「はあ…」
「なーに溜め息吐いてんのさ、ソラちゃん」
公園のベンチに座ってぼんやりしていたらそんな声と共にわたしの隣へ誰かが腰掛けた。チラッと横目で確認してみるとそれは仲間の八乙女だった。八乙女はヘラヘラ笑いながらこちらを見つめている。相変わらず悩みの一つもなさそうなバカ面だなあ、なんて失礼な事を考えながら「なんだ、八乙女かあ」って残念そうに呟いた。
「何だとは何よ、ソラちゃん。つーか、何かあったんでしょ? オレが話聞いてあげるよ?」
「べっつにー? 何でもありませーん」
「またまたぁ、本当は何でもなくないくせに強がっちゃって! ソラちゃんにそんな暗い顔は似合わないぜ?」
「好きでこんな顔してるんじゃないもん」
プイッとそっぽを向いてわたしはまた溜め息を吐く。わたしは八乙女の事がちょっぴり苦手だ。コイツは人が踏み込んでほしくない事にまで無遠慮に首を突っ込んできたりするし、何かとちょっかいかけてくるし…正直、かなり鬱陶しいと思ってる。特に今みたいに落ち込んでる時に絡んで来るのは本当にやめてほしいんだけどなあ。
「もしかしてさ、また大将にフられたとか?」
ほらね、こういうデリカシーないところが嫌なの。…わたしが暗い顔してる理由は当たってるけど。八乙女の言う大将…黒田ユメヲにわたしは恋をしている。でも、その恋は残念ながら報われそうにない。わたしがどれだけ必死にアプローチをしてもユメヲには冗談としか受け取ってもらえないんだ。わたしは本気なのに。本気でユメヲが好きなのに…。
「…ユメヲがね、"大人をからかうな"だってさ。からかってなんかないんだけどな。わたしは本気なのに、どうして信じてもらえないんだろ」
わたしが子供だからダメなの? もしもわたしが大人だったら…ユメヲと年の差なんてなかったら、ユメヲもわたしの事をちゃんと相手してくれたりしたのかな。女として見てもらえたのかなあ…。そんな事を考えたって仕方がないのにね。何だかどうしようもなく虚しくなって、悲しくなって、八乙女の前だっていうのに涙が出そうになってしまう。ダメだダメだ、こんな奴の前で泣いたらバカにされるに決まってる。服の袖でぐしぐし涙を拭ったら、その手を八乙女にやんわり掴まれた。
「そんな強く擦っちゃダメだろ?」
「…関係ないじゃん、八乙女には。放っといてよ」
「カンケーあるから。好きな子泣いてたら放っとけないっしょ」
「は…?」
…好きな子? え、わ、わたしが? びっくりしすぎて涙も止まっちゃった。わたしが目をパチクリさせて八乙女を見上げたら、八乙女はニッと口角を上げてわたしに笑いかけてくる。それから八乙女はわたしの頭をぽんぽんと優しく撫でてきた。
「なあ、ソラちゃん」
「な、なに…?」
「これ以上ソラちゃんが傷付く顔見たくないから、大将やめていっそオレにしない? オレなら絶対にソラちゃんを泣かせたりしないし、ソラちゃんを毎日笑顔にさせてやるよ」
「…そういう冗談、嫌い」
「冗談じゃないって! オレ、かなり本気よ?」
八乙女はそう言うとわたしの頬に手を添えて、額にちゅっとキスをしてきた。突然の事に理解が追い付かない。わたしはユメヲの事が好きだし、八乙女の事は苦手だった。…それなのに、何で八乙女相手にこんなにドキドキしてるんだろう。
「わ、わたしはユメヲが好きなの! そう簡単には諦められないもん…」
「最初は大将の代わりでもいいからさ、付き合おうよ」
「代わりって…そんなの、八乙女にも失礼じゃんか」
「付き合ってるうちに"オレじゃなきゃダメ"ってソラちゃんに思わせてやんよ。だったら問題ないっしょ! …で、どうする?」
"どうする?"って言われても、どうしたらいいかなんて分からないよ。まだ混乱してるのに。グラサン越しに八乙女に真っ直ぐ見つめられて、わたしは「か…考えとく…」って言葉を喉から無理矢理絞り出すので精一杯だった。
--
リクエストBOXより
サイケまたしても*八乙女/女主/年の差のあるユメヲに片想いする年下夢主がユメヲに積極的にアプローチするも「大人をからかうな」と本気にしてくれず、悩む夢主を見かねた八乙女が「これ以上お前が傷付く顔見たくないからいっそ俺にしない?毎日笑顔にさせてやるよ」みたいな感じで口説く話
prev / next