ハリポタ いつか自由を | ナノ
番外:脱走END後の物語2
ココはそろそろ自覚をするべきだ。
砂糖の船
「トム、おはよう!」
夏休み。
てっきり脱走を諦めて、僕が攫うしかないかなと考えていたココは勝手に脱走して僕の元に来た。
今では毎日起きたらおはよう、寝る時はおやすみを言う間柄になっている。
今日のココは、朝から機嫌が良い。
僕は寝起きの頭を掻きながら鼻を動かす。
すると、ケチャップの少し酸味の利いた香りと、芳ばしいバターと肉の焼けた香りがした。
どうやら、成功したようだ。
「おはよう、ココ」
エプロンを身に纏ったココは、一つのお皿を大事そうに両手で持ってこちらに見せてくる。
エプロンは僕が選んだ物で、赤地のチェック柄だ。
それを身につけたココを見て、なかなかに良いセンスだったと思う。
「トム、見て見て!」
「どれ」
お皿を見る。
そこにはサラダと、ケチャップがかけられたスプラングルエッグ。
それから、ベーコンと茸を炒めた物。
どれも焦げの匂いは一切ない。
また、炭のようでもない。
皿を持つココの指を見る。
昨日の夜から切り傷は増えていない。
「上出来。美味しそうだね」
「でしょ!」
笑顔で言えば、ココは満面の笑みを返してくる。
正直、皿の上の料理は平均レベルだ。
けれど、ココの最初の頃を思えば、かなり上達している。
最初は包丁すら使えなかったからね。
「早く食べよう」
「そうだね」
暖かいうちに!というココに急かされて、席に着いて一緒にいただきますを言って、向き合って食べる。
味付けも良好。
文句無い食事だ。
ココは今も孤児院の癖が抜けないのか、食べるのが速い。
胃に負担があるだろうにとは思うけれど、敢えて言わない。
孤児院の頃の話は持ち出したくもないからね。
それに、早く食べようと栄養吸収はしっかりしているらしく、ココはすくすくと成長している。
ガサガサだった肌が綺麗になった。
(肌に良い薬を入れた風呂に浸からせているからかもしれない)
パサパサだった髪も綺麗になった。
(風呂上がりにトリートメントを塗らさせているからかもしれない)
なにより、少しは肉がついた。
(前はガリガリだった)
半袖から伸びた腕はまだまだ細くて骨ばかりだが、それでも前に比べたらマシかと思う。
ただ、問題点も、あるのだ。
「どうしたのトム、ボーッとして」
「何でもない」
僕は目のやり場に少々困る。
成長するからと言ってワンサイズ大きい服を買ってきた訳でもないのに、ココの胸元はかなり開いている。
浮き出た鎖骨が丸見えだ。
それに、食べる時に犬猫のように皿に顔を近付けるから、胸元まで見えそうになる。
それが、困る。
そういった事にどれだけ僕が淡泊であったとしても、健全な男なのだから気まずい気持ちになってしまうのだ。
けれど、いい加減、困る。
「ココ」
マグカップに口をつけていたココは、口を放して何?と言った。
その口元にはミルクのヒゲ。
思わず笑ってしまった。
僕は長袖に手を引っ込めてココの口元を袖で拭く。
ココは目を閉じて、僕にされるがままに口を拭かれていた。
「ありがとう」
「あまりマグカップを傾けずに飲めばヒゲは出来ないよ」
急いで飲まなければ、とは言わない。
遠回りして言って伝わったかは分からないが、ココは難しいなぁと笑っただけだった。
「ところでココ」
「何?」
「服のサイズ、合ってないよ」
「私の身長にピッタリのサイズだよ?」
「ココは痩せてるから、ぴったりのサイズでも大きく感じるんだと思う」
「そうかなぁ?」
本人も、身長サイズで買ったのに服が大きく感じるのを気にしていたらしい。
服の裾を引っ張って大きいよねと言っている。
それによって胸元がまた広がって、目のやり場に困る。
「だから、服を買いに行こう」
「良いよ。これが私のサイズなんだから」
すぐに却下された。
予測していた分、やっぱりなという気持ち半分、釈然としない気持ちも半分。
ココは食べ物に金を使うのは良いが、服等の装飾品に金を使うのは嫌がるのだ。
けれどそのココの考えを常に通してあげるのは駄目だから、畳み掛けにはいる。
「そんなみずぼらしい格好でうろちょろされたら僕が迷惑なんだよ」
「みずぼらしい?」
「貧しい人みたいって事」
「サイズは合ってるし、綺麗な服なのに?」
「身長のサイズが合っていても服が大きく見えるのはサイズ違いって事になるんだよ」
「そうなのかな」
「そうだよ。それに、サイズ違いはお金が無い人みたいだ。大人がサイズ違いを着ていたらみっともないだろう?」
ココは考えて、それからそうだね、と頷いた。
「それと同じように、子供だってみっともないんだ」
ココはまた考えて、それから唇を尖らせた。
「分かったよ。でもこの服は、大きくなってからじゃ着れないんじゃないの?」
「そうなるね」
身長が伸びたら、その服はもう着られない。
けれど、ココは身長が伸びるより、内臓や体の基礎に栄養が回るだろうから、暫くは身長が伸びないと思う。
だから、今着ている服も、また袖を通す事になるだろう。
大きくなりたがっているココには気の毒だから、言わないけど。
「分かった。服が着れなくなったら売りに行く」
「売る?」
「古着屋に売りに行くんだよ。私みたいな奴に優しい服屋さんがあるから、そこに売りに行く」
そう言って、立ち上がる。
そうと決まれば早いという事だろうか。
けれど僕はまだ朝食を食べている。
パンをちぎって口に入れると、ココは僕を凝視して、それから座った。
忙しないね。
「トム、食べるの遅くなったね」
僕をジッと見ながら、ココは言った。
今更気付いたの?と言うと、前から気付いていたよ、と言われる。
減らず口は相変わらずだ。
そこもまた良いと思えてしまうから困る。
「ゆっくり食べる事にしているんだ。消化にも良いからね」
「へぇ」
消化にも良い、という言葉にココは反応を見せた。
健康に気を遣う様子が垣間見えて、安心する。
ココには健やかでいて欲しいと思うのは、親心というやつだろうか?
よく分からない。
ただ、大事にしたいと思うんだ。
食事を終えて、身仕度をする。
ココは相変わらず、この間会った時に着ていた服を着ていた。
上品だし、可愛いと言えば可愛いけれど、着たきり雀じゃないか。
ココがこれを買った理由もお気に入りだからとかではなく、周りの大人に見下されない為。
もう僕と住み、家があるココはもうストリートチルドレンではない。
だから、虚勢の為だけに買った服なんて捨ててしまいたい。
そうだ。
今日は可愛い服も買おう。
そして、今ココが着ている服を捨ててしまおう。
そんな考えを僕が持っているとは露知らず、ダイアゴン横丁に辿り着くとココは僕の手を握った。
それは、ダイアゴン横丁が混んでいるから。
小さなココはすぐに人混みに埋もれてしまうから、混雑する所に行く時はよく手を繋いでいる。
特に会話もなく歩き出すのもいつもの事だ。
服屋に着いて、ココに買いに行かせる。
僕は店先で待つとしよう。
「あれ、トムじゃねぇか」
ぼんやりと切り取られた空を見上げていたら、声をかけられた。
見れば、学校の知り合い。
せっかくの夏休みに学校の奴に会う事ほど、気分が萎える事はない。
「お久しぶりです、先輩」
慣れた笑顔を浮かべる。
夏休みの間にまで、こんな風に笑わなくちゃいけないなんて億劫だよ。
「なぁ、お前最近小さい女と一緒にいるんだって?」
小さい女と言われて、すぐにココだと分かった。
誰かが僕とココが一緒にいるのを見て、すぐに噂を流したのだろう。
そうなるだろうと思っていた分、慌てる事もない。
「それは僕の妹です」
「は?妹?お前、妹いたっけ?」
「いますよ。言わなかっただけです」
「あ、そっか。何だ……」
何だ、という言葉に笑いそうになるのを必死に堪える。
女子は僕の恋人になろうと日々必死だ。
そのせいで、女子は他の男に目を向けない。
つまるところ、男にとって僕は、女子を奪う嫌な奴でしかないのだ。
相手は確かめたい事だけを確かめて、さっさと人混みに姿を消す。
くだらない奴だった。
僕は店に入って、ココを探す。
ココは僕を見つけて、僕のほうに寄ってきた。
その手には、機能性を重視している服が二着。
「これだけ?」
「気に入ったのはね」
多分それは本心。
ココはあまり装飾品に興味がない。
だからいつも機能や実用性を見ている。
けれどそれだけでは、ココが今着ている服の代理が無い。
それは困る。
先程見た服を思い出して、そこにココを連れていく。
「どこ行くの、トム」
「ココに似合う服を見つけたんだ」
ココは面倒臭そうな声を出した。
おおよそ、もう服はいらないのに、と思っているのだろう。
成長したら服は着られなくなる。
だから、今の体にピッタリなのは二着だけ買う事にして、上手く生活するつもりだったに違いない。
「これとこれ」
二着を選ぶ。
ココの体に合うサイズを選んで、ココに渡す。
ココはまず値札を見て、どちらも高いと言った。
(こういう時、ココに算数を教えなければ良かったと思う)
「良いから着てみて」
「着たら買うって言うんでしょ」
「分かってるなら試着しなくて良いよ。買うから」
「それを無駄遣いって言うんだよ」
「必要経費さ」
ココに財布を渡す。
四着を抱えたココは何か言ってきたけれど、僕に口で敵うはずも無くて、渋々と買いに行った。
これで良い。
ココが見下されない為にと買った服を捨てて、虚勢も何も無い服を着させられるのだ。
そうなれば、もう昔を思い出す必要もない。
僕もココも、孤児であった事を忘れてしまえたら良い。
会計に行ったココが戻ってくるのが遅くて、レジに目を向ける。
そこにはココが居なくて。
何処に行ったのだろう。
勝手に服を決められて怒って姿を消したとか?
まさかね。
ココの帰る場所は僕の所しかないんだから、戻ってくる他ない。
そうは思うけれど、不安が胸に押し寄せてくる。
ココは野良猫だ。
嫌になって、ストリートチルドレンに戻る可能性もある。
そんな事、無いとは言いきれないから嫌だ。
「トーム!」
突然後ろから体当たりされる。
背中にぶつかる頭。
声がココで安心するなんて、情けなくて嫌だ。
振り返らないでいると、トム?と再度名前を呼ばれる。
「遅かったね」
そう言って振り返って、驚く。
ココは服を着替えて戻ってきていて、思わず目を見張る。
「可愛いでしょ」
そう言って立つ姿は腰に両手を当てた仁王立ち姿。
何処かずれている。
「可愛いって言うなら立ち方を変えるべきだよ」
「トムに可愛い子ぶっても意味ないじゃん」
「まぁそうだけどね」
ココは笑う。
その笑い方が悪戯っぽくて、本当に服装と中身が不一致だ。
でもそれがココらしい。
「行こうか」
「うん」
ココの荷物を持つと、トムは紳士だねと言った。
何処でそんな言葉を覚えたのだと訊ねれば、ココは女子の話を耳に挟んだのだと言う。
「荷物を持つ男の人は優しくて紳士なんだって」
「僕が優しいのは今更だろう?」
「あはは、そうだね」
フワフワした服で、ニコニコ笑いながらココは言う。
ああもう、君はどうしてこうなのかな。
いつもは野性っぽいのに、見た目だけならすぐに女の子にもなってしまう。
「行こう」
手を差し出す。
ココはいつものように、すぐに手を握ってきた。
その手を握り返す。
何でだろう。
今、凄く幸せだ。
〜戯言〜
ナツミ様から頂いたリクエスト『同居ENDでラブラブ』で書かせていただきました!
リクエストありがとう御座います!
ラブラブさせちゃうぞー!と思って書いたのですが、ヒロインに対する恋愛感情に気付いていないリドルと、リドルが好きなヒロインの物語になってしまいました。済みません。
無意識のうちに独占欲で自分色に染めたいリドルと、そこら辺まったく分かっていないヒロインのお話でした。
本当に、リクエストありがとう御座いました!
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