デスノ 跡継ぎ 番外 | ナノ
お揃い
ぴゅうと風が吹き抜けると枯葉が舞い、前を歩く大人は肩をすくませた。
Lと繋ぐ手もやはり冷えていて、今日手袋を忘れたのは失敗だったなと思う。
ほんの少し、近くの雑貨店に足を運ぶだけのつもりだったのだ。その筈が、目的の物のサイズがなくて別の店舗に足を運ぶことになってしまった。
出かけた時は太陽が高いところにあって暖かったのだが、帰る時には傾いた陽射しが眩しく、しかも風が吹きだしてしまった。
「ワイミー、使ってくれるでしょうか?」
寒い寒いと頭の中まで寒さに侵食されていた私の耳に愛らしい声が聞こえて、横を歩く小さな頭を見下げる。
「きっと使うよ。ビショップからのプレゼントなら、とても喜ぶさ」
「…それなら良いのですが。でも、趣味ではないかもしれません」
「ふふ。ワイミーは割とお茶目だからね、こういうのも好むんだよ」
「本当ですか?」
チラリと髪の間から見上げてくる大きな瞳は夕焼けに当たって少しオレンジが差してある。
「帰ったら分かるよ」
帰るまでが不安なんです。と小さく言うLに、頬が緩む。気持ちを言葉で伝えてくれるのがこんなに嬉しいと思うことがあるだろうか?
小走りで道行く人達を眺めながら私たちも家路について、門をくぐって、玄関を開ける。
「ただいま」
「ただいま」
玄関を開けると温かい空気が頬を撫でてくれて、帰ってきたのだとホッとしようとした時、目の前が一瞬で濃霧の中にいるようになった。
何事か、と一瞬考えて、ああメガネか、と納得する。
「おかえりなさい、ケイ、L。ああ、ケイ……」
「?…っ!」
鞄を漁ってハンカチを出そうとしていると、手をトントン、とつつかれる。
「メガネ拭きですよ」
「ああ、ありがとう」
メガネを外して、渡されたものでメガネを拭く。
「外が寒かったのですね」
「とてもね」
メガネからくもりを取って、かけ直す。メガネ拭きをワタリに渡す私をLが見上げていて、どうした?と問えば、首を振られる。言葉が飲み込まれてしまったのだと分かって、けれどこれ以上の追求も出来ず、早く温かいリビングに行こうとしか言えなかった。
そう、今この家の床暖房は壊れてしまって機能していないのだ。本来ならば、家の中で何かが故障したら別の拠点に引っ越して、見られてはいけない物を全て移動させた後に修理を依頼するのだが、今はLが居るからそれもやりづらい。
仕方がないので自分で修理をしようと思ったのだが、部品の入手が2週間後になってしまったのだ。それまでは冷たい床に堪えなくてはならない。
靴を脱いで足早に洗面台で手を洗い、リビングに向かう。
リビングに入ると、温かい空気にLがほう、と吐息を吐いた。
そして、腕に下げた紙袋に視線を向けている。いつ渡せば良いかを考えているのだろう。ワタリも目に見える荷物に一言も言及しないのだから、少し意地悪だ。
「ワタリ、Lはワタリに渡したい物があるようだよ」
「渡したい物ですか?」
お茶を淹れようとリビングに立っていたワタリがこちらに来る。Lは私をチラリと見た後、紙袋の中から一つだけプレゼント用に包装された物を出した。
「あの、これ。良かったら使ってください。ケイと私で選びました」
はっきりとした声で伝えられたことに少し驚く。
ワタリは感謝を言って袋を受け取り、中身を確認していいかを訊いてきた。
Lは緊張なのだろう、首をこくこくと上下させて返事をする。
レジ横で可愛らしい袋にリボンが結ばれていくのを観察していた私たちは、今ワタリの手でリボンが解かれていくのを見る。
Lの目は不安よりも期待に輝いていて、それが私にとっては何よりものプレゼントだと思えた。
「おや、可愛らしい」
「脱げにくいんだ、良いだろう?」
「足裏に滑り止めついています」
「恐竜ですか?」
二人で頷く。ワタリが持っているスリッパは恐竜の足の形をした靴のような物だ。正直に言えば学生が好んで履きそうな物であるし、すぐに中綿の部分はへたりそうでもある。でも、せめて床暖房が直るまでは履いてくれるだろう。
ワタリは早速履いても?と問うてくる。二人で頷けば、全く似合わないのにまじめに履いてくれる。
いや、全く似合わない、は語弊か。私の記憶にある過去のワタリならば『お手伝いという立場だから主人から渡された物は嫌であろうと身につける』という態度であったから、似合わない物は全く似合わなかったのだが、今のワタリは少し頬を綻ばせている。
その柔和さが、ちょっと子供っぽいスリッパすらも似合うように見せてくれる。
「どうですか?」
「似合ってるよ」
「格好いいです」
「ありがとう御座います、ケイ、L。ところでお二人のスリッパはないんですか?」
「あるよ」
Lは突然電源が入ったかのように動き出して、紙袋から二つのスリッパを出した。私とLのスリッパだ。
私はワタリと同じようなスリッパで、ライオンの足。
Lは子供サイズなので似たようなのはなく、少し踵が高くなったパンダの顔が描かれているスリッパになった。まぁ耳と尻尾は何故か立体で作られているので、少し私やワタリと同じ雰囲気になっているのだが。
「お揃いですね」
「良いだろう?」
「ええ、勿論。お二人もお似合いです」
これで床も寒くないとワタリは微笑みながら言い、再度Lにお礼を言っている。
そう、これはLがお小遣いの中で購入した物なのだ。
少し前に、クリスマスはまだ先だけれども、何かをプレゼントをしたいと言われた。とは言え、欲しい物は自分で購入出来てしまう大人の我々は欲しい物がない。ちょっと良い茶葉等も考えたが、Lは残る物を送りたいだろうと思えたので飲食物は除外した。
そうなると、欲しい物は本当にない。元々必要最低限しか持たない人間だから、物欲も無い。
そんな時に床暖房が故障したので、それならばスリッパはどうか?という話をしたのだ。それで今、私たちはスリッパを履いているわけで。
「思ったより温かいな」
「本当ですね」
Lも脱げにくいスリッパに満足したのか、カーペットの上をペタペタと歩いている。
慣れないスリッパに、歩き方がペンギンのようになっていた。
ワタリを見れば、ほぼシューズのような形だからだろう、ワタリはスタスタと歩いている、
しかしその足元が恐竜なのが面白い。
「ケイも十分面白いですよ」
足元を見ていたせいか、上半身だけこちらを振り返っていたワタリに指摘されて、心を読まれてしまったなと笑う。
笑い声に反応したLがパタパタと此方にやってきて、どうしたのかと問うてきた。
しゃがんで目線を合わせて、Lの頭を撫でる。
「みんなの足元が暖かくなって良かったなぁと思っていたんだよ。L、素敵なプレゼントをありがとう」
Lは目を細めて、はにかむように笑った。
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