花開く少女

 全世界の魔術師を束ねる魔術協会の総本部、通称『時計塔』。
 その最高学府に、日本のとある少女――柊優花梨は、端から見れば何の苦労もなく招聘された。
 彼女の背後にはかの由緒ある魔術師の家門、遠坂家が付いており、周囲は彼女の招聘を、日本の諺で例えるならば「虎の威を借る狐」だと揶揄した。しかし、彼女の招聘から僅か数日後に、人々は己の浅はかな考えを悔いる事となる。柊優花梨は紛れもなく優秀だったのだ。

 ただし、優秀という言葉は、あくまで彼女の魔術の才能のみに対して贈られた。一人の人間としての彼女の言動は、端から見れば滑稽で、決して褒められたものではなかったからだ。変わり者の魔術師など世界中に当たり前に存在し、それはこの時計塔にも同じ事が言える為、大した問題ではないのだが、共に学ぶ魔術師見習い、ましてや優特生にとっては、柊優花梨の存在は奇異そのものであった。

 一方、当の本人は、外野の雑音など何処吹く風といった態度で淡々と勉学に励んでおり、講師からの評判は上々であった。遅かれ早かれ王冠を得るだろうという声も聞こえる程だ。しかしながら、彼女にとっては、時計塔での称賛などまるで興味がなかった。

 彼女――柊優花梨にとっては、遠坂家の当主、遠坂時臣こそが全てであり、絶対であり、それ以外の事は興味がなかった。時計塔に招聘されたのは実力ではなく遠坂家の力だ、と他の優特生から陰口を叩かれても、傷付く事も無かった。紛れもない事実だからである。遠坂時臣が自分を救ってくれなければ、今の自分は存在しない。柊家という牢獄から解放され、こうして普通の暮らしを送る事が出来るのも、何もかも彼のお陰だ。

 そして、その見返りが必要な事も優花梨は理解していた。優花梨が英国で暮らすにあたり、資金面のサポートは、彼女の実の親ではなく遠坂家が全て担っていた。遠坂家と柊家は代々友好関係にあると優花梨は両親に言われ続けて来たが、正しくは主従関係だ。柊家の魔術など、遠坂家には遠く及ばない。幼少期に遠坂時臣と会った瞬間、優花梨は瞬時にそれを理解した。

 遠坂時臣が自分を時計塔へ導いたのは、決して慈善ではなく、遠坂家に仕える魔術師を育成する為なのだと、優花梨は認識していた。優秀な成績を収め、多くの功績を残せば、結果的に柊優花梨への投資は遠坂時臣に対し利益を含む形で戻る事となるだろう。
 全ては遠坂時臣の為に、その為だけに柊優花梨は生きていた。




 今日もいつもと変わらず淡々と一日を終える筈だった。降霊科の授業が終わると、優花梨はいつもの様に足早に教室を後にした。大勢の人間と長時間一緒に過ごすのは未だに慣れなくて、例え誰とも会話をしなくても、妙に気疲れする。

 気分転換に図書館にでも寄ろうかと思いつつ外に出た矢先、優花梨は背中に視線を感じて、ゆっくりと振り返った。辺りを見回すも、不自然な行動を取っている人間はいない。優花梨は前に向き直って再び歩き出した。付き纏う視線は、まだ続いている。
 何の目的か知らないけれど、気配を消しもせずに後をつけるなんて、余程の自信家か、余程の馬鹿だ。私が気付かないとでも思っているのなら、随分と甘く見られたものだ。
 優花梨は自分の実力をある程度客観的に把握していた。これが見習いではないれっきとした魔術師や、魔術師殺しが相手なら、こんな風に傲慢に思う事もなかっただろう。

 図書館とも帰路とも違う方向に歩を進め、人通りが少なくなったところで、優花梨は振り返って魔術を発動させた。
 優花梨の魔術の属性は、風。
 片手を振り下ろして突風を視線の主へ見舞わせると、「うわっ」と情けない声が相手の口から漏れた。相手から殺意めいたものは感じられない。優花梨は数メートル離れた声の主の元へゆっくりと歩み寄り、淡々と告げた。
「何の用? 後をつけるなんて、趣味悪い」

 優花梨は、目の前で尻餅を付いて倒れている少年を見下ろした。端正な顔立ちと綺麗に切り揃えた(異性としては)長めの髪から女の子の様にも見えたが、先程の声と服装から察するに、れっきとした男だろう。
 まさか、変わり者と揶揄される自分なんかをストーキングする様な物好きな男は存在しないであろう事を、優花梨は理解していた。考えられる理由は、嫌がらせか。しかし、目の前の少年はそんな悪意とは無縁の様にも思えた。そもそも、気配も消さずに尾行するなんて、まるで気付いてくれと言っている様なものではないか。
 ――理解不能。そう結論付けた優花梨は、少年への詰問を試みようとした。が、それはすぐに無用となった。
 突風で転んだ拍子に落としたのだろう。少年のすぐ傍に、紅く煌々と輝く宝石が転がっていた。
 それは遠坂時臣から贈られた、優花梨の所有物だ。

 優花梨はそれを拾い上げて、痛む腰を押さえながら起き上がろうとする少年の目の前に掲げた。
「これ、拾ったの? それとも……」
 盗んだの?と問い掛けようとしたが、気配も消せない少年にそんな事は不可能だろう。最近疲れていて気が緩んでいた事は確かだが、他人に物を盗まれる程抜けているつもりはない。それでも、落とした時点で失態である事に代わりはないのだが。
「拾ってくれてありがとう」
 時臣からの贈り物を安易に落としてしまった事に情けなさと申し訳なさを感じつつ、優花梨は無表情で少年に告げた。

 物を落とすなんて初めてだ。考えてみれば、まるで監獄の様な不自由な暮らししか経験した事のない自分が、異国の地で一人で暮らす事自体が、無意識のうちに負担になっていたのだろう。暫くは寄り道せずに真っ直ぐ寮に帰って、勉学や研究の時間を睡眠に充てた方が良いかもしれない。そんな事を考えながら、優花梨は踵を返してそのまま帰ろうとした。刹那、
「おい!! 勝手に自己完結するなっ!!」
 少年は呆れと怒りの入り混じった声で、優花梨の背中に向かって叫んだ。

 突然の事に優花梨は頭が真っ白になった。半開きになった口からは何も発する事が出来ず、優花梨は間の抜けた顔で振り返る。視線が合うなり眉間に皺を寄せて睨み付けてきた少年に、優花梨は取り敢えず何故彼が怒っているのかを思案した。考える事3秒。優花梨は宝石を少年の前へ差し出した。
「これ、欲しいの?」
「は!?」
 少年は呆れた声を上げた後、大きな溜め息を吐いた。ころころと表情が変わって、見ていて飽きないなあと優花梨はぼんやりと思ったが、少年が怒っている理由がますます分からなくなった。

 優花梨が黙ったまま首を傾げていると、少年は痺れを切らして非難の声を漏らした。
「オマエさ、無防備な人間をいきなり攻撃してきて、ごめんの一言もないのかよ」
 そういう事か。優花梨は少年の訴えを理解すると共に、それが理不尽そのものであると判断した。
「だって」
「だって、じゃないだろ」
「ストーキングして来たのはそっち」
「はぁっ!?」
 少年はふざけるなとばかりに声を上げたが、優花梨は一歩も引かなかった。

「これ、いつ、どこで拾ったの?」
「今日、授業が終わってオマエが魔術書しまう時に、鞄からそれが落ちたのを見て、それで」
「という事はあなたも降霊科なんだ」
「……そうだけど」
「じゃあ、その場で直接声掛ければ良い話じゃない。『これ、落ちてたよ』『ありがとう』『どういたしまして』。計3回の言葉の遣り取りで済む話が、どうしてわざわざ後をつけたの?」
「………」
 少年は先程の威勢の良さは何処へやら、気まずそうに目を逸らして押し黙ってしまった。

「誰だって後をつけられたりしたら身構える。あなたに責められる理由はない」
 優花梨の言葉に少年は眉を下げて視線を地面に落とす。そんな態度を取られると、なんだか自分が悪者の様に思えてしまう。彼もだろうが、優花梨も居心地の悪さを覚えた。優花梨としては別に特段彼を追及したい訳ではないので、このまま帰る事にした。
「届けてくれて、ありがとう」
 優花梨はこの場を去ろうとしたが、彼が教室で自分に話し掛けなかった理由として、考えられる唯一の答えが脳裏を過った。
 ――どうして気付かなかったのか。

 優花梨は彼に対し心底申し訳なく感じ、彼の顔をしっかりと見据えて、言った。
「変わり者で、裏で色々言われてる私に、皆の前で話し掛けるなんて嫌だよね」
 その言葉に少年は咄嗟に顔を上げたが、彼が何かを言おうとする前に、優花梨は畳み掛ける様に言葉を紡いだ。
「迷惑掛けてごめんなさい。わざわざ届けに来てくれたのに、攻撃なんかしちゃって、本当にごめんなさい」
 優花梨は少年に頭を下げた。「違う」とか「そんなんじゃない」とか、少年の弁解する様な言葉が耳に入ったが、優花梨はそれに答える事はしなかった。優花梨は顔を上げると少年を見る事もせず、逃げる様に駆け出した。
 今の私は、どんな表情をしているんだろう。鼻の奥がつんとして、気付いたら涙が零れていた。一人でいても、何を言われても平気だったのに。優花梨はこの日、傷付くという感覚を、英国に来て初めて味わった。



 寮に戻った後、無意識のうちに眠りに落ちていた優花梨は、間もなく朝陽が昇る頃に目を覚ました。
 覚醒した後も、優花梨は昨日の事を思い返していた。思えば、自分に対してあんな風にごく普通に話し掛けて来た人間は、彼が初めてではないだろうか。
 優特生達が向ける悪意。
 講師からの称賛。
 両親から受けた、耐え難い苦痛。
 遠坂時臣から与えられた、救いの手。
 昨日の少年は、そのいずれにも当て嵌まらなかった。彼は悪意を向けた訳ではなく、かといって親愛の類でもない。優花梨は、白か黒かでしか物事を考える事が出来なかった。イエスかノーか。好きか嫌いか。必要か不要か。彼女にとって、少年の行動は謎そのものであった。



 降霊科の教室で、優花梨は至って平静を装おうとしたものの、一日中、あの少年の視線を感じずにはいられなかった。何かとちらちらとこちらの様子を窺って来るのだ。つい気になって少年の姿を目で追うと、視線が合う度に、彼は気まずそうに視線を逸らした。
 悪意は感じなかった。

 今日一日で、彼の事を少し知る事が出来た。
 少年の名はウェイバー・ベルベット。彼は講師にそう呼ばれていた。
 そして、彼は俗に言う優特生ではなく、かといって優特生に媚び諂う連中とも違っていた。
 自分と似ている――優花梨はふとそんな事を思った。


 帰り道。昨日の様に尾行しているのとは、少し違った。

 昨日の少年――ウェイバー・ベルベットは、さも行き先が同じですと言わんばかりの顔付きで、堂々と優花梨の斜め後ろを歩いている。本当に行き先が同じなのかもしれないので、優花梨は取り敢えず突然足を止めた。すると、斜め後ろの足音も止まる。
 周囲には他に誰もいない。優花梨は振り返って、少年の顔をまじまじと見つめた。少年は気まずそうに視線を逸らしたかと思えば、何かを決心したかの様に息を飲んで優花梨を見つめて口を開きかけるも、言葉が出て来ないのかまた再び視線を逸らした。
 このまま眺めているのも面白そうだが、時間は有限だ。自分は兎も角、彼は貴重な時間を割いて自分に接しようとしてくれている。何か切欠を作った方が良いのかもしれない。優花梨はそう考えると、彼より先に口を開いた。
「何か用?」

 単刀直入に訊ねた優花梨に、遂に意を決した少年は、眼前の少女を神妙な面持ちで見つめると、突然頭を下げた。
「昨日は…悪かった。……ごめん」
 謝られる理由が分からず、優花梨は無表情で首を傾げた。その様子を察して、少年は頭を上げて更に言葉を続けた。
「教室でオマエに話し掛けられなかったのは、オマエに原因がある訳じゃない。その…ボク自身の問題だ」
「………」
「用件はそれだけだ。もう、二度と付き纏ったりしない。……それじゃ」
 ぽかんとしている優花梨を他所に、少年は簡潔に告げて、踵を返した。優花梨は何も言えず、ただ、少年――ウェイバー・ベルベットの背を見送っていた。

 少年の姿が見えなくなった途端、優花梨は喪失感に襲われた。今すぐに追い掛けようか。でも、追い掛けて、彼をつかまえて、それで自分は一体どうしたいのか? 話をする? 何の話を? 考えれば考える程、優花梨の体は硬直した。こんな感覚は初めてだった。どうすれば良いのか分からず、陽が落ちるまで、優花梨はその場に佇んでいた。



 寮に戻るや否や、優花梨は宝石魔術を用いて、遠坂時臣へ相談を持ち掛ける事にした。
 英国に来る前に、時臣から宝石魔術の基本的な事は学んでいた。何かあった時はいつでも連絡を寄越すよう言われ、優花梨の部屋には時臣から贈られた遠隔通信の装置が飾られている。時間はかかれど手紙で遣り取りする方が良いのでは、とは思うが、情報漏洩の恐れがある一般的な伝達手段は、時臣は取らない主義らしい。

 こんな事でわざわざ魔術を使って連絡を取るのもどうかと思ったが、考えてみれば時計塔に来てから、時臣に連絡を取ったのは初日だけだった。無事に英国に着いた事の報告と、時計塔で魔術師見習いとして日々励む旨を伝え、時臣から激励の返事を受け、それっきり、連絡はしていなかった。特に変わった事もないし、切欠がなかったのだ。
 近況報告も兼ねて、優花梨は遠坂の魔力が込められた石をペン軸に嵌め、筆を走らせた。

 定型文の様な挨拶から始まり、時計塔では日々快適に勉学に励んでいる事の報告。
 そして、拙い文章で、自身の葛藤を飾る事なく打ち明けた。
 降霊科の中では浮いてしまっている事。それが原因で、誰かと話をしたくても、上手く出来ない事。どんな言葉で、どんな表情で、どう振る舞えば上手くいくのか。
 外界から隔離されて生きて来た優花梨にとっては、それは魔術よりも酷く難しいものであった。彼女が時計塔で変わり者扱いされているのも、まさにそれが理由と言える。

 ここまで書き進めて、優花梨は漸く自分が何をしたいのか理解した。
 優花梨が英国に来る前、異国の地でひとり暮らしていかなければならず、不安を隠せずにいる彼女に対し、時臣は一つの助言を与えた。
 ――友人を作りなさい。それは時に支えとなり、君の人生をより一層輝かせるものになる。
 そう言って優しく髪を撫でてくれた時臣との遣り取りが、今になって鮮明に思い出された。
 気付きさえすれば、話はとても単純だ。優花梨はただ単にあの少年と仲良くなりたかっただけなのだ。

 筆を止め、優花梨は机の上に突っ伏した。人と会話するのも苦手だし、文を書くのも苦手だ。相手が敬慕する存在となれば尚更だ。そもそもこんな相談を持ち掛ける事自体、おこがましい事である。だが、優花梨にとっては遠坂時臣しか、頼る相手がいなかったのだ。
 久方ぶりに連絡があったと思いきやあんな内容では、時臣も気分を害するに違いない。優花梨は後悔の念に駆られながら、灯を消してベッドに潜り込んだ。

 まるでその時を見計らったかの様に、机上の装置が振り子が揺れ始めた。宝石魔術。時臣からの返事である。優花梨は慌ててベッドを出て、煌々と輝く宝石の光を頼りに、紙に描き出された文字を読み解いた。最初に、優花梨の時計塔での評判に対する称賛の言葉が書かれている。時臣の耳にも入っていると知り、優花梨は頬を綻ばせた。そして、優花梨が他者へ興味を持ち、友人を作りたいと願っている事は、実に喜ばしい事だとも書かれていた。

『苦悩や努力なくして、成長は為し得ない。変化を恐れず行動を起こせば、自ずと道は開かれるだろう。君にはそれが出来る筈だ』
 具体的に何をどうしろという解答ではなかった。だが、これこそが優花梨の求めていた言葉だった。答えを自分で見つける為に、誰かに背中を押して貰いたかったのだ。
 優花梨は紙に描き出された時臣からのメッセージを指でなぞり、自分に言い聞かせるように何度も見返す。
 答えに辿り着くのに、そう時間はかからなかった。



 翌日、優花梨はどこか落ち着かない様子で、時計塔での一日を過ごした。あの少年に話し掛けたい気持ちはあれど、自分が話し掛ける事で、彼が何かしらの迷惑を被る事になるかもしれない事を考えると、どうしても最初の一歩が踏み出せなかった。

 ――変化を恐れず行動を起こせば、自ずと道は開かれる。

 昨晩の時臣の言葉を心の中で何度も復唱する。まずは勇気を持って、一言声を掛ける。彼が少しでも嫌な顔をしたとしたら、その時はもう諦めるしかない。諦めたくないけれど。出来ればそんな風にはなって欲しくない。一縷の望みに賭け、優花梨は一歩踏み出した。

 一日の授業が終わり、皆が次々に席を立つ中、優花梨は平静を装いつつ、ウェイバー・ベルベットの元へ歩を進めた。優花梨の行動に、目を留める者はいない。少しずつ彼との距離が縮まってゆく。ウェイバーは席を立ち、今にも帰らんとばかりに踵を返す。彼の視界に優花梨の姿は入っていない。まったく気付いていない様だ。今日は諦めようか。――いや、今出来なければ、きっと明日も明後日も、この先もずっと出来ないに違いない。

「ウェイバー君」
 考えるより先に声が出ていた。その呼声にウェイバーは振り向いて、優花梨を見るなり目を丸くした。純粋に驚いているだけで、嫌そうな素振ではない。優花梨はなんとか次の言葉を紡ごうとするが、ここにきて頭が真っ白になってしまった。ウェイバーは怪訝そうに首を傾げ、「何?」とだけ告げると、優花梨の言葉を待った。

 時間が経つにつれ、彼の顔に苛立ちが表れ始める。駄目だ、このままでは何も変わらない。変わり者で、皆から距離を置かれて、友達なんて一人も出来やしない、今までの駄目な私のままだ。
「あの」
 兎に角何かを言わなければ。彼を引き留める言葉を。優花梨が昨晩脳内で繰り広げたシミュレーションなど、最早忘却の彼方と化した。優花梨は空っぽの頭で、叫ぶように言った。

「私と、えっと――付き合ってください!!」


 ウェイバーがまるで狐につままれたかの如く硬直し、その場にいた全員が一斉に優花梨の方を振り返り驚愕の表情を浮かべ、同様に、降霊科の講師であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトが呆然としているのも構わずに、優花梨はウェイバーの両手を取り、時計塔に招聘されて以来、初めての笑みを湛えた。
 教室に驚きの声がこれでもかとばかりに飛び交い、少し遅れてケイネスの叱咤の声が響く。

 この日、柊優花梨の退屈な日々と、ウェイバー・ベルベットの平穏な日々は、終焉を迎えた。

2014/07/06


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