その他夢小説 | ナノ
act.01
第一印象は『他人』。
つまりはどうでもいい人。
本巡り
放浪人の私が此処に長居する理由は本が読みたいから。
ただそれだけのこと。
「おはよう御座います」
「あらおはよう。今日も早いわね」
「えぇ、この本の続きが読みたかったので」
「もう読んだの?まぁ、一日中図書館に居るものね」
返す言葉も見つからずに苦笑して、貸し出しカードに返却済みの印を押してもらう。
本を元の場所に返して七巻を手に取る時、ふと、一巻が無いのが目に付いた。
「……」
一冊一冊が分厚い上に、梯子を登らないと手に取れない本。
私は偶然見つけられたから借りたのだが、他にもそういう人が居たのだろうか。
今までは居なかった。
貸し出しカードの最初はすべて私だし、本には折り目がついておらず、上には埃が積もっていたのだから。
借りた人が誰なのか少し気になったけれど、それは返ってきた一巻の貸し出しカードを見れば分かるだろう。
今考えを巡らせたところで意味がないと思い、梯子を降りていつもの席、最奥南側の席へ向かう。
日当たりが良く、人も滅多に来ない最奥南は静かで本を読むには最適な場所なのだ。
本棚を抜けていつもの席が見えて、あれ?と小首を傾げた。
此処の図書館は不思議な構造になっていて、三列の向き合う席があったら本棚が三列あるというようになっている。
三列ずつ隔離された空間。
最奥の三列に人が居たことは、私の記憶上無い。
しかし今、私がいつも座る席に先客がいる。
なんでまた私の席に。気に入った場所を取られるのは嫌なものだ。
お気に入りの席を陣取っている名前も覚えてはいない、いつも石版の前に立ってる少年への印象は悪くなる。
気紛れで此処に来たのだろうか。
ならば、早く帰っていただきたい。
どれくらいで席を立つのか知るために彼が読んでいる物に目を凝らせば、分厚く、表紙を覆う皮は私が持っている最終巻と同じだった。
見覚えのある本。
一巻だ。
若い人がこんなマイナーな作者を知っていることに驚いた。
私は以前、旅の途中に寄った街で短編集を読んでこの作者を気に入った。二週間前にこの城に来た時に偶然見つけて、今こうして本の虫になったとでも言うように長編を読んでいる。
私は南側の、奥から三列目の席に座る。
少年は活字を目で追っている。あまりにも古い本なので、彼は時折辞書を引いていた。
七巻まで辞書を片手に読むのだろうか。辞書を引かずに一日中読んだとしても、早くて二日はかかるのに。
何となく少年が気になった。
常に私はこの隔離された空間に一人だったのだけれども、今は時々聞こえるページを捲る音や、辞書を開く音に気が傾く。
それはきっと、私の好きな場所で私の好きな本を読んでいる少年に興味があるから。
趣味が同じ人を見つけた時の嬉しさとでも言えばいいのか。
上手く表現出来ないけれど。
私も本を開く。
日の光が差し込む世界。
時折聞こえる私でない人が出す音を聞きながら、本の世界に入っていった。
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