痴漢にご注意A

突然響いたガチャンという音に意識を呼び起こされ瞼を擦った。辺りを見回しても真っ暗だ。確か…朝の一件があって、大学には行かずに帰宅して、そのあと、そのあとは…布団に包まって…。

自分の行動を思い返していれば、かちゃりと扉の開く音と共にパチッと電気がつけられ一気に明るくなる。

「まぶし…。」

あまりの明るさに目を細め、電気をつけた主を見やる。そこには、朝俺のことを無視した春木が心底機嫌の悪そうな顔をして立っていた。

「ぁ、おかえ、り…。」
「……あぁ。」

正直、春木が帰宅したら朝の電車の一件を問い詰めようかと思ってたけど、ここまで機嫌の悪い春木にそんなことをできるはずもない。触らぬ神に祟りなし、だ。

お互い一言も喋らないまま5分ほど経過した所で、春木の低い声が響いた。

「お前、あれ何?」
「あ、れ…って…?」
「…しらばっくれんな。朝のアレだよ。」

鋭い視線が俺を射抜くように見つめる。俺は言い知れぬ恐怖を感じてゴクリ、と喉を鳴らした。

「お前って、ああいう趣味があんの?それとも、俺以外ともヤレるってこと?」
「…は?え?…え!?ちょっと待って、朝は…俺…ち、かん、に…あって…っ」

春木に言われ、朝起きたことが心の中をぐるぐると回り始める。いくら俺が同性愛者だからって全く知らない男に突然体を好き勝手されてプライドが傷つかないわけがない。思い出したら怒りよりも悔しさの方が大きくなり、一生懸命声が震えないように唇を噛んだ。

「痴漢にあって、あんな風に感じてる顔を周りに見せつけるわけ?そんなに気持ちよかったのか?俺よりも痴漢野郎の方が攻め方が好みだった?」
「は、春木、何言って…」
「声だって俺の所に聞こえるくらい漏れてたぜ?気持ちよさそーに喘いでたな、お前。」
「はる、き…、ご、誤解だ…っおれ、おれは…やだったのに…、嫌だったのに、無理矢理…っ、くッ、ふぅ…っ」

あまりにも俺が悪いと言わんばかりに春木に責められ、堪えていた涙が布団にポタポタと落ちる。なんで分かってくれないの?俺、嫌だったのに…春木に助けて欲しかったのに…。そんな思いとは裏腹に、追い討ちをかけるように怒気を孕んだ厳しい声が降りかかる。



「真昼、お仕置きだ。」



春木の言葉に思わず喉の奥がひゅっと鳴った。体が勝手に後ずさり、気づけばベッド際。春木は俺の気持ちを無視してどんどんこちらへやってきて、ベッドの横に置いてあるサイドボードから縄とバイブを取り出した。

「い、つのまに…そんな、の…」
「お前と楽しく遊ぶために買っといたんだ。まさか、こんな形で使うとは思わなかったけどな…。」
「ぇ、ま、って、それ…今…っ?」
「…そうだ。今からこれで、お仕置きだ。」
「や、やだっ、やだやだッ!俺悪いことしてなっいやだッ」

朝の出来事がフラッシュバックして体が拒否反応を起こす。それでも春木はお構い無しに俺の体を組み敷くと、身につけていた服を全て剥ぎ取り素早く縄で手と足を縛ってベッドのヘッドボードへ括り付けた。腕は背中で縛られて、足はM字開脚。元々痴漢野郎にズタボロにされていたプライドはいとも簡単に打ち砕かれた。

「いやだ、やめっ、やめろよっ!おねが…やめろぉおっ!」

縄を解いて欲しくて体を無理に揺さぶってみるが、逆効果のようでどんどん肌に食い込んできた。春木はといえば俺が何を言っても無視を決め込み、これから使うであろうバイブにローションを塗り込んでいる。てらてらと光るそれはグロテスクな形をしていて、今日無理矢理入れられたローターなんて比べ物にならない大きさだ。

「真昼、お前が悪いんだよ。」

ーグプッヌププッ

「ひ、あああああっ!や、やーっ!ぬい、てっ、やだああああっ!」

自分の意思とは関係なく体を割られる感覚に恐怖を抱いて体がガチガチに硬直する。それでもローションのお陰で滑りやすくなったバイブは俺のナカを遠慮なく押し入ってきた。カチリ、と音がすれば内壁を伝ってブルブルと振動が伝わってくる。

「やあっぁああッ!は、る、はるきっ、やだ、やだあーッ!」
「なんで?俺以外の奴に触られて気持ち良かったんだろ?だから喘いでたんだろ?」
「ち、がうっ、ぅあッンンンーッ!とめ、とめてぇえええっ、あああーッッ!」

俺の体が刺激に揺れる度、縛られた縄からミシミシと音がなる。春木によってゴリゴリと前立腺をピンポイントに攻められ、今まで感じたことのない快楽の波が押し寄せてきた。俺が気持ちいいと感じるのは春木だけなのに、これではまるで朝の痴漢野郎と同じだ…っ。

「はあああああッは、る…ッはるきっ、きー、てっ、聞いてっ…おねがっぁああああッ!」
「何を?今更何て言い訳するつもりだ?」
「ちがっ、ちがう、からあああッあっあっあーッ!だ、ダメッ、いく、イクイク、イッ、くぅうううッ!!!」

ビクビクと大きく体が揺れて精を吐き出した。本来なら気持ち良い行為のはずなのに、相手の気持ちを感じられない今の状況は俺を恐怖で染め上げる。

「痴漢野郎にもされてイったんだろ?淫乱。」
「やっ、イッ、てなっ、イッてないか、らっ、ああああッ!!」
「どーだか。」
「だめだめだめーッ!!またイくっ、イクッイ、くううううッ!はあああああああッ!!!」

イったばかりだというのに手加減なく前立腺を擦り上げられ、また大きな波が押し寄せてくる。どぴゅ、パタタッ、と、腹の上に精子が飛び散る音がした。

「やっ、いまっ、イ…たか、らっ、イッ、たっイッた、のおおおおおおおおッ!!!」
「そうだな。イったな。…だからどうした?」
「ぅ、あああああッ!はるっ、やめ、と、めてぇえええッ、はっ、ああああああああッ!!」

ーびゅくっ

吐精と同時に体が大きく跳ね、ギシッと縄が鳴く。イってもイってもまた次の絶頂が襲ってきて、まさに快楽地獄だった。

「アッ、アアーッッ!ひっ、ぁあああッンンーッや、めっ、ぅああああああッッッ!」
「大丈夫だ、お前にはメスイキも出来るように仕込んだろ。何度でもイける。」
「やあーッ!こわれ、るぅ…っこわ、れちゃ…ひっ、ひあっぅ、ぁっああっ、ぁーっあああああッッ!!!」
「真昼は本当に淫乱だよなあ。まさか痴漢にも興奮するとは思わなかったけど……そうだ、いっそ俺と今度痴漢ごっこでもするか?」
「や、だぁっァーッ、イ、くッううううっ!ーッッ!っ、はぁあッ!イって、るぅ、うッあああああンンーッ!」

春木が何かを言ってる気がするが、俺にはもうどんな言葉も聞く余裕はなかった。このままだと本当に壊れる。そう思っても押し寄せる快楽は止むことはない。

「あっあーっ、ひぁっあ、あああーッ!も、やっ、あああっ!ィ、く、イくううううッ!!」
「はっ、さすが淫乱。嫌だって言ってたくせに、よがって飛んでんじゃねえか。」
「は、あーッ、あっあああっ、あンッ、はああーッ!」

ひたすらに男性器を模したモノでナカを容赦なく抉られ、限界を過ぎてもなお与えられる快楽に俺の意識は朦朧とし始める。体は力が入らず、与えられる刺激に反射的に反応するだけになっていた。

「ひ、ィッぁーっ、は、るきぃ…んんッ、ふ、ぁあっ、ンーッ…は、る…ッ…」

与えられる快楽と自分の涙で歪んだ視界の中、俺は無意識に春木の名前を呼んだ。春木、どうして…。何度も巡ったその考えも快楽による支配で今はもうよく分からない。

突如、電池が切れたかの様に目の前が真っ暗になって、俺は意識を手放した。



「ごめん、ごめんな真昼…俺、俺また…っ、ごめんッ」

覚醒しきらない頭に響いてきた声に、ゆっくりと瞼を開ける。そこには泣きそうなほど顔を歪めて必死に俺を抱きしめる春木がいた。俺の体を縛っていた縄は解かれていて、洋服が着せられている。きっと、春木がやってくれたんだ…。

「は、るき…。」

普通に喋ったつもりだったが、上手く声が出ずに掠れてしまった。その声を聞いて、春木の顔が更に歪む。俺は少し困った笑みを浮かべながら、お水がほしいとだけ伝える。すると、予め用意してあったのか、すぐにコップを渡された。こくり、とお水を一口飲んで、先程よりも潤った声で「大丈夫だよ」と笑ってみせる。

「っ、まひ、る…まひる、好きだっ…真昼、俺はお前が好きで…俺には真昼しかいないんだっ」
「知ってるよ…俺にだって、春木だけだよ。」
「ごめん真昼…っ。」
「もう謝らないで。…春木は、何も悪くない…。」

春木は何も悪くない。そう、悪くないんだ。本当に、何も。
















ートゥルルルル、トゥルルルル
ーピッ

『もしもし。』
「あ、俺だけど。この間はありがと。」
『はっ、てめーが礼を言うなんて気持ち悪いな。明日は雪かあ?』
「あ゙?」
『おー、こえーこえー。…それで、どうだったよ?』
「あーマジで最高だった。あの顔思い出すとゾクゾクして触らなくてもイけそう。」
『ケッ、相変わらずおめーは頭ん中やべーな。お前の恋人ってやつも可哀想だな、こんなのに捕まっちまってよ。』
「だって可愛いんだもん。またやっちゃったって後悔してる時の顔がさ。…また暫くしたらお願いするから、そん時はよろしく。」
『へーへー。本当に女王様は人使いが荒いな。そんじゃな。』
「ああ。」

悪いのは俺。
全部俺が悪いんだ。
だから、もっと落ちてきて。
俺のところまで、落ちてきて。
早く俺なしじゃ生きられなくなって。

ね、春木。

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