吠えた。それがまるで
『どうだ! 俺の主かっこいいだろ!』
『なんだと!』
 みたいなやり取りに見えてしまい、思わず笑ってしまった。
「フフフフフフ、フハハハハハハハハ! 道化の役割、見事に果たしていると言えるな、遊星!
 良いだろう。お前の言う第2幕、キングの最高のデュエルで締めくくってやる。来るが良い!」
 なんだかあの高笑いも、小さな箱の中にいたジャックの威勢よりもジャックらしく聞こえる。心から楽しんでいる、そんな感じだ。
「俺のターン!」
 遊星がカードを引いた後、カーブ際に並んだジャックを1度見た気がした。遠くて見づらいけど多分遊星もそろそろ決着を付けようとしてるんだろう。
「スピードスペル発動! 【sp-シルバー・コントレイル】! これにより自分フィールドの風属性モンスターの攻撃力を1000ポイントアップする!」
 スターダスト・ドラゴンの元々の攻撃力は2500。一方レッド・デーモンス・ドラゴンの攻撃力は3000。けどこの魔法によってスターダスト・ドラゴンの攻撃力は3500。上回った!
「【スターダスト・ドラゴン】! 【レッド・デーモンズ・ドラゴン】に攻撃! 響け! シューティング・ソニック!」
 スターダスト・ドラゴンがレッド・デーモンズ・ドラゴンを攻撃した、その瞬間。
「うっ……!」
 あ、たまが……! 痛い……!
 急に襲った激しい頭痛。なにかに頭を鷲掴みされ、まさに砕かんとする痛み。自分の鼓動が直接脳内に響いてくるようだ。なんとか前を向くものの、彼らもまた何か様子がおかしい……? しかしレッド・デイモンズ・ドラゴンがスターダスト・ドラゴンの攻撃を無効にした途端、痛みが和らいでいった。……けど脳内を直接刺激してくる鼓動のような痛みは和らがない。
 なに……、今の……?
 自分の胸元を掴み荒い呼吸を整える。
「お前の攻撃は無効だ!」
 そしてロード・ランナーも破壊されてしまった。
「トラップカード【シンクロン・リフレクト】だ。自分フィールドのシンクロモンスターへの攻撃を反射させ、相手のフィールド上にある最も攻撃力の低いモンスター1体を破壊する。」
「……っ!」
「まさに道化の展開になってきたなぁ。この破壊、お前が呼んだと言える。」
 シルバー・コントレイルの効果が切れた今、ロード・ランナーは倒されてしまったということか……。
「ならば手札より【デッド・ガードナー】を守備表示で召喚。」
「スターダストの守りに入ったか。」
「さらに2枚、カードを伏せてターンエンドだ。」
「俺のターン!」
「ウッ……。」
 頭が痛い。さっき遊星に風邪じゃないと言ったけれど、もしかして本当に風邪を引いたのだろうか……。いや、それにしては痛みのベクトルが違うというか、嫌な予感がしてならない。
 脈を打つような痛み。
「お互い、それぞれのドラゴンをぶつけ合おうじゃないか!
 バトル! 【レッド・デーモンズ・ドラゴン】で【スターダスト・ドラゴン】に攻撃! アブソリュート・パワーフォース!」
 しかしスターダスト・ドラゴンの前に立ちふさがるのはデット・ガードナー。
「来たか、【デット・ガードナー】!」
「【デット・ガードナー】は攻撃対象を自分に変更させることが出来るモンスター効果を持つ。レッド・デーモンズとバトルするのはデット・ガードナーだ!」
 レッド・デーモンズ・ドラゴンの炎はそのままデット・ガードナーを焼き尽くし破壊した。
「知っているとも! 【デット・ガードナー】は破壊され墓地に送られたとき、相手モンスター1体の攻撃力をターン終了時まで攻撃力1000ポイントダウンさせる。」
  レッド・デーモンズ・ドラゴン……2000
  スターダスト・ドラゴン……2500
 これでスターダスト・ドラゴンの攻撃力が上回った……!
「くっ……あぁ……!」
 けれど戦況を冷静に見れるほど今の私に余裕は無い。
「スバル!?」
「スバル? ……!」
 遊星が声を荒らげる。その声に釣られるようにジャックまでこちらを見る。よくまあこんな離れているのに気付くもんだ。冷や汗を掻きながら立ち上がり、なんとかフェンスまで辿り着く。
「私に構わないで……、皆の夢を、あなたのエースモンスターを取り戻して、遊星!」
 精一杯叫ぶと、こちらを見ていた遊星は決心したように前を向く。
「トラップ発動【反撃の狼煙】! 【反撃の狼煙】は相手モンスターの攻撃によって自分フィールド上のモンスターが破壊された時、発動することが出来る。自分フィールド上のモンスター1体の攻撃力を500ポイントアップし、攻撃したモンスターと強制的にバトルさせる!」
「……面白い。お前もここで決着を付けようと言うことか!」
 2体のドラゴンが再び咆哮しあった時、また頭を鷲掴みされたように痛む。
「幕を引くのは俺だ! トラップ発動【プライドの咆哮】! 1000のライフを払うことで【レッド・デーモンズ・ドラゴン】の攻撃力は【スターダスト・ドラゴン】の攻撃力よりも300ポイント上回る!」
 なん……だと……!
  スターダスト・ドラゴン……3000
  レッド・デーモンズ・ドラゴン……3300
 ってこと……!? 遊星に、勝ち目が無くなったの……?
「バトルだ! 食らえ! 灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!」
「行くぞ! シューティング・ソニック!」
 お互いのドラゴンが持てる全力でブレスをぶつけ合う。そして――。
「何故だ、何故スターダストが破壊出来ない!? 攻撃力ではレッド・デーモンズが上回っていたはずだ!」
 咆哮を上げたのはスターダスト・ドラゴン。そして遊星の場に1枚のカードがオープンされている。
「【シールド・ウォリアー】!? 墓地に送ったはずだ!」
「墓地にあったからこそ意味を成す効果だ! 墓地にあるカードを除外してモンスターによる戦闘の破壊を1度だけ無効にする。ただし俺のライフは今の攻撃で300ポイント削られている。
 【プライドの咆哮】の効果も切れてた。【レッド・デーモンズ・ドラゴン】の攻撃力は2000に戻っている!」
「遊……星……!」
 さすがだ。差分を受けてジャックは……。
「キングは負けん。」
「ジャック……?」
 目の中に決して諦めない炎を灯しジャックは1枚のカードを掴む。
「スピードスペル!」
「くぁ……!」
「くっ……!」
 頭が……! けど何故かジャックと遊星も様子がおかしい。
「一体なんなんだ、この疼きは……!」
 遊星の言葉に耳を疑う。疼き? もしかして遊星達にも何かあったというの?
 すると2人の腕から赤い光が浮かび上がった!
「っ……! これは……!?」
「なんだ、一体……!」
 地鳴りが起きる中、痛みに負け思わずしゃがみ込みそうになるのを手すりに掴みながらどうにか堪える。私には、最後まで見届けなければならない。彼らの、大切な友達の決死のデュエルを!
 けれどいきなり眩い光が視界を遮る。その光に包まれた瞬間、頭痛が嘘のように無くなりハッと顔を上げた。
 何かの叫びのような声。真っ白な視界の中、何か赤いものが過ぎった。視界がクリアになっていくのと同時にその赤いものの全体を把握することが出来た。
 スターダスト・ドラゴンとレッド・デーモンズ・ドラゴンの間を駆け抜けたのは、赤い、ドラゴン……。
「っ! なんだこれは!」
「クッ……!」
 そして彼らの目もまたドラゴンのように赤く染まっている。
「っ、これで終幕だ! スピードスペル【ジ・エンド・オブ・ストーム】!!」
「頼む! スターダスト!」
 こんな状況でも続けるあたり、さすがデュエル、ばか。
「そしてこれこそが終幕となる! トラッ……!」
 けれど、遊星の台詞を最後まで聞けずに私は倒れ込んだ。
 仰向けに倒れた私はなんとか目を開けた。視界には夜空へと羽ばたく1匹の赤いドラゴンが映る。大きく翼を広げ何かの始まりだと告げるように咆哮し、消えていった。
 再び暗闇に包まれたスタジアム。
「なんだ、これは!」
 と遊星の声が聞こえた。鉛のように重たい頭を起こして確認するにはあまりに自分の意思が弱すぎた。何が、起きているんだろう。
「そうだ、スバル。スバルー!」
 遊星の声が聞こえる。あっはは、腰が抜けてしまって、立ち上がって手を振ることも出来ないや。
《こちらネオ童実野シティ、セキュリティである! ネオ童実野シティは許可無くサテライト住民の侵入は認められない。治安維持局の命により、お前を拘束する!》
 うっわぁ、まじか。こんな時にセキュリティにバレちゃったよ。
「居たぞ! 共に侵入した女だ!」
 言葉と共にまた眩しい光が顔に直行で当たる。今日はよく目眩ましに合う日だ。
 けど手錠を掛けられるよりも意識が飛んだ方が先だった。
「遊星……、ジャック……。」
 最後、決して届かないとわかっていながらも友達の名前を呼ばずにはいられなかった。

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