その他夢小説 | ナノ
act.02
あれ以降、彼が戦いに駆り出されない限り、私の席は常に奥から三列目だ。
オモチャ箱
「今回は遅かったわね」
「読むのに四日もかかりました」
「最終巻だけ他の倍の厚さだものね。私なら一週間はかかるわ」
尤も、私は冊数を見ただけで読まないけれど。そう言って女性は笑った。
貸し出しカードにスタンプを押してもらい、元の本棚まで行く。
梯子を登って本を戻し、同じ著者の本を見る。
読んだ事が無い他の本は、短編集だ。
三冊を前にして、少し悩む。
どれも同じくらいの厚さ。
一冊を手に取り、その場でエピローグを読む。
内容はオモチャ箱を開ける時のようにわくわくするもので、続きが気になって席に行く時間も勿体無い気がして梯子に座って本を読む。
それに今日は雨だ。あの席に座っても日の光を感じることは出来ない。
幸い今日は遠征があって人もまったく居ないから、梯子を貸せと言う輩も存在しない。
私はそのまま読み続けた。
確実に私は本の世界に入り込んでいたのだと思う。
来客に気付きもしなかった。
「ねぇ」
声をかけられて、ようやく現実に視線を向ける。
梯子の上に居るから左右を見ても誰も居はしない。
下を見れば、今は遠征に行ってるはずのあの少年。
訝しげな表情で見られる。
「いつまでそこに居座るつもり?」
「ああ、済みません」
梯子を使いに来たのか。
私は本を棚に戻して、急いで梯子を降りようとする。
「別に降りなくていいよ。これをそこに返してくれれば」
そう言って私に渡してきたのは一巻。
私は重いそれを受け取って元の場所に戻す。
「二巻、読みます?」
「当たり前だろ」
二巻を手に取り、彼に渡す。
彼はわざわざ遠征の後、本を持って図書館まで来たのか。
疲れを知らないのだろうか。
「この本、好きなんですか?」
「……嫌いなら読まないよ」
彼はそれだけ言って、私に背を向けて奥の席へ向かう。
私は先程返ってきた一巻を開いて、貸し出しカードを見る。
私の名前の下に綺麗な文字で『ルック』と書いてあった。
これが彼の名前。
名は体を表すという言葉に納得する。
なんとも綺麗な名前だ。
私は先ほどまで読んでいた本を手に取り、梯子を降りる。
外の雨はすでに止んでいて、空は橙朱に染まっている。
奥の席に向かう。
夕日に照らされて読むのも良いだろう。
この本を読み終わったら彼が読んだ本を探してみるのも良い。
同じ趣味のようだし、きっと私も気に入るだろうから。
私は夕日を背に受けて座った。
彼は私をちらりと見て、すぐに視線を本に戻す。
夕日を正面から受ける彼の姿は、オモチャ箱よりも魅力的に感じた。
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