「ちょっと、記憶細胞さん…記憶さんってば、聞いてます!?」
呆れたようなB細胞の声が耳に届き、それまで考え事をしていた記憶細胞はようやく我に返った。気付けばB細胞は記憶細胞の目の前で腕を組んで仁王立ちしているではないか。理由は分からないが何やら不機嫌そうな表情のB細胞に記憶細胞は目を瞬かせ、「ど、どうした?」と問い掛けてみる。
「どうしたもこうしたもないっすよ! さっきから抗原の記憶もせずにずっと上の空じゃないっすか!」
「そ…そうだったか?」
「もう…赤血球くんが気になって仕方がないのは分かりますけど、しっかりしてくれないと困るっすよ!」
「はっ!? きっ、きき気になる!? 俺はそんな事を言った記憶なんてないよ!」
B細胞の言葉に分かりやすく真っ赤になって狼狽える記憶細胞に、B細胞は「言われてなくても見てれば分かりますよ…アイツの前で態度おかしいし」と溜め息を吐いた。記憶細胞は「なんてこった…俺、そんなに分かりやすかったのか」と頭を抱えている。
「そんなに気になるなら、散歩にでも誘ってみたらいいんじゃないっすか?」
「そんなの出来るわけないだろ…」
「…あーもう、仕方ないっすね。オレが協力してあげますから、赤血球くんを散歩に誘ってみましょうよ。このままだと抗原の記憶も捗りそうにないですし」
「えっ!? B細胞くん!?」
半ば強引に記憶細胞を引き摺るようにして部屋から出ると、B細胞は自分の友人でもある新人の赤血球を捜して体内を歩き回る。やがて配達中らしい赤血球を見つけたB細胞は勢いよく記憶細胞の背中を押し、自分は物陰に隠れた。
「ちょ、B細胞く…うわっ!?」
「わ、ビックリした。…あれ、記憶細胞さんじゃないですか」
B細胞に押されて赤血球の前へ飛び出してしまった記憶細胞は、顔を真っ赤にしてあわあわと慌てる事しか出来ない。そんな様子のおかしな記憶細胞に、赤血球は「どうもー」といつもと変わらぬ笑みを浮かべて軽く会釈する。記憶細胞は助けを求めるようにB細胞を振り返ってみたが、B細胞は口パクで"ガンバレ!"と言ってくるだけだった。
「協力してくれるって言ったのに嘘だったのか、B細胞くん…!」
「B細胞くんがどうかしたんですか?」
「あ、ああ、いや…何でもないさ」
「そうですか。それじゃ、俺そろそろ仕事に戻りますね」
引き止めたかったが、仕事の邪魔をするわけにもいかない。と心の中で言い訳をして、記憶細胞はそのまま立ち去ろうとする赤血球を黙って見送ろうとした…のだが。その赤血球の前に今度はB細胞が飛び出してくる。
「おわっ…今度はB細胞くんか。どーも、こんにちは」
「赤血球くん、今は二酸化炭素運んでるとこだろ!?」
「え、うん。そうだけど…なに、急に。それがどうかした?」
「それなら、途中まででいいから記憶細胞さんの散歩に付き合ってやってほしいんだよ! ちょっとだけでいいから!」
二酸化炭素を運んでいるのならそこまで急いでいるわけではないはずだ。B細胞はそう考え、赤血球に必死に頼み込む。変な頼みだとでも思ったのか、赤血球は不思議そうな表情を浮かべていたものの、「まあ、別にいいけど…」と頷いてみせた。その言葉に反応したのは記憶細胞だ。「い、いいのか!? 本当に!?」と驚きと嬉しさが混じったような顔で赤血球を見つめている。
「ええ、構いませんよ」
「良かったっすね、記憶さん!」
「ああ…!」
「何が良かったのかはよく分からないけど…じゃあ行きましょうか、記憶細胞さん」
赤血球がニコッと微笑みかけると、記憶細胞は視線を泳がせて小さく頷く。それから並んで歩き始めた二人の背中を眺めながら、B細胞は"赤血球くんは先輩の赤血球にしか興味ないみたいだし、記憶細胞さんはヘタレだし…多分何の進展もないんだろうなぁ"と考えていたのだった。
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リクエストBOXより
・『はたらく細胞』で、知識有り転生チートな赤血球の男主攻めで、赤血球ちゃんが大好きであり道を覚えることが好き(方向音痴にならない)。赤血球男主は大好きな赤血球ちゃんを狙ってくる細菌には容赦なく倒す。記憶細胞に好意を持たれているが男主は赤血球一筋であり興味がないが白血球達に対しては「お疲れ様です」や「細菌を倒してくれてありがとうございました」と心からお礼を言う。白血球の4989と記憶細胞寄りを希望。
・赤血球男主で、他の細胞達から興味を持たれるが男主は赤血球ちゃん一筋なので他の細胞達には興味がない話。
・赤血球男主で、記憶細胞から好意を持たれているが男主は大好きな赤血球(AE3803)のことしか考えていないのでB細胞は記憶細胞に協力する話。
・はたらく細胞で、『赤血球(AE3803)先輩、大好きです』の男主(攻め)で記憶細胞との絡み。
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