いつまでも子供でいたいの


地下鉄の駅から出ると、ちらほら法被姿の男たちが目についた。





今日はお祭りでもあるのだろうかと、大して気に留めずに信号を渡る。帰りに何か買って帰ろうと駅前のスーパーに入るが、休日なだけあって、ずいぶん混みあっていて辟易した。
とりあえず、2Lペットボトルを3本と安売りのカップ麺を4つ、買い物カゴに放り込み、会計に並ぶ。買い物客にも法被を着た人がいて、500mlペットボトルを何本も買い込んでいるのが見えた。

並んでいる間、見るともなしにスーパーの中にいるその人たちを眺める。紺色の法被を着ている人や、深緑色の法被を着ている人がいる。地下足袋を履いた上に白い脚絆を履いている人や、何も履かずにふんどしを締めている人がいる。一口に「法被姿」といっても、格好はまちまちだった。

「会計お待ちの方ー、前の方のレジにどうぞー」

ざわざわとした店内の空気を、レジの女の人の声がとおる。
紫苑は重たいカゴを引き摺って前のレジに置く。「研修生」と書かれた名札を付けたその女の人は、肩書きに似合わない手早さでバーコードを読み取り、ペットボトルとカップ麺をカゴからカゴへ移し、レジ袋を二枚入れる。

「お会計、776円になります」

小銭を探すが、あいにく5円玉と500円玉しかなかった。千円札もない。仕方なく五千円札を差し出し、お釣りをもらう。

6キロの重量で破れてしまいそうなレジ袋を手に提げ、スーパーから出る。自転車置き場まで行こうとして、人ごみに戸惑う。鉢巻きを巻いた人や法被を着た人々、カメラを持った見物人がごっそり増えていた。自転車まで辿り着くこともできずに途方に暮れた紫苑は、人波が去るのを待つことにする。

しばらくすると、囃し声が聞こえてきた。

うんさ、うんさ、ほーい、ほーい、

うんさ、うんさ、うんさ、うんさ、

うんさ、うんさ、ほーい、ほーい、

神輿を担いでいるらしい。
すぐに紫苑の視界にも神輿が入ってきた。
やや小振りの神輿を、大人数で賑やかに担いでいる。神輿の天辺にとまった鳳凰が、きらきらと太陽の光をはじいて輝いていた。神輿が上下に揺れるたび、その鳳凰の尾羽根がしゃらしゃらときらびやかな音を奏でる。屋根に付いている鈴も、からん、ころん、とにぎやかに鳴っていた。

うんさ、うんさ、ほーい、ほーい、

神輿が紫苑の目の前を通りすぎていく。神輿の雅な音や囃し声が遠ざかり、警官が吹く交通整理の笛の音だけが残る。

何のお祭りなんだろう。

ふと、持ち前の好奇心が首をもたげる。

多くの法被姿の人々や見物人も、ぞろぞろと神輿を追いかけていく。紫苑の前から、どんどん人がいなくなっていく。

「あの…」

思いきって、法被の背中におずおずと声をかけてみる。

「ああ?」

振り返ったのは、ピアスをいくつもあけた、太股に龍の刺青を彫った強面の男だった。

「なんだい、兄ちゃん」

彼は、にかりと白い歯を見せて人懐こい笑みを浮かべる。
一瞬、その男の風貌に怯えた紫苑だったが、彼の穏やかな表情に少し安心する。

「えと、これ…何のお祭りなんですか?」
「ん?ああ、ツツジ祭りだよ。ははっ、まだツツジ咲いてねぇけどな。この祭り、日本で一番早い祭りなもんだから、いろんな自治会から見物来てんだ。ほら、法被の種類がたくさんだろ?にぎやか、にぎやか」

からからと笑って、じゃあなと言い置いて男も神輿の方へ走っていった。

「あ…」

まだ、聞きたいこと、あったのにな。

少し残念な気持ちで男を見送る。
ひとつため息を吐いて諦めをつけ、紫苑はくるりと踵をかえした。
そして、瞠目した。

「なに、あんたも加わりたいの?」

そこに、美少年が立っていた。



タイトルは、macleさまよりお借りしました。


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