ハリポタ 人を愛した死神 | ナノ
act.37 疑惑
温かいシャワーを浴びると、髪で固まっていた血が溶け出したのか、流れていく水が鉄臭く、そして赤色に染まっていた。
洗っても洗ってもごわつく髪の毛にイライラしながら何度目かのシャンプーをして、洗い流す。やっと赤く染まらなくなった水にホッとして、体を洗ってから湯船につかると、肺の中に溜まっていた空気が抜けるようだった。
ああ、疲れた。
絶対に撃たれたと思っていたキリーが打撲痕こそあれども殆ど無傷で、けろっとしている。なにより男を盾にしたという話がやっぱり信じられない。
だってあの細腕のキリーが、男を身動き取れないようにして盾にできるのか?
いや、僕を抱っこしていた事もあったからそんなに弱い訳でもないとは思うけれども。
それでも、やっぱり『ありえない』の感情が先行する。
何を聞いてものらりくらり躱されるだろう。
これからどうすれば良いのか。生きた人間を盾にして殺し、息のある人間の首を踏みつけて殺したキリーと一緒にこれからも生活するのかと思うと頭が痛くなった。
アイツは僕にとっては無害だ。全くと言っていいほどに。
けれども敵とみなした相手には容赦しない性格のようだ。実際容赦しなくて殺していて、しかもそれを一切悪びれることもないんだから鋼の精神だろう。
そういう性格の奴が僕の味方になっているのはラッキーだ。でも同じ屋根の下に住み、寝食を共にするのは気が乗らない。
いつアイツが僕を『敵』とみなすともしれないんだ。僕には特別な力があって、アイツが僕を脅威だと感じた瞬間、『敵』になるかもしれない。
当然アイツ相手に僕が負けるとは思わない。だって僕は特別な力を持っているのだから。
けれど、食事に毒を盛られたり、寝首を
かれたりしたら?
そういう手はずを踏まれては、僕が助かると思えない。……相打ちくらいはするけども。
今一度僕にとってのアイツの立ち位置を考える。
養母。それは間違いない。衣食住を安定させるに必要不可欠な存在だ。追加で、今は勉強や教養にも投資させているのか。
でもそれらすべては金銭的なもののように思う。では、お金さえどうにかすれば、アイツに頼る必要などないのか?
そうだ、学校も寮生になれる場所だと言っていた。家からも通えるけれども、寮に住めばアイツと関わる事もなくなる。そのほうが安全かもしれない。
今日の今日にいきなり寮生になりたいと言ったら怪しまれるだろう。懐いていたと思っていた養子が逃げようとしている事に気付いて『敵』認定されるかもしれない。
そうなったら困るから、しばらくはアイツに好かれる僕のままでいよう。
「お風呂から上がったね。髪の毛を洗うの大変だったでしょう。お疲れ様」
何故かリビングへ続く扉を閉めたキリーは、やたらと僕をねぎらってきた。
「キリーも入ってきなよ」
「うん、あとでね。トムは部屋のデスクに、警察が買ってきてくれたサンドウィッチとジュース、それからホットミルクを置いているから、夕食はそれで今日は許してね。どれも冷めているかもしれないけれども」
その言葉に、ああそういう事か、と納得する。リビングへの扉は閉められていて、まだ片付けている最中なのだ。とても食べられる状態ではないのだろう。
僕に直接三階に行けと、そう言っているのだ。
僕だってこれ以上生臭い空間はごめんだ。
「じゃぁ、おやすみ」
「うん。おやすみ。歯を磨いて寝るんだよ」
いつもと変わらない会話をして、僕は部屋に戻る。
キリーはリビングに戻ったようだ。きっとカーペットや床、家具に至るまで拭き取らなくてはならないのだろう。
手伝えと言われなくてよかった。あんなの触りたくもない。
机に置かれたマグカップを一瞥する。膜が張っているホットミルクだったものは、きっと冷め切っているだろう。お風呂上がりで喉は乾いているけれども、惨状後のリビングで作ったホットミルクを飲む気にはならなかった。
警察が買ってきたというサンドウィッチは、適当な店で、こんな時間まで売れ残っていたからだろう、とても食欲をそそる物ではなかった。ジュースだけを胃におさめる。
階下からは物を動かしたりする音が聞こえる。きっとキリーがお風呂に入るのは明朝になるだろう。もっと後かもしれない。
家具はどうするのだろうか。お風呂に入る前に見た時、一部押収されていて家具は減っていたように見えた。拭いて使用するのだろうか。捨てるにしては大きな荷物だ。一人では捨てられないだろう。
布団に寝転がる。
眠気なんて一切ないけれども、何もする気が起きなくて横になるしかない。
床をブラシで洗っているのか、ジャッ、ジャッという音が小さく響いている。重労働だろう。僕が特別な力を使えば簡単に綺麗になるかもしれない。
もちろん、キリーに特別な力を教える訳にはいかないから、そんなことしないけれども。
それに僕にとって全くメリットないし。
目を閉じて、じっとする。掃除している音がうるさくて耳を塞ぐ。
早く掃除を終えてくれないかな。
結局眠れなくて、頭が痛い。
それでも、意地でも階下に行かないでいたら、来客があったのか騒がしくなった。
なんだ?
扉を開けて階下を覗くと、二階のソファやローテーブルが運び出されていく。続いて食事をしていた机と椅子。そして最後にカーペット。
その後また男たちが雑巾やモップ、バケツを持って階段を上り、リビングに入っていく。
上から見ていると、リビングからキリーが顔を出した。
「ごめんね朝からうるさくて」
「……何しているの?」
「リビングを掃除してもらっているんだよ。掃除が終わってから、朝食を外で食べようと思っているのだけども良い?」
「良いけど……掃除する人達をいつ手配してたの」
「昨日警察官に頼んでおいたんだよ」
抜かりないな。
早朝から清掃に来てくれたらしい男たちは、いったいどんな仕事をしているのだろうか?
「降りていい?」
キリーは一度リビングを見て、それから五分後くらいには、と答えた。まだ血が付着しているところがあるようだ。
顔を洗って歯を磨いて髪を整える。それから時間をかけて服を着替えたけれども、もう少し時間をかけようと思って10分経ってから降りると、男三人が清掃中の、がらんとしたリビングがあった。
「……」
「朝食を食べたら家具屋に行って、テーブルやソファを選ぼうね。それらが届くまでは一階のソファとローテーブルで食べるか、自室のデスクで食べてもらうことになるよ」
「分かった」
家具、そのまま使うのか、捨てるのかどっちだろうと思っていたけれども、捨てる派だったのか。
まぁ、気持ち悪いか。他人の血が付着した家具なんて。
「ありがとうございました」
キリーは清掃業の男たちに金銭を支払って、見送る。
「さて、朝食を食べに行こうか」
「うん」
昨日の夕方からろくに食べられていないから、お腹が空いてたまらない。
- 37 -
[
*前
] | [次#]
←
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -