(〜2017.5/7)


「長谷部は何が食べたい?」

「俺は何でも構いません」

「……じゃあ、長谷部はどこ行きたい?」

「主の行きたい所なら何処へでも」

「……何でもいつもそうなの!? いっつも私ばっかり決める役で! もういや!! 長谷部なんて大嫌い!!!」

「えっ、えっ?」

「光忠なら何も言わなくてもお店を選んでくれるのに! 長谷部がしてくれるのは荷物持ちくらいじゃない!!」

 主がどうしてこんな事を叫んだのか、理解ができなかった。俺は主のためを思ってこう言っていたのに。もしも俺の指定した店が主の好みでなかったら? 主の不興を買ってしまったら? こんな瑣末な事で築いたこの地位を失いたくない。そもそも、俺には主以外に興味のある事などありはしないのに。主の思うままに、主の望むままに、すべてを叶えて差し上げたいだけなのに。
 いや、それよりも、燭台切は主と出掛けた事があったのか? 俺の知らない間に? しかも主に好印象を抱かれているのが気に入らない。――後でどうにかしなければ。
 あああ違う、それよりも主の誤解を解かなければ。

「主、俺はそんなつもりじゃ……」

「いや! 言い訳なんて聞きたくない!」

「ある……」

「長谷部なんて嫌い!」

「……ッ」

「…………」

「……き、」

「…………」

「き゛ら゛わ゛な゛い゛で゛く゛だ゛さ゛い゛あ゛る゛じ゛い゛い゛い゛!!!!!」

 何か良い言い訳を、と思っていたのだが、口から出たのは何とも情けのない泣き声だけだった。






(私たち仲直りしました)
(その茶番何回目なの? 僕、そのやりとり何回も見てるんだけど)
(燭台切、後で話がある)
(えっ? 待って濡れ衣だよ長谷部くん待って)

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