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02. いざ潜入捜査


あの『R』と書かれた黒い服――即ち、ロケット団の制服。早速その辺の茂みに隠れて着替えたあたしは、迷うことなくお土産屋の裏口の戸に手をかけていた。そこは当然お土産屋のレジ裏に繋がっていたわけだけれど、あたしの格好を見た店員らしき男は突然の不審者の侵入に何も言わない。辺りを見回してからレジを操作したかと思えば、店の奥にあった大きな棚が動いて地下へと続く階段が現れた。あたしは何食わぬ顔でその階段を降りる。
あの小ぢんまりとしたお土産屋の外装からは想像できない無機質な通路を、こっそりと慎重に歩く。通路の片隅に鎮座している猫……ペルシアンの形を模した置物の青い目が不気味にあたしを睨んでいるのが気になりながらも、思った以上にうまく事が運んだことにあたしは内心ほくそ笑んでいた。この黒ずくめのロケット団の制服を着ただけで、こんなに簡単にロケット団に化けられるとは。嘘をつくようなこともなく、お土産屋の地下……恐らくロケット団のアジトであろう場所に忍び込むことができてしまった。
黒の上下に黒いハンチング帽、灰色の手袋に膝上まである灰色のブーツ。お土産屋の裏手であたしにぶつかってきた女の人のものであっただろうそれらを身に纏ってしまえば、どこからどう見てもロケット団の一員だ。ヘアピンで留めていた前髪を下ろしてできるだけ顔を隠し、ポニーテールにしていた後ろ髪はコンパクトにまとめて帽子の中に隠してしまうと本当に別人になってしまったかのようだ。
腰のベルトにはモンスターボールを固定する器具がついており、とりあえず3つほど装着しておいた。制服と一緒に入っていたポーチは……たぶん、ベルトに引っ掛けてウエストポーチのようにして使うんだろう。残りの3つのボールと貴重品などはこちらに移し替えている。残りの今まで着ていた服などの大きな荷物は制服が入っていた黒い袋にまとめて入れてしまった。まさかその辺に放っておくわけにもいかなかったから今も持ち歩いているけれど、さすがにこれを持ったままだと目立つよな。それにいざ誰かに見つかって逃げるときに邪魔になるかも……。
「おい、お前」
「はい!?」
背後から唐突にかけられた声に、手に持っていた袋を強く握りしめてしまう。素っ頓狂な声を上げつつ素早く振り向くと、そこにはあたしと同じような格好をした男が立っていた。
早速見つかってしまった……ひとまず落ち着こう。今のあたしはロケット団の格好をしているわけだからここにいてもおかしくないし、とにかく怪しく見られないように冷静に……!
呼び止められた返事は既に済んでいるため、黙って男の反応を注意深く窺う。あたしを見る目は深めに被られたハンチング帽に隠れてよく見えない。
ふむ、とひとり納得した様子で頷くのを見てまた体に力が入った。
「……新入りだな。もう始まってるぞ、まずはその荷物を置いて来い」
少し、男の目が見える。その瞳が追っているものは、あたしが持っている黒い袋。
「は、はいっ」
思わず袋を抱きかかえ、男に背を向けた。……この袋の中身、見えてないはずだから大丈夫だよな? 新入りって呼ばれたから、あたしが部外者だってことはまだバレてないよな?
何が始まっているのかは知らないけれど、とにかく荷物を置いて来いと言われた。この場から離れるチャンスだ、さっさとこの袋を置いてくるために早く、早く――――。
「どうした、早く行け」
「あ、え、えーっと……」
背を向けてから1歩もその場を動かないあたしに声をかけた男を、ゆっくりと再び振り返る。怪訝な目を向けられている、少し考えたのちにあたしはおずおずと切り出した。
「……どこ、ですか?」
予想外の答えだったらしい。男は一瞬きょとんとした後顔を歪め、大きく溜息を吐きながら心底うんざりしたような表情をして見せる。面倒くさい、そう顔に書いてあった。
荷物をどこに置いてくるべきなのか。この疑問は必ずしも解明されなければならないものではない。この場を離れるだけなら、荷物を置いてくるふりをしてさっさと逃げるという手もあった。それなのに、あたしは少し欲張った。ロケット団の新入り団員だと思われているこの状況で、多少の危険を冒してでもより多くの成果を上げることのできる道を選んだ。
――ロケット団の新入り団員に成りすまして、このアジトに潜入してやろう!
「…………付いて来い、案内する」
現にこの男は、未だあたしの正体を疑う様子がない。挙動不審に見えるであろうあたしの言動も、新入りだからという理由で全て片付けられているようだ。
「ありがとうございます!」
ならば、あたしも新入りらしく先輩には従順であるべきだ。はきはきと感謝の言葉を述べ、早速歩き始めた男に付いて行く。これからの展開に少し期待をしながら。

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