左回りに動く時計


・2014紫苑誕企画から天下り
・沙布の独白
・現パロ、教育実習に行くはなし



地下鉄のながい階段をのぼり切り、やっと地表に出たとおもったら、容赦ない陽光がわたしに突き刺さった。眩しさに目を細めながら、急いで折りたたみ式の日傘を広げる。
傘がつくりだす小さな影に守られ、わたしは熱せられたアスファルトの上を歩く。
信号待ちをしている間、どんどん足が熱くなっていく。地面はそんなに熱いの?靴底が薄いのかしら。それとも黒い靴が熱を集めてしまうとか?
そう思って足元に視線を下げると、足だけ傘の影からはみ出ていた。
あ、いけない。そう思って傘の角度を変えた時、ちょうど信号も青に変わった。

すこし斜めになった狭い歩道を、慣れないヒールで歩いて母校へ向かう。あつい。黒い靴はじんじんと足を灼くし、これまた黒いスーツが熱を集める。しかも、長袖だ。半端に長いタイトスカートは歩く度にお腹のまわりをぐるぐるまわってしまって、気持ちわるい。明日からパンツスーツにしようかしら。でもそうしたら、もっと暑いでしょうね。

急に暑くなった。季節の移り変わりは、いつも急だ。徐々に、グラデーションのように、変わってくれれば良いのにと思う。
季節だけじゃない。人間が老けるのも突然だ。

わたしたちの学年と相性の悪かった体育の先生が、めっきり老け込んでいた。どうしてそう思ったんだろう。白髪が増えたから?目付きが前ほど鋭くなくなったから?わたしを見てふにゃりと微笑んだから?
まえはもっと、にやり、という笑い方だったとおもう。すっかり丸くなったその先生には、まったく親しみが持てなかった。

まるで粗探しをするように、事あるごとに服装や髪型を注意をしていた女の先生も、もうおばさんになっていた。あんなにきっちり隙なく化粧をしていたのに、いまやほとんどすっぴんだ。日焼けもしていたみたいだ。くるりとカールしていた髪もボサボサになっていた。彼女のことは好きではなかったけれど、美人だとは思っていたから、少なからず幻滅してしまった。

まだ、ある。わたしたちの担任だった先生はもつ転勤して、職員室にはいなかった。かわりにいたのは、若くて熱血でやる気に溢れた、そこそこイケメンの新米教師だった。名前は何か、教えている科目は何か、いつ赴任してきたのか、いくつか気になったけど、わたしはひとつも質問しなかった。ミーハーだと思われるのは癪だったし、そもそも彼には興味がわかなかった。わたしは真面目な先生が苦手だ。

でも、年をとったのはわたしも同じ。時は平等に人の上を流れる。
生徒は躊躇わずわたしを「先生」と呼ぶし、わたしが「先生」と呼んでいた人は、わたしを見てもわたしだとは分かってくれない。名乗ってはじめて、「ああ、沙布ちゃん!」と思い出してくれる。「お化粧してるから」「大人っぽくなったから」と皆一様に言い訳をするけど、はっきり言っていいのよ、と思う。わたしも、老けたんでしょう。そして、若返ることはないんでしょう。時計が逆向きに回り出す奇跡が、起きないかぎり。


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