もう、嫌なんだって!奏哉、あんたが居ないなんて。
いくらそう叫んだとしても、あのチューブにつながれた
奏哉には届かない…

あたしは何もできなかった。

「成留?」

「…七瀬、さん?」

 七瀬さんのちいさな手が、頭にのった。

「大切な人がいない事は、小生だって嫌なのだ。」

「七瀬さん?あ、あのぅ?」

「永久でいいっっ! 成留に教えてやろう。“小生”になった理由を。」

 そうして、七瀬…永久がポツリポツリと話し始めた。





 小生は、幸せに暮らしてたのだ。

オカーサンもオトーサンも小生に暖かい笑顔をむけて、

「永久はかわいいなぁ。」 「大好きだよ」っていつもいってた。

でも、あいつは壊しやがったんだよ。

 あいつって誰か…?あいつはあいつだよ。
空の上で胡坐かいて偉そうに座ってるいわゆる、カミサマってやつ?



「なんだよ、この男!」

「会社の部下よ!」

「会社の部下が肩に手ぇまわしてんだよ!」

 オカーサンの浮気。オトーサンとオカーサンの怒声。

前からオトーサンオカーサンを殴る事はたまにあったけど、

今日は殴ったし、蹴ってた。怖いっていう感情を初めて感じた。

「貴方がっ!貴方が私を殴るから!!嫌なことがあるとすぐ殴って!!

私よりも収入も低いくせに威張って。

第一、永久さえ居なければ結婚なんてしなかった!」



 オカーサンが、小生に言った言葉。小生は全身の血が逆流しそうだった。

オトーサンとオカーサンはできちゃった婚で、小生は望まれなかった子供。

知ってたのだ。それくらい……。



オカーサンは出て行った。それからというものオトーサンは仕事を辞め

お酒に溺れるようになった。そして、

「おまえのせいだ!おまえがいなければ俺たちは幸せだった!

おまえさえいなければ!俺は…」

 それから、オトーサンは 狂った。小生はたくさん気の遠くなるような

日々を超えた。見るか?腕に残されたあのころの傷…………。

む、やめとく、か…その方がよい。



 小生がオトーサンからちょっと抜けだして帰ってきたとき、オカーサンがいた。

「永久、ごめんね。あなたは悪くない。ごめんね、ごめんね…」

 足元には、血まみれで倒れたオトーサン。触ろうとした瞬間、オカーサンに

ギュッと抱きしめられた。震える手には、銀色に光るもの。

オカーサンは、小生を家から出させた。
首につけていたクロス(十字架)のネックレスを小生の手に押しつけた。

「逃げて。……愛してる。」

「どうして、ころしたの」

「…」



 オカーサンは何も言わずにドアを閉めた。やがて、炎が上がり始めた。

燃えてく幸せだった家。記憶。オトーサン、オカーサン。

小生が悪いんだ。生まれなければ良かった。誰が望んだんだ。



…そんなことない?何を言ってる、成留。運命は違ってくる。

 空が泣いた日、小生は“小生”になったのだ。

このクロスはもう何の意味を持たない。小生はそれを残り火で、
焼いて、手に押しつけた。

痛みなんてものはないさ。ただ、手にクロスがついただけ。

ただ、残ったのは血のように赤くついたクロスだけ…

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