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「レアコイル、なんか感じる?」
聞いてみて……いや、何か反応が返ってくることは初めから期待していない。
「……まあいいや、とにかく気になるとこあったら行きなよ、あたしは勝手についてくから」
気ままにふらふらと動き回るレアコイルを視界に入れつつ、あたしはぐるりとチョウジタウンの町並みを見回した。
昔ながらの田舎のようなここはどうも『忍者の里』なんて呼ばれているらしく、それを売りにしたような観光客向けのちょっとした店があちこちに点在している。そんなに賑わっているようには思えないけれど、ジョウト地方の穴場スポット的なところなんだろうか。ジョウト観光だとエンジュシティやキキョウシティのような歴史を感じる場所だとかコガネシティやアサギシティのような人が多く集まるような場所が人気だろうし、どうにも敵が強すぎる気がする。
まあ、けれど……のんびり歩くにはこういうところの方がちょうどいいかもな、なんてあたしはこの状況を楽しみ始めていた。
ジョーイさんと話した後で改めてクロバットの様子を確認してみると、本当に何ともなさそうで拍子抜けしてしまった。クロバット自身もあまりよくわかっていない様子できょとんとしていた。とはいえあの時のクロバットの異変は気になるし、原因がわからないままだとまたいつ上空急ブレーキを喰らうことになるかわからない。クロバットの健康とあたしの安全のためにも、問題は早いうちに解決しておかないと。

――しばらくレアコイルの気の向くままにチョウジタウンを歩いていると、急にレアコイルが全身に電気を纏い始めた。まさかここで技でも放つんじゃないだろうな、町の外れとはいえ近くに建物もあるんだから自重してくれ!
慌てて駆け寄ると、その建物の看板が目に入る。……お土産屋、だ。
「随分寂れた感じだけど……レアコイル、気になるのってここ?」
レアコイルが興味を持っているということはそういうことなんだろうけど……まさか、こんなところが?
クロバットがチョウジタウンで感じた何かには、ある程度予想がついていた。あたしやほかの多くのポケモンは気が付かないけれど、ズバットやクロバットにはわかる何か。それはきっと超音波のようなものではないか、と踏んでいた。そして電波に引き寄せられるような性質を持つらしいレアコイルなら、まあ電波と超音波の違いはともかくとして、何かしら怪しい場所に勝手に引き寄せられてくれるだろう……という考えでレアコイルを自由に泳がせていたのだ。
それにしても、お土産屋か。超音波や電波とは無縁そうな場所だ、まあ一応調べてみるか。
チョウジタウンの北の外れ、近くに怒りの湖への案内が書かれた看板が立っている以外にはほかの建築物はない。唯一店の隣にある大きな木が妙な存在感を放つだけで、本当にどうしてこんなところにあるのかわからないような小さなお土産屋。……1日にどれくらいお客がくるのか、勝手に心配してしまう。
店の中に入る前に一旦裏手に回ってみる。ただ何の変哲もない引き戸があるだけの、シンプルな見た目。
……いや、確かにここからならこっそり入るには丁度良さそうだけどさ。さすがに勝手に侵入するのは駄目だよな。前にもこういうことしかけて痛い目にあったし、ここは普通に客として正面から入った方が……。
伸ばしかけた手を引っ込めて再び正面へ回ろうとしたその時、急に目の前の戸が開いてそこから出てきた誰かとぶつかった。
「おっと!?」
「きゃっ! ご、ごめんなさい!」
焦ったような女の人の声、顔をよく見る前にそのまま逃げるように駆けだしてしまった。
「……落とし物?」
足元を見ると、黒いごみ袋のようなものがあった。まさかさっきの人が落としたのか、振り返ってみても走り去った女の人の姿はもうどこにも見えない。
とりあえず拾ってみて、軽く中身を揺さぶってみる。……匂いも特にないしゴミが入っているわけではなさそうだ、なら一体何が入っているんだろう。何故だか無性に気になって、その結び目を解いた。すると。
黒い服やら妙にぶっといベルトやら灰色のロングブーツやら。何かのバイトを辞めた奴がその時の作業服を捨てるためにゴミ袋にまとめた、そんな感じか。けれどそんなものをどうして土産屋から出てきた女の人が持っていたんだろう、土産屋と作業服はあまりうまく結びつけることができない。
疑問を残しつつもそれらを再び袋の中に戻そうとしたところで、あたしは黒い服のちょうどファスナーで真っ二つに割れた胸の部分の模様に目が行った。
黒い生地に真っ赤な模様。何となく、本当に何となくその服のファスナーを閉じてみて、その模様の完成形を確認してみた。
――『R』。
その文字としばし見詰め合った後、あたしは無言でそれらをもとあったようにすべて袋に戻し、急いで辺りを見回した。……幸い、あたしの目の届く範囲には人もポケモンも居ない。ふよふよとあたしのレアコイルが浮かんでいるだけだ。
まさか、こんなところでその文字を見ることになるとは。そうなると、この土産屋はもしかして……!?
こっそりと袋の口を開け、中身を改めて見つめる。……この先あたしがやるべきこと、それはたったひとつに絞られた。


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