初めはただ、今の主のために働いて長政さまを忘れられることができれば良いと思っていた。長政さまのことを考える暇もないくらいに働いて働いて、功績を上げることができればと、そう思っていた。できるなら、今の主が俺を手放したくないと思って貰えるほどの功績を上げられれば良いかな、とその程度の思いのはずだった。
 しかし、主にお褒めの言葉をいただくたび、新たな命を賜るたび、別の気持ちが湧き上がってきた。――主に必要とされたい。他のどの刀よりも何よりも、俺が一番だと、俺だけを頼りにしてほしいと、そう思い始めた。近侍にしていただくだけでは足りない。すべてにおいて、主の心を一番に占める存在となりたいと、そう思ってしまった。
 俺にはそうなれるだけの力があるはずだ。打刀や太刀の中では動きは速い方だし、切れ味だってどの刀にも負けない。いや、この切れ味がいまの名の由来なのだ、俺が一番に決まっている。主への思いは間違いなく俺が一番強いはずだ。なのに、主の一番になれた気がしない。どうしたらなれるのか分からない。俺の一番は間違いなく主で、なのにそれなのに、主の一番は俺ではないのか? 耐えられない。そんなこと許せない。
 俺以外の刀を折ってしまえば、容易く主の一番の座を得ることができるだろう。ただ、それでは駄目なのだ。他に選択肢がないから俺を選ぶだなんて、そんな消極的な理由で一番になっても嬉しくなどない。他の刀を見た上で、他と比べたうえで、それでも俺を選んでほしい。「長谷部が一番だ」と、そう言ってほしい。
 他の刀よりも俺は秀でているはずだ。確かに主だって俺を褒めてくださる。それなのに、何が足りない? 何がいけない? 主のためならば何だってする。他の刀のように主に文句を言ったりしない。どんなに汚い仕事であろうとも喜んで引き受ける。そう思っている。……俺がそう思っているだけで、主はそんな命令を下してはくれないのだけれど。

 どうしたら俺は主の一番になれるのか。そうなれる機会があるのならなりふり構わず飛び付くのに。他の刀どもを出し抜いて、たとえ疎まれ憎まれようとも、主の一番となれるのならばどうだって良い。
 ――その覚悟はあるのに、その機会は訪れない。

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