フィオーレを頭に乗せて 4 「これで全部運び終わったー?」 「あぁ、うん。大丈夫。助かったよ、お疲れ」 友人二人に手を振って、僕は今日はこのまま片付けたいから今度ご飯を奢ると伝えたらあっさりと帰っていった。 苦学生はいつだって奢りに弱い。 浪人生の生活も終わりを告げ、ようやく念願の大学に通うことになった僕は初めての一人暮らしに期待と、今から整理していく荷物に億劫さを抱えて段ボールに腰をおろした。 中学時代に事故にあい2年の植物状態とリハビリの後ようやく復帰したにしては思ったより早く大学に合格出来たと思う。同じ年だが先輩の友人たちの助けも大きいだろう。 これで後は勉学に励んで、そこそこいい会社に就職出来れば立派な社会人だ。自分のプランを頭で想像しながら、憂鬱さを感じつつそろそろ手をつけるかと腰を下ろしていた段ボールの封を開けた所で早速目的が逸れそうな珍しいものを見つけた。 「あー、こんなの昔買ってたな」 リハビリ中色々な知識を得るために買った一つの植物図鑑。 懐かしい、と手にとった瞬間妙な膨らみを感じてそのページを開いてみた。コトリと落ちる固形物に視線を向ける。 「ビーズ…?」 それは爪程の大きさの、花模様が装飾されたビーズだった。模様の花はよく見たことがあるものだ。けれど思い出せない。 僕は手にある図鑑をこれ幸いと開いて探してみた。 「…っ」 見つけた花の名前に、僕は勢いよく立ち上がり他の段ボールを漁る。そして目的のものを見つけるとそこに水と、手の中のビーズをいれた。 思い出した。 彼がいなければ、僕は、「本当に」死んでいた。 白く黄色い、星のような色を見せるビーズがゆっくりとラムネのように溶けていく。中から何かが蠢いて、止まる。蠢いて、止まる。 何度かそれを繰り返したビーズの中からゆっくりと白く黄色い、星のような小さな小さな塊がまるでスポンジのように膨らんできて。 「もう夢は終わったから、大丈夫」 笑いかけたグラスの水の中。 小さな星が、頭に花をつけて微笑んでいた。 end. *まえ|× さくひん とっぷ |