▼ 9.ファンだから駄目なんだよ
「だから、ファラさんが出て行くなんて僕は許さない!!」
ゼーハー、ゼーハー…
先程の続きから息を切らして言い切ったソウジロウくんはハッとしていつもの様子に戻る。
「っすみません、取り乱しました」
「い、いや、大丈夫」
そのまま立っているのもなんだからといつもの2人座れる長椅子に腰をおろしているのだが、気まずい。とても気まずい。あのソウジロウ君の取り乱しよう、私は何かとんでもない過ちを犯してしまったのではないか。もしかして遠くから見ていたいつもの癖でソウジロウ君がいつも飲んでいるドリンクをチェックしていた事とか、風呂場に入った後に衣類の匂いを嗅ごうとしてやめている事がバレてしまっているのか?それであんな風に怒って慰謝料貰うまで帰さないぞ!!的な感じなのだろうか。解せぬ…。
チクタク静かな時間が続く。
何か話した方がいいのかな、しかし、でも、とうーんと悩んでいれば長椅子に置いた手に重なる暖かい感触に身体がびくりと反応する。私は恐ろしいものを見るかのようにギギギと首を動かす。そこにあったのはやはり私にとってはとても恐ろしい事になり兼ねないソウジロウ君の白くて男の子特有の骨張った手だった。
なんだ、ななななんだ、私は幻覚でもみているのか?この間にもHPは刻々と削られているように感じる。私の心臓が学校のチャイムのような大きな音でドッドっと打ち鳴らし始めた。
「そ、ソウジロウ君、手が…あ、私の手を長椅子の一部だと勘違いしちゃったのかな?色とかそっくりだもんねー!」
そう速やかに退かそうとすれば上から更にぎゅう、と握られる。これは勘違いではない。冷や汗が伝う。
追いかけるのは好きだけど追われるのは苦手。その部類の私はソウジロウ君の静かに放たれる一言によってその行為の意味に嫌でも気付かされる事となった。
「僕は貴方が好きです」
僕は貴方が好きです僕は貴方が好きです。頭の中で何回目かのその言葉が木霊した時に私は我に返り、顔面が爆発した。
え?え!?私はあたりをキョロキョロと見回す。何処かにカメラが回っていて私が喜んだと同時にテーレー!ドッキリ成功〜とか看板持って出てくんじゃないの?ナズナちゃんとかナズナちゃんとかナズナちゃんとか!!
慌てふためいていれば再度覗き込まれ、真っ赤で可愛いですねと微笑まれる。マッカデカワイイデスネ…わわわ若いって恐ろしい、こんなにもこっぱずかしい言葉をスラスラと言えてしまうだなんて。
「で!でもっ、どうして私なんか…ただのストーカーだし、接点なかったし」
つらつらと変な理由を前に出すけれどだんだん自分でも何を言ってるか分からなくなって涙が溜まってきた。
「最初は一目惚れ、でした。けど目で追っている内に素敵だなって思って…そうしたら話す内にドキドキしてきました」
それを人差し指で器用に拭ったソウジロウ君は両手で私の両手を上から包み込む。
「貴方の所為で毎日胸が苦しいんですよ、責任とってくれますよね」
ひぇぇぇぇ!!イケメン過ぎて怖い。この少女漫画の一場面を私の心情でぶち壊してしまって誠に申し訳ないけれど。とりあえずソウジロウ君の笑みの後ろにお腹が真っ黒な眼鏡の友人がみえたよ。
(ファンとか言うからそう身構えるんですよ、禁止です)
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