タタンタタン、と電車の走る騒音が響く。いや、むしろ音だけではなく実際に地面も空気も震えているような気がする。それくらいに、線路が近い。線路が近いと言っても実際に駅から近いかと問われたらそれも違う。駅から線路沿いに何分も歩いた先にある古臭いアパートを見て、僕はただ呆然とすることしかできない。

「えっ、うそ、ちょっと待ってよ。長谷部くんこんな所に住んでるの?」

「……何か文句でもあるのか」

「いや文句っていうかさ、え? こんなボロアパートに住んでるの?」

「………………」

「長谷部くんならもっと良い所に住めるだろう? なんでここなの?」

「……いつか会う主のために貯金しているんだ」

 カンカンカン、と鉄製の階段が大きな足音を立てる。ところどころ錆が出ていて、赤茶色に変色している。
……築何十年の家なんだろう、ここは。
 階段を登りきった先の、これまた古臭い扉の前に立ち、長谷部くんはスラックスの尻ポケットから鍵を取り出し解錠する。その後ろ姿を眺めながらぼんやりと、「鍵をかけたとしても簡単に蹴破れそうだなぁ」なんて考える。その思考が何だか中高生の男子みたいで格好つかないな、と少し恥ずかしく思ったが、こちらに背を向ける長谷部くんには何も伝わらない。

「いや、でもこれは節約しすぎじゃないか? うわっ家具もろくにない!」

「勝手に入るな!」

「うわっうわっ!? 本当にここで生活できるの!?」

「寝られればそれで別に問題ない! 触るな!」

 怒鳴る長谷部くんを押し退けて中を見ると、あまりの家具の無さに唖然とした。





飽きました

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