「人間、何であんな事をしたんだ??」
パピルスにアンダインの槍で負った掠り傷の手当てをしてもらった後(首を大袈裟なくらい包帯でぐるぐる巻きにされた)、パピルスは真剣な眼差しでそう問いかけてきた。ぼくが何の反応も示さずにいたら、パピルスは話を続ける。
「俺様、今の人間を放っておけないのだ…さっき、アンダインの槍に自分から突っ込んでいっただろう? あんな危ない事をしては駄目だ! 怪我をしてしまうからな!!」
怪我をするというか、死ぬつもりでアンダインに近付いたのだけど。それを知らないパピルスはぼくに長々と注意をし始める。しばらくその注意を黙って聞いていたら、家の外に通じると思われる扉が開いた。
「ああ、お前さん起きたんだな。…包帯が増えたようだが、また怪我でもしたのか?」
そこからサンズが入ってきて、彼はぼくの首に巻かれた包帯を見て首を傾げてみせる。
「サンズ、何処へ行っていたんだ!? さっきアンダインに人間の事がバレて大変だったんだぞ!!」
「その怪我はアンダインにやられたのか?」
「やられたというより、人間が自分から突っ込んでいったという方が正しいだろうな! 今、その事について人間に指導をしていたところだ!!」
「…自分から突っ込んでいった?」
パピルスの説教という名の注意が再開されたけれど、すぐにサンズがそれを遮るようにしてぼくに話しかけてきた。
「なあ、ちびっこ」
「サンズ!! 今は俺様の指導の途中だぞ!!」
「俺の用事はすぐに終わるさ、兄弟。…ちびっこ。お前さん、もしかして死にたいだとか思ってるんじゃないだろうな?」
サンズのその言葉を聞き、ぼくはゆっくりと顔を上げて彼に視線を向けた。サンズは何を考えているのか分からない笑みを貼り付け、ぼくを見つめ返す。
「ニェ!? な、何を言っているのだ!? そんなわけがないだろう!! そ…そうだよな、人間…?」
パピルスが不安そうな顔をしてぼくの顔を覗き込んでくる。何故パピルスがそんな悲しそうな顔をするのか、ぼくには分からない。ぼくは静かにパピルスから視線を逸らした。
「に、人間…まさか、そうなのか? サンズの言う通り、本当にそんな事を思っていたのか…?」
「…」
「駄目だ!! そんな事、俺様が許さないぞ!!」
「何か考えでもあるのか、兄弟。このちびっこは放っておいたらきっと町から出て先へ進むだろうよ…恐らく、死ぬ為にな。お前の部屋にでも閉じ込めておくつもりか?」
冗談混じりのサンズの言葉に、パピルスは「か、考えくらいある! 俺様はグレートパピルス様だぞ!?」と視線をあちこちに泳がせながら言う。「何も思い付いてなさそうだな」とサンズがボソッと呟いたのが聞こえた。
「ええーとだな…ん? 待て、サンズ! 今何て言った!?」
「今? …"何も思い付いてなさそうだな?"」
「違う! それよりも前だ!!」
「"包帯が増えたようだが、また怪我でもしたのか?"」
「戻り過ぎだ! ふざけている場合じゃないだろう!!」
「違ったのか。あー、それなら…"お前の部屋にでも閉じ込めておくつもりか?"」
「閉じ込める…それだ、サンズ! 人間がこの家に住めばいい!! そうすれば、俺様かサンズが人間の行動を見張っていられるじゃないか!!」
名案だとでもいうようにそう提案するパピルス。どうしてそんな考えになったのだろうか。ぼくとサンズは無言で顔を見合わせる。
「あっ、この家で暮らすという事は…人間も俺様の家族になるのか!? ワオ! 俺様に人間の兄弟が出来ちゃうのか!!」
「あー…パピルス? ちびっこが話についていけてないみたいだぜ?」
「ん? 人間、俺様の話が分からなかったか?? つまり、簡単に言えばだな…俺様と一緒に暮らそう、人間! …いや、兄弟!!」
ぼくが、この家で暮らす? この二人のモンスターの兄弟になって…? ぼくが無反応のままパピルスを見上げていたら、パピルスに「よし、決まりだ! 今日からお前は俺様達の弟だからな!!」と勝手に決められてしまった。サンズに視線を移すと「パピルスは言い出したら聞かないんだ。諦めな、兄弟」と、肩を軽く叩かれた。どうやらぼくに拒否権はないようだった。
prev / next