▼ 5.違う形で出会っていたら?
夢を見た。
いつものように仕事に行って、普段通りに仕事をこなし時間通りに帰宅。その帰りにいつものコンビニに寄って近所の友人と遭遇しコンビニで夕飯とおつまみと酒を買って友人宅で晩酌。
いつまでもそんな日々が続けばいーなとただただいつものような他愛のない話で大笑いしていた。
その時に急に視界が暗くなり、次に目を開けると見た事もない部屋に私は寝かされていた。ああ、そうか。ここはエルダーテイルの中だったんだっけ。
起きてその部屋の内装をきょろきょろと見回していると障子が開けられて見た事のある女の子が入ってきて声をあげた。
「起きたんだ!」
「え?あ、あのー…」
「あ、ちょっと待って!うち皆呼んで来るからっ!」
身を翻しソウジロウくんの仲間の女の子が部屋を出て行く。二日酔いのようにアタマが痛い、そして意識がなくなる以前の事を必死に思い出す。ああああ…私、生でソウジロウくんと出くわしたんだった。し、しかもあの子はソウジロウくんとおソロのお洋服を召しているカノジョではないか。こ、ここにいてはマズいっと身体を起こすとぐらりと布団へ倒れてしまった。
ーがらり。
「大丈夫ですか?…あ!まだ寝ていなきゃ駄目じゃないですか!」
わらわらとソウジロウ君やそのお仲間が布団を囲む。そこにはやはりナズナちゃんも居て、私の事を知らないふりをしてくれている。
「頭痛むでしょう?」
「い、いえ…全然大丈ッ!」
いってぇぇぇ!!なんだこれ、凄いコブが出来てるんだけど!!その痛さに目尻に涙を溜めていればソウジロウくんがすみませんと頭を下げる。
「僕の仲間が君の相手をしていたイサミの刀が当たる前に頭を殴って気を失わせちゃったんです…ナズナ!」
えー…と耳をほじほじしながらフライパンを片手に持つ。え?それでやったの?よく頭ヘコまなかったよね。痛い筈だよ、ナズナちゃん馬鹿野郎。
「でもあんたの事、白だって言ってやったんだけど。まぁ、どーもごめんね」
「ナズナ!…ごめんね、もし良かったら君がPKに加わる事になった理由を教えて貰えますか?」
う、言葉が喉に詰まる。
どうしよう、そのまま私が主犯でPK初めましたーなんて言ったらアウトだよね。奇跡的なソウジロウくんとの出会いが終わる。
「実は…あの人達に無理やり…ぅっ」
神様ごめんなさい嘘を吐きました。
それに同情してくれたのかソウジロウくんは私の背中を撫で大丈夫だと口にした。
「外はまだ雰囲気が良くないですから、暫らくはうちのギルドに居て下さい」
天使にみえる。え、後ろに白い羽がみえるよ。それに比べて私の心は真っ黒だ。恥ずかしい。
半泣きで布団で顔を隠せば、ソウジロウくんは優しい言葉を掛けてくれた。
「じゃあ、今日はゆっくり休んで下さい。分からない事があればナズナに聞いて下さい、反省して貴方の世話係を買って出てくれましたから」
…え?体が固まる、わらわらと皆が外に出て行き私とナズナちゃんがこの部屋に残った。
「…な、ナズナちゃん?」
沈黙が続くこの部屋で何も喋らないナズナちゃんに話掛けるとその艶目かしい姿からは創造出来ない程の禍々しいオーラが身体からほとばしっている。
「ファラさ、あたしが言いたい事分かってるよねぇ」
「はい、すみません…」
縮こまった私を見てガシガシと頭を掻く。
「すみませんすみません」
「連絡つかないと思えばあんな事やっててさ、しかも今までずっと避けてたソウジに見付かるってあんた」
生粋の馬鹿だねと鼻で笑われる。
「うう、言わないで〜。会うつもりなかったのに、今ならまだ間に合う本気で出て行きたい手伝ってナズナちゃん」
「そりゃあ無理な話だ。ソウジは"か弱い女の子"を街に放り出すような男じゃないからな」
ーっち!
心の中で舌を打つ。それに気付いたのかナズナちゃんにコラっと怒られるが言うことを聞いてくれない子には謝らない。
なんだかんだで何故か西風の旅団でお世話になる事になったのだが、みんなが笑っていてとても良い雰囲気だ。この世界に元から居たようなそんな感じ。
そうか、みんなこの世界で自分の居場所を必死で探してるんだ。
…しっかりココで生きている。
うん、しかしなんだこのハーレムギルドは。
ソウジロウくーん、ソウジロウ様、色々な呼び方でソウジロウを崇拝しまくっている。もうソウジロウ君を見る目が獲物を狩るような目なんですけど。まぁ、可愛い顔をしているし強いとあっては人気が出るのは無理はないが…しかしここまで宗教的な何かが出来上がっているとは思わなかった。ごめん、白い目が止められない。私もソウジロウ君をストーカーのように影から見つめていた事は認めるが、この中の女共と一緒にされては頂けない。私はどうこうなりたいとかは思わないし、遠くで見ているだけで満足なのだから。
「ファラ、目が死んでるよ。あ、元々か」
「うん、ナズナちゃんひどい」
あははと大きな声を上げて笑うみんなを見ていると、もうこの作られた世界や人物が最初からあったのかのような錯覚が起こる。自分もいずれ、こちらの世界が元から居た自分達の世界のように過ごしてしまうのだろうか。この世界に慣れてしまう自分が少し怖くなった。
「あ!体調はどうですか?」
振り返ればソウジロウくんが手を振ってこっちに走ってくる。ううっ、眩しくて目がチカチカする。
「どうかしましたか?…ナズナまた虐めてないだろうな!」
「ファラちゃんが可愛いもんでつい」
ケタケタと笑うナズナちゃんと仲良く話すソウジロウくんはとても楽しげで、お互い素で話している。まぁ、そんな事は液晶で見ていたぶん分かっていた事なのだけれどなんだか複雑な気持ちになった。
私がこうしてソウジロウ君に出会わなければ決して芽生える事のなかった感情だ。
(目をつぶりたくなった)
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