俺がどんな気持ちでお前に尽くしてきたのか、それをお前は一度でも考えた事があるのか。俺の気持ちがお前に分かるのか。
 確かに前の主、織田信長や……長政さまに、未練がないとは言わない。あのかたと同じあの世に行きたいとすら思っていた。だが、俺はあのかたを忘れることにしたんだ。それがどういう事か分かるのか。俺はお前だけを思って、お前のためだけに生きると誓ったんだ。他でもないお前のためだけに。
 お前が望むのなら俺はどんなに汚い仕事でも引き受けるつもりだった。本来ならば戦で生きるはずの俺が、馬の世話や畑仕事をする事もお前が望む事だから喜んでやったんだ。お前のためならば地べたを這いずって己の誇りを汚すような事でも引き受けるつもりだった。どんなに卑怯な事も、どんなに醜い事も、お前のためになると思えば耐えられる。
 しかし、それがどうだ。お前は俺に対して何の感情も抱かないのか? いつか俺のこの思いが報われると信じて行動してきたが、お前は俺がどんな気持ちだったのか考えた事はあるか?
 別に、俺をお前の生涯の伴侶にしろだなんて言わない。そうなったら嬉しいとは思うが、そこまで高望みなんてしていない。ただ、俺をおそばに置いてくれるだけで良かった。お前の忠臣として、ほんの少しでも気にかけてくれるだけで良かったんだ。俺のお前へのこの気持ちを、ほんの少し汲み取ってくれるだけで良かったんだ。「長谷部がいて良かった」と、その一言があれば良かったんだ。
 なのに、それなのに、お前の心を占めるのは俺ではないのだな。誰よりも長く、誰よりもお前のためを思って行動してきた俺よりも、奴のほうが良いのだな。それならそうと言ってくれれば良かったんだ。俺を刀解するなりすれば良い。俺は不要な刀であると、そう言えば良かったんだ。俺を遠ざける事などせず、俺の気持ちを利用するだけして、他の奴にうつつを抜かすだなんて何て酷い人間なんだ。
 ああ、ああ、俺はただお前の一番になりたかっただけなのに!
 それすら叶わない、俺はお前の隣にいる事すら許されない。こんな酷い事があってたまるか。俺の忘れる事にした前の主との記憶も、お前のためにと尽くしてきたこの年月も、すべてが徒労だ! 俺は何のために生きてきたのか! ああ、ああ、なんて酷い!



 だから、もう終わりにする事にしたんです。俺もあなたも、ここで終わりに致しましょう。大丈夫、俺の逸話はご存知でしょう? 知らないなんて言わせませんよ。大丈夫、一瞬で終わります。ね、あるじ大丈夫です。

 今さら謝っても遅いですよ。

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