DUEL of FORTUNE KAPF
--7
「タイゲタ……!」
 ハッと目を開くと目の前には伸ばされた自分自身の腕。その腕にはチューブが繋がっていた。あと見たことが無い服。しかも突き上げた右手から何か黒いリボンが零れ落ちている。掴んだ覚えが無い。なんとか身体に起こし、後ろの壁に寄り掛かる。何故か重たく感じる頭を押さえながらようやく辺りを見渡した。
 部屋全体は暗く、しっかりしたベットの脇にランプがあり、それがこの部屋の唯一の明かりだった。どうやら今の時間は夜らしいということだけはよく分かった。右腕のチューブを辿っていくと点滴があり、透明な袋の中で一滴、また一滴と垂れている。……あ、病院か、ここ。
「あっそうだ! デュエル! 昨日のデュエルはどっちが……!」
 そう口に出してもこの部屋に居るのは私1人。誰も応えてはくれない。
 だよなぁ……、と肩を下げ、ようやく強ばった右手の力を抜く。手の中にあったのは小さな花と四角錐の飾りが付いたチョーカー。何故私はこんなものを握っていたんだろう。しかも力強く。そういえば目が覚めたとき誰かの名前を呼んだような……。ううん? 誰だっけ……。
「私は、どれぐらい……寝ていたんだろう……。」
 ベットから抜け出そうとしたら後ろで扉が開いた気配がした。
「……スバル。」
 振り返ると扉の前で立ち尽くしていたのは
「ジャック……。」
 その手にはなんとピンクのガーベラの花束。
「お前……!」
 なんだぁジャックも可愛いところもあるじゃん! と思ったのに大股でこちらに近づきいきなり襟元を掴まれた。
「この俺に心配などさせおって、なにを呑気にぐーすか丸一日寝ていたのだ!」
「え、え!? まるいちっ……!? えっ、別に寝ても良くない!? こちとら徹夜だったのに!」
「良くない!」
「良くないの!?」
 なんでぇ!?
 ジャックはまた何か言おうと大きく口を開いたけど結局言葉は発さず、襟から手を離した。そして近くに置かれていた椅子に座り込む。私と言えばジャックらしかぬ行動に戸惑うばかりで「ど、どうしたの?」と声が震える。
「……た。」
「え?」
「無事で、良かった……。」
 まさかジャックからそんな言葉が出てくるとは思わなくて度肝を抜かれた。
「……調べてみたが、お前の膝は手術すればちゃんと歩けるようになる可能性があるそうだ。」
「へ?」
「……未だ俺も信じられんが、今のお前の膝は怪我した直後の時間で止まっているかのように症状が進んでいないらしい。」
「……ジャック、ついに頭イカれた?」
「俺はいつだって正気だ!」
 そう叫んで額を押さえた。
「……医者も驚いていた。」
 まじか……。
「下手に手を出してしくじるよりも様子を見ようということで落ち着いた。」
「まじか……。」
 診察代が浮いた……。
 するとジャックは左手に持った花束をタンスの上に置き、その手で私の頭を掴んだ。何かされる! と覚悟してぎゅっと目をとしたが、その大きな手は何かするわけではなくただ左右に動いた。
「お前が元気そうで良かった。」
 そう言って眉を下げて微笑んだのだ。なんだこの穏やかなジャック。誰だお前。
「……貴様、今何考えた?」
「へ!? いえ、何も!」
 いつもの顔より2割増しで凄んできた。そして立ち上がりもう一度私の頭を雑に撫でた。
「わっ……!」
「待ってろチビすけ。必ず俺がまた歩けるようにしてやる。」
「だからチビじゃねぇっての!」
「ハッ! 俺よりも大きくなってから言うんだな。」
 そうしてジャックは部屋から出て行った。
「いや、一生無理だわ……。」
 私の頭を荒らすだけ荒らして帰っていったぞ、アイツ。
「……あ、ああああ!」
 しまった! 顔に拳を埋め込むの忘れてた!
 うおおおおと頭を抱える。そして暫くそのまま頭を抱えた。
 ……久々にジャックのあんな顔を見た。照れくさくて思いっきり顔をしかめてしまったけど、小さい頃、怪我をする度にあんな風に困ったように笑っていたっけ。
 再び扉が開いた気配がして、ジャックが忘れ物でも取りに来たのかとニヤけた表情筋に全力でストップをかける。
 いや、そんな事をする必要も無かった。次に目に飛び込んだもののせいで私のハッピーな心は削ぎ落とされた。入ってきたのは全く知らない、灰色の髪をハーフアップにしたえらく背の高い男の人だった。その、後ろには……。
「スバル・アトラス。サテライト住民のシティ不法侵入は認められていません。監視役に女性のセキュリティを用意しましたので3分以内に着替えなさい。」
「へ!?」
 ここで!? 点滴全部終わってな……、あ。
 バットタイミングすぎる。何故今点滴が全て終わってしまう!
「何か不審な行動を起こした際は手段は選びませんのであしからず。」
 横暴かよ!
 目を見開きあんぐりと口を開けていると、2人の女性セキュリティを残しそれ以外は退散していった。
「きっちり3分です。早く着替えなさい。」
「ひ、ひぇ……。」
 慌ててタンスの中を開けると綺麗に畳まれた服が入っていたので、全部引っ張り出して慌てて着替え始めた。装飾はそんな多くないので着替えるのは早い方だ。目覚めたときに握っていたチョーカーも身につけなんとか終えた。多分カードは没収されそうだと察したから、2人の死角を狙い胸ポケットにハネクリボーを隠した。ごめん、皆。
「終わりましたか。」
 ノック無しで入ってきた奴の台詞かよ!
「……はい。」
「連れて行きなさい。」
 手錠を掛けられ屈強な男に囲まれながら部屋を出た。
 ……こんな逮捕劇、どこを探しても無さそうだな。

「……アトラス。スバル・アトラス!」
 次に気が付くと斜め上から強い光を浴びせられ、後ろで手を組まされていた。あれ!? ついさっき病室を出たばっかりなのに、この状況は一体……!? 逆光で見えずらいが目の前にはこちらを見下ろす男……。多分裁判官だ。
「聞いているのか。スバル・アトラス。お前のデッキは当局が押収する。」
「チッ……!」
 分かってはいたけれどやはり悔しい気持ちがわき上がる。でも胸ポケットに忍ばせたハネクリボーまでは気付かなかったはず! 結果的に他のカード達を囮にしてしまったことを申し訳なく思いながら必ず取り戻すと心に誓った。
「スバル・アトラス。サテライト住民によるネオ童実野シティの不法侵入は重罪である。よって治安維持局はこの罪状に対し、次の如く裁定を行った。
 1つ! マーカーの刻印。」
 ラリーの目元に付けられた黄色いマーカーか。すると上からヘルメットのようなものが降りてきて視界を遮られた。
「くっ、うああああッ、あああああああああああ!!」
 熱い! なんだこの肌を焦がすような激痛! 逃げようにもヘルメットでガッツリ頭を押さえられてるせいで左右にも動かない! 目尻付近で一瞬止んだ痛みは、もう一度その部分から頬の下までジワジワと炙るように下りていく!
 ようやくヘルメットが外され、なんとか左足で踏ん張り前のめりに倒れるのを我慢する。ここで右膝をもう一度打ったらそれこそ一生歩けないような気がした。ジャックが、歩かせてくれるって言ったんだ……! よく分かんないけど症状が進んでいないなら現状維持に限る……! そんな思いとは裏腹に、一瞬で酸欠になった身体はひどく酸素を求め、胸は荒く上下した。
「ネオ童実野シティの管内における不適合者の印である。よって当管内では生活圏が無いことを意味する!」
 クソッたれ……! そこまでするか……!
「1つ!」
 まだあんのか!
「スバル・アトラスは収容所での一ヶ月間に渡る再教育プログラムの受講。これはネオ童実野シティ管内のルールを再確認するためであり、全違反者が均等に受けるものである。
 そしてプログラム終了後、ネオ童実野シティ室内農業に向こう6ヶ月間従順したのち、サテライトへの強制送還される!」



:::



 ……強制送還、ねぇ……。
 護送車に揺られながら窓の鉄格子が張り巡らされた窓の外を眺める。全く、外はこんなにもド晴れで良い天気なのに私の心は分厚い雲に覆われたまま。あ〜、一昨日の今頃はDホイールの試運転でぎゃーすか叫んでたのがまるで嘘みたい……。なんだかんだ楽しかった……。やるなら時速35qから始めたいけど。
 私でさえデッキを没収されたなら遊星はデッキと……やはりDホイールまで没収されてしまったのだろうか……。スターダスト・ドラゴンが今どっちの手にあるか分からないけれど、今の状態が出だしよりも最悪ってのだけはよく分かった。これで一辺も隙を突けずに終わったのなら、の話だけど。
 外の景色が急激に変わった。何かの建物の中に入ったようだ。急ブレーキを掛けた車体は大きく前に傾き、隣で俯く女性にぶつかってしまった。すぐに「ご、ごめんなさい。」と謝ったけれど、その女性は何も反応しなかった。……ちょっと冷たいなぁ。
「早く降りなさい!」
 護送車の扉を開けたのは筋肉ムッキムキのお姉さんセキュリティだった。うっそお……。えっ、うっそお……。思わず食い入るように見つめてしまうがすぐに睨まれてしまった。
 慌てて降りるとその筋肉ムッキムキのお姉さんが何か赤いライトを私の左頬に上から下にスライドした。そして左の端末で何かの確認をしたのちに
「良し。G2MA2-45番。今日から貴様は番号で呼ばれる。」
 うっひゃぁ……、こええよお姉さん……。ジャックに『チビ』と呼ばれるより嫌な呼び方来たな……。
 歩け! みたいな指示を受け、とりあえず前の人に付いていく。
「シティで問題を起こしたものはここに収容され再教育受ける。貴様ら不法侵入以外にも様々な不適合者が収集されている。」
 ……そのようッスね。なんかさっきから鉄格子の間から覗く色んな女性にメンチ切られてる気がします。
「よし、止まれ。ここが貴様らの部屋だ。入れ!」
 そう言った途端バンッと一斉に扉が開いた。す、すっげー!
 とりあえず身近な部屋に入ると、あとからさっき無視された女性も入ってきた。
「強制プログラムは数十分後からだ。それまでしっかりと反省しているように。」
 また台詞が終わった途端に勢いよく閉められた。どうなってんだ。
 慌てて胸ポケットを確認すると、あぁ良かった。私の可愛いハネクリボーちゃん……!
 そこでようやく部屋を見渡すと簡易的なベットが2つと小さな棚が1つ。
「あーかったるかった。」
 突然の声にびっくりして振り返るとあの女性がもうベットに腕を組んだまま仰向けに寝っ転がっていた。
「アンタ、見たところ初犯っぽいね。」
 少しだけ顔を上げて私を見上げる。
「しょ、初犯……ですね。」
「女側の護送車ってのは男連中よりえらく厳しくって、下手に喋ると後で目ェ付けられんだ。だからさっきは無視して悪かったね。」
 グッと起き上がるとベットの上でその女性はあぐらをかいた。
「あたし、ケライノってんだ。アンタは?」
「す、スバルって言います。」
「スバル……。昴、統ばる……。へぇ、良い名前してんね。」
「あ、ありがとうございます……。」
 ニカッと白い歯を見せて笑うケライノさんはさっきまでのしおらしい態度とはまるで別人だ。それに初めて名前で褒められたのでちょっと照れくさい。
「あたしはここに来る前は海賊してたんだ。」
「か、海賊……?」
 突然話がファンタジーになったぞ。
「そっ。海に潜ってお宝ハンターしてんだ。かっこいいだろ?ちょーど高値で捌けそうなお宝発見したからシティで売ってやろうと思ったのに、またサテライトの奴らと間違われてさぁ。あたしは元々シティ生まれだっつの。」
「は、はぁ……。」
 目の前にサテライト出身がいます……。
「で、アンタは? なんでわざわざシティに来てんの? なんか面白い話聞かせてよ。特にお宝関係だと嬉しいんだけど。」
「エッ、えっ、えぇ……!?」
 お、思い出せぇ、思い出すんだ私……! 多分、いや絶対なんか試されてる……! 今後の監獄生活に関わるやつだこれ……!
 するとフッと鼻で笑う声が聞こえたかと思うとケライノさんは口を押さえてクックックッと喉を鳴らした。
「真面目だねぇ、アンタ。ウケるわ。なんでこんな良い子ちゃんみたいなのがサテライトにいんのか謎だわ。」
「いやぁ、なんでって言われましても……。」
「お宝云々は気にしなくていいよ。元から期待してないし。」
 してないんかーーーい! めちゃくちゃビビったのに!
「で、なんでシティに?」
「え、な、な、なんでって……。」
『来い、スバル。』
『待ってろチビすけ。必ず俺がまた歩けるようにしてやる。』
「……私の大切な人達のライディング・デュエルを見届けるためと、脚の手術を受けたいなと、思って……。」
 俯きながら答えた私に「ふーん……。」と肘をつきながら返した。
「アンタ、どっか悪いわけ?」
「右足を少し……。」
 ベットに向かい腰掛けながら言うともう一度「ふーん。」と返された。
「……すみません。面白い話できなくて。」
「ん? 気にすんなよ。出来なかったからって、取って食ってやるってわけじゃないんだからさ。」
 そう言ってまたニカッと笑うケライノさんに私は目を丸くした。
「……なんか、ケライノさんってだいぶイメージが違いますね……。」
「あぁ、最初のおとなしそーなイメージは形だけ取ってるだけさ。そうでもしてないと連中、」
「いや、そうじゃなくて、なんか想像してたシティの人達と違うって言うか……。」
 サテライトの私にもこんな風に接するシティの人が居るなんて。
「……サテライトと同じ、皆が皆、贅沢三昧の食っちゃ寝しているわけじゃないって事よ。」
「……はい。シティにも優しい人が居るんだなって思って安心しました。」
 あははと答えるとケライノは一瞬驚いて頬をかいた。
「あっそ。」
 そっぽ向きながら言うケライノさん。なんか分かってきたぞ。これは照れだな?
 なんかケライノさんとは仲良くやれそうだと思ったら突然勢いよく扉が開いた。
「出ろ。強制プログラムの時間だ。」
 絶対数十分経ってないよね?

 なにやら大きな講堂のような場所に連れてこられるとすでに先客が居た。ガタイが良い人からひょろひょろな人まで、色んな男達が講堂の後ろで待機していた。
……ハッ! もしかして遊星もここに……!? 頑張って背伸びをしながら首を回すと、あっ! 居た! 分かりやすい!
 遊星もこちらに気付き目を丸くした。
「ゆっフゴッ!」
 名前を呼ぼうとしたら真後ろからケライノに口を封じられた。
 ばっか! 目ェ付けられるって言っただろ! 小声で叫ばれてようやくギチギチと音がなりそうなぐらいぎこちなく首を元に戻した。それだけは勘弁!
 手を後ろで組めという指示の元、肩幅に脚を広げながらも左足に重心をかけた。こうでもしてないと膝が痛いんだわ、許せ。
「気を付けェい!!」
 ぼうっと突っ立っていたらいきなりの大声に肩が強ばった。声の元を探ると……。あっ生理的に無理な顔が居た。脊髄反射で目を反らす。見た目で人を判断したくはないんだけど、あの男はなんかすでに無理。
「本日の強制プログラムは、ネオ童実野シティ治安維持局よりレクス・ゴドウィン長官をお招きして、治安に関するお話を拝聴する! 心して聞けェ!」
 そう紹介され壇上に立つのは、
「あぁっ! いっ!?」
 っっっっったあああ!! 今、思いっきり踏んづけたでしょ、ケライノさん!! げっ! 目が怖い!
 だってそこにいたのは昨日の夜、着替えの乙女に対してノック無しで入ってきたあの灰色の男! 治安維持局長官ってことはセキュリティのトップ!? なんでそんな身分がお高い人が私の部屋にわざわざ来たのさ!?
 長官さまはなにやら左を睨んだあと、チラリと私も見た。即、目を逸らす。冷や汗が大雨のように溢れ出して止まらない。

「……かくの如く、この私がネオ童実野シティとサテライト2つの人々を選別したことには大いに意味があるのです。」
 そう言いながら壇上から降りてくる。いや、来なくて良いんですけど!?
「2つの世界は互いに補完し合い、発展していくのです。サテライトに住むものはサテライト住人として、ネオ童実野シティにはネオ童実野シティの住人として、その存在には必然と理由があります。」
 良かった、向こう行った……って向こう側にはたしか遊星が……。振り向いて確認しようにもケライノさんに小突かれ、しぶしぶ前を向く。
「にも関わらず、サテライトから出てきては世の秩序が乱れるというものです。」
 うぅ、あの灰色ロン毛め。遊星に何かしたら私が許さん。
「1人の行動が結果として友人、知人に迷惑を掛けることになる。時にそれは痛みを伴うものになるかもしれません。」
 その後も長ったらしく話が続き、思わず船を漕いだ。その度にケライノさんに小突かれ、気を取り直す。けどあまりに暇なので羊を数えだしたら逆効果だった。しまった。羊を数えるのは寝れないときだった。
「……以上を以て、長官による訓話を終える! 早急に退室しろ!」
 女子は右、男子は左側から出ていく中、
「88号、それと女子の45号も残れ。」
「へ、私?」
「……。」
 ケライノさんが本日何度目かわからない小突きをかます。
「聞けスバル。あの野郎は男連中の方で有名なサテライトヘイトだ。」
 ギョッとしてケライノさんを見るとチッと舌打ちした。
「……気を付けな。」
「わ、わかりました……。」
 そう言い残して列に紛れて行った。
 生理的に無理な顔に呼び出し食らうとかなんて拷問だ……と思ったけれど、もう1人呼ばれた88号ってのはなんと遊星だった。
「ゆ、遊星……!」
「……スバル。」
 2日ぶりの再会である。……なんか少し痩せてないか?
 初めてこんなに離れたのでどう言葉を交わせばいいのか分からず、思わずお互い見つめ合った。そしてそんなわたし達の元に灰色ロン毛……えぇっと、レタス? レクス? 長官がやって来た。
「キングは今頃あのスタジアムでデュエルをしていますよ。」
「……だったらなんですか。」
「それがどうした。」
 気に食わず口を尖らせると、レクス長官の後ろに立つ例のムッキムキの女性教官と生理的に無理な顔の男教官が身を乗り出す。
「口の利き方に気を付けろ!」
 しかしレクス長官は「まぁ、いいでしょう。」と両手で制した。
「……お前達は俺の何を知りたい。」
「……どうゆう事?」
 遊星が何を言い出したのか分からず、その顔を見た。視線はレクス長官に向けながら、
「……昨日の夜、俺の身体を調べていた。……デッキも、Dホイールも調べたらしい。」
「なっ……。」
 思わず身を引いた。
「全てです。」
「えっ……。」
 半歩退いた。
 しかしそんな私の反応は気にも止めなかったようで、レクス長官はフッと怪しく笑って見せた。
「痣は……どこに消えたんでしょうね?」
「痣……。」
 あの夜、遊星とジャックの腕に浮かび上がっていたあの赤い光の事だろうか。
 ジャックは生まれつき、右腕に何かの模様のようにくっきりとした赤い痣がある。それが遊星にもあると言うのだろうか。でも今“消えた”って……。
「治安維持局は何故そんなものを気にする。」
 相変わらず質問にしては断片的に区切る遊星にレクス長官は肩を竦めてみせる。
「治安に関わるからですよ。」
「……何故ここにスバルも呼んだ。」
 あ、そういえば。
「彼女は君の傍に長く居ますからね。何か分かるんじゃないかと。」
 たしかに遊星とは物心つく前から一緒にいるけど、あの光は初めて見たし……。ううん? と頭を傾げる。
「私もあの光は初めて見たので何も……。」
「……光、ですか。」
 見下しながらそう聞き返された。威圧感に縮こまるが、ジャックと同じかそれ以上から少しも顎を下げずに見下されるとムカつく以外何も無いな。
「……お前は何を考えている。」
 スッと庇うように右手で私の前を制止ながら遊星が問う。
「……さっきの話。痛みとはなんだ。」
 え、話? あれを真面目に聞いてたの?
「君こそ何を考えているのか分かりません。私が言いたいのはネオ童実野シティとサテライトの相関のようなものです。」
「スバル……俺の仲間には触れるな。関係無い。」
「おぉ……遊星、ちょっとヒーローっぽいぞ。」
 ハッとして口を塞ぐが出てしまったものは取り戻せない。場違いにも程がある事を口走ってしまった。
「そうでしょうか。」
 良かった、スルーされた。
「お前、何者だ。」
 顎を上げレクスを睨み付ける遊星。1度真っ向に受けたレクスは表情の読めない顔で見下す。
「私はネオ童実野シティと世界の安寧を夢見る者に過ぎません。ただ存在の必然に置いては、一方を生かすために、一方を生け贄にするのもいとわない。」
「ハァア?」
「生け贄、だと?」
 私達に背を向けたレクス長官からは我が耳を疑う言葉が聞こえた。
「犠牲の上に成り立つ安寧に幸せなんかあるもんか!」
「例えばの話です。」
 振り返り、また気味の悪い鉄の笑顔で私達を見た。
 コイツ……!
 腸煮えくり返るような怒りを、拳を握る事でなんとかその場はしのいだ。

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