02
「あんたも、加わりたいの?」 「いや、ぼくは、あの…」
少年は法被をゆるく着付けていて、衿のあわせから滑らかな肌が見え隠れしている。たゆんだそこに、片方の手を無造作に懐手している。 そして彼は股引きも足袋も履いておらず、法被の短い裾からすらりと長い脚が晒され、柔らかそうな裸足がアスファルトを踏んでいた。
「えと、その…、あ、質問、そう、質問を…、き、聞きたいことが、あって…」
垣間見える胸板、剥き出しの脚、何よりもその少年の美貌。 紫苑は目のやり場を失って視線をさまよわせながら、しどろもどろに答える。
「ふぅん。おれでよければ、答えてあげるけど」 「あ、ありがと…」 「で、なに?」
少年は懐手していた手を抜き、紫苑の方へ近付いてくる。袂がほろりとこぼれ、少年の体の横でぱたぱたと風に吹かれてはためく。
「えっと、その、あのお神輿は…」
紫苑の声は尻切れトンボに消えていく。少年の美しさに気圧され、直視出来ずに視線を落とす。けれどそこには、陶器のようにすべらかな透き通った肌色の少年の足があった。一歩、一歩と近付いてくる。歩くという、ただそれだけの動作なのに、目を奪われるほど美しい。
「それで?神輿が、どうしたって?」
すぐそばで少年の声がして、紫苑はびくりと肩を震わせた。気づけばもう、目の前に少年がいた。
「あ」
紫苑の唇から間抜けな感嘆詞が転がり出る。 手から力が抜け、どさりと重い音を立てて、水のペットボトルとカップ麺の入ったビニール袋が地面に落ちる。
目が、合ってしまった。
紫苑よりも少し低い高さにある、一対の灰色の目。色素の薄い、日本では珍しい色の瞳。まるでそれ自体に磁力があるように、紫苑の両目はその目に吸い寄せられていた。
捕らえられてしまった。
「で?質問の続きは?」
薄めだが形の良い明るい色をした唇が間近で動いて紫苑の言葉を促す。
「えっと、…あの、どこのなのかな…って…。神社の…神輿?」 「…ふっ、」
ははは、と少年は湿り気のない、さらりとした笑い声をあげた。
「神社の神輿はもっと大きくて重い。素人じゃあ、いくら人数があっても担ぎ上げらんないぜ。あの神輿は、町内会のもんさ」 「へぇ…」
またもや、紫苑はふぬけた相槌しか打つことしかできなかった。遅れてそのことに気付き、含羞のあまり赤面する。 紫苑の思考回路は少年に駄々漏れだったのだろう、少年は可笑しそうに口端を吊り上げ、笑いを堪えていた。
「…名前は」 「え?あ、ああ、紫苑」 「しおん、か。あんた、見たところ、大学生?新生活にも一人暮らしにも慣れてきた上級生ってとこ?」 「は…なんで知って…」 「つまんなそうな顔、してたから」
ふふん、と得意気に笑う表情が、意外にも幼かった。 今まで、美貌に気を取られて気付かなかったが、彼は自分より年下のようだった。
「…そう言うきみの方は、高校生?」
せめてもの意趣返しにと、紫苑は初めて少年の顔を正視しながら聞いた。
「そ。で、おれはネズミ。よろしく、紫苑」
ぽんっ、と軽く紫苑の肩を叩き、少年は素早く身を翻して神輿を追いかけていった。土など踏んだことのないような綺麗な足が、鹿のように美しい動きで駆けていく。 一度だけ、少年は振りかえって手を降った。
「また遊びに行くよ、じゃあな」
ネズ…!?なんで、ぼくの家分かったの
だっておれ、あんたのこと二年前から知ってんだもん
は?
あんたは知らないか。おれの通ってる高校、あんたの大学と近いんだぜ
えっ、うそ、あの不良高校…そんな風には見えな…あ、ごめん、
ま、そゆこと。毎朝教室の窓からあんたの登校すんの見てたんだぜ
ネズミが先に一目惚れ→紫苑も一目惚れ、よって両想いの二人。 ネズミの生足が書きたかったの! 紫苑が弱気だけど、これ一応紫ネズ。ていうか誘い受け強気ネズミ。 いろいろ現実的な設定あるんだけど…あー、ガーコさんなら分かるかも! あ、ツツジ祭りは4/8にありました、ツツジ全然咲いてない時期でした。 続きは…よく分かんないです。 思い立ったら書くかもです…強気ネズミ好物なのでww
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