「ねえ、私好きな人ができた気がする…。」
「え、」

彼はポロリ、と擬音が聞こえてきそうなほど分かりやすく、フォークに乗せていたケーキの一切れを皿に落とした。ケーキを待っていた開きかけの口はそのままあんぐり開いているし、そこまで驚かなくても、と一言付け加える。

「…いや幼馴染長い俺から言わせれば、これまでずっと部活と女友達って感じだったから…。」
「まあそれは否定できないけどさ…。」
「何、告られた…とか?」
「んー、そういうわけじゃないんだけどね。」

適当に相槌を打つと、綱吉は納得いかないというようにあからさまに眉をひそめた。そこでケーキに気が向いたのか、先ほど皿に戻ってしまったチーズスフレのかけらにフォークを刺して再び口に入れ直す。私も彼にならい、自らのガトーショコラを一口放り込んだ。ラ・ナミモリーヌのケーキの中でも定番ながら美味しいと評判のケーキだ。
私の部活のない日には時々彼とこうしてケーキを食べに来る。もちろん女友達と来ることもあるが、私のケーキを欲する頻度は他の女子高生よりも高いようで、綱吉を誘うことも多い。最初こそ友達と行けよなんて突っぱねられたともあったけれど、フゥ太くんに教えてもらった子犬の目を試してみてからというものの、黙ってついてきてくれるようになった。フゥ太くんに感謝だ。

「…同じ学校の奴?」
「まあ、うん。」
「なんでそんなこと急に思ったわけ?」
「…いや、何か意外な一面を見ちゃって、それから頭から離れないっていうか。」
「ふうん…。」
「まあ、100パーセント恋かどうかもまだ分からないけどね。」
「そう…。」
「なに、もしかしてやきもち?」

明らかに態度が変わった彼に、いつものようにからかい半分でそんなことを呟く。なんてね〜、なんて笑い飛ばそうとケーキから綱吉に目線を向ける。そんなことあるわけないだろ、なんて言われるはずだった。

「…綱吉?」

そこにいたのは眉根を寄せたまま顔を赤くしているのに、混乱するような表情を浮かべた彼。突拍子もない何かに出会ったかのように、その目は白黒していた。

「…えっと、どうかした?」
「別に…。」

いやどうかしてるでしょ。なんでそんなに動揺してるの。それじゃまるで、私の好きな人が気になって仕方ないみたいで。沈黙がやけに重く感じ、思わずいやあそれがさ、と思わず話題をそらそうとする。

「ずっと友達だと思ってたんだけどここ何年かで急にかっこよくなっちゃってさ。」
「私が一番仲いいはずなのに最近よく女の子といるし。」
「それをこの前友達に言ったらそれは恋でしょって。」

言いながら私も変な顔になってる気がする。なんだかうまく息ができなくてだんだん早口になってしまう。
一気にそこまで言うと急に恥ずかしくなってきて、思わずケーキとセットでついてきたアイスコーヒーをぐいと飲みほした。まずい、飲み切ってしまったらこれ以上お茶が濁せない。
そのままグラスを傾けたまま固まるわけにもいかず、そろそろとグラスを下ろす。

「いやまあ、まだわかんないけどね!」


何でこんな話をしてしまったのか。そんなことあるわけないとこの前は豪語してたのに。だから本人の前で言ってもネタのひとつになるだろうくらいに思ってたのに。どう考えてもこれじゃ告白同然じゃないか。まだ分からないなんて誰がどう聞いても嘘にしか聞こえない。
綱吉の目が見れない。どんな顔でこの話を聞いているのか。自分の口の滑り具合が恐ろしくて見ることもできない。
どれくらいかも分からないほど沈黙が続いた後、彼は「あー…」と急に息を漏らしたかと思うと、自らの頭を抱えて宙を仰ぎながら「嘘だろ」「遅すぎね…?」「山本…?」とかなんとかぶつぶつ言いだした。なんだ。怖い。急に山本とか言い出すし。何なんだ本当に。

「…まだ、100パーセントではないんだよね?」
「え、あ、えっと…まあ…?」

思った以上に静かな声で喋りだした彼の言葉にうやむやな返事をする。私だって初めてのこの感情に恋という名をつけていいのか考えあぐねているくらいだ。

「…じゃあしばらくそれは100パーセントにしなくていいと思うよ。」
「へ…?」
「いいから。」
「う、うん…?」

どういう意味なのかさっぱり分からない。今度は私が眉根を寄せて呆ける番になってしまった。そんな私をよそに、綱吉は自分のチーズスフレの最後の一口を私の口へぽいと放り込んだ。





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恋の自覚



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